第3章・第3話 妖の弱み
刃が茂る切り穴から、二つの影が出ずる。
やや、二人で掛かれば、姫の蹴りを躱せるとお思いか。
私は切り穴を囲む娘たちを見遣った。娘たちは刀や薙刀を握り、刃の群れを押し込んでいる。姫の傍には薄が控える。これらを貫くとなると、人の身には荷が重い。
だが、私は二人が持っていた得物に目を奪われた。
「おお、弓か! 小狡いぞ!」
私は肝を冷やしたが、姫は涼しい顔。
「図書之助様、人の弓矢など羽虫と変わりませぬ」
「お、おう、姫は頼もしい……」
「もっと、頼ってほしいものですねぇ」
私は苦笑いした。姫の小言が何を指すのは分らぬが。
影の内訳けは小田原殿と山隈殿だった。
4階から階段を登ると西向きになり、部屋の真ん中を狙える。だが二人が矢を向けたのは北。姫も私もおらぬ、有るのは鎧櫃に載った獅子頭……。
「いけない!」
矢の向きに気付いた姫が走り出す。
だが、目で追い切れぬ速さ、姫の御足も届かなんだ。
放たれた二つの矢は、獅子頭の両眼に吸い込まれていく。
すると眼に配われた箔に罅が入り――。
「「「「「きゃああああああああああああああああああああ」」」」」
「ああ、痛い痛い、目が」
「見えぬ、見えぬぞ!」
「目、痛い」
姫を始め、娘たちが目を押さえて泣き喚く。
目が霞んでよくは見えぬが、何も喋らなかった女郎花までも、声を出して苦しんでいる。
「したり!」
「目が弱みは獣も同じ、その首、貰い受ける」
二人は刀を抜き、獅子頭に覆い被さるように倒れる姫に歩み寄る。
「ならば、この首はどうだ!」
姫はそう言い放つと、獅子頭の口を開いて手を入れる。
姫が掲げた物を見て、二人がたじろぐ。
「誰の首だ、お前たち、目のあるものは、篤と見よ!」
生首を放り投げる姫。小田原殿が恐る恐る拾い、山隈殿が怒りの声を上げる。
「これは播磨守の首! よくも化け物め!」
怯んだのはほんの一時、武士の勲ここにあり。
山隈殿は姫の遥か上で刀を構える。
腹を晒す隙は大きいが、振り下ろす力で痛手を与える火の構え。
動けぬ姫を捉え、鬼を祓う刃が迫る。
「姫!」
私は姫が二人を押し留めているうちに走り出していた。
そして姫に庇うように刃を受け止める。
「姫川殿、何を!」
驚く山隈殿、走る背中の痛み。
その時、二人が踏鞴を踏んだ。口々に恨みの声を絞るが、追いの太刀は飛んで来ぬまま。
「間に合いましたか」
目を覆いながら胸を撫でおろす富姫。
これは私が受けた武者脅し。だが何故だろう、揺れを覚えぬ。
私のみが動ける良き流れ、乗らぬ手はあるまい。
私は背中の痛みを押し殺し、山隈殿に肩から打つかる。巌のような踏み込みも、今なら酔いどれ、千鳥足。
小田原殿も纏めて切り穴に突き落とす。
刃の茂りも影を潜めている内に、開き戸を閉め切り、閂を渡す。
追っ手は退けた。
だが、背中の痛みは引かず、姫の顔も戻らぬ。




