第1章・第6話 着かず離れず
親というものはどこの親も同じで、我が子をいつまでも子どものように思っている。僕の母などもその一人に漏れない。
民子さんはその後も時折僕の書室へやってくるけれど、よほど人目を憚って気骨を折ってくる風で、いつ来ても少しも落ち着かない。
まったく近付かなかったのに比べれば大きな進歩だが、かくいう僕は臆病になっていた。
2・3日前までの僕なら諸手を挙げて喜んでいただろう。
『お母さんが叱れば僕が咎を負うから遊びにきて』とまで無茶を言ったの僕だったが、民子さんが少し長居をするともう、心配でいてもいられなくなる。
「民子さん、またお出いでよ、余り長く居ると人がつまらぬことを云うから」
民子さんも心持ちは同じだけれど、僕にもう行けと言われると妙に拗出す。
「あレあなたは先日何と言いました。人が何と云ったッていいから遊びに来いと言いはしませんでしたか。私はもう人に笑われても構いませんの」
そう言うと、民子さんは態と肩が触れそうなくらい身を寄せてくる。
困った事になった。
二人の関係が密接するほど、人目を恐れてくる。人目を恐れる様になっては、もはや罪を犯しつつあるかの如く、心もおどおどするのであった。
母は口でこそ、男も女も15・6になれば子どもではないと言っても、それは理屈の上。
心持ちではまだまだ二人をまるで子どもの様に思っているから、その後民子さんが僕の部屋に来ているのを、直ぐ前を通りながら一向に気に留める様子もない。
この間の小言も兄嫁が言うから出たまでで、本当に腹から出た小言ではないのだろう。
母の方はそうであったけれど、兄夫婦やお増などは、盛んに陰口を叩いて笑っていたらしい。
『2つも年の多いのを嫁にする気か知らん』などと村中の噂になっていたとのこと。
それやこれやのことは薄々2人にも知れたので、僕は民子さんに言った。
「少しの間、会うのはやめましょう」
「えぇ、でも……そうですね」
人間の心持ちというものは不思議なもの。
お互いを思い遣った上での相談だったけれど、僕の方から言い出したばかりに、民子さんは塞ぎ込んでまるで元気がなくなり、悄然としてしまったのである。
それを見ると僕もまた、たまらなく気の毒になる。
けれど、民子さんの身を思えば致し方なし。
とにかく2人は表面だけは立派に遠ざかって、4・5日を経過した。




