建国記序章と裏話
【建国記序章】
世界は滅びへと向かっていた。
女神はこの世界の人間たちを平等に愛し慈しんできたが、邪神に蝕まれた人々は争うことをやめなかった。
女神は残された力を振り絞り、幸せの世界に導く5人の英雄たちを召喚する。
召喚された英雄たちは皆、上半身裸の首に紺色の布を引かっけ、奇妙な布を腰に巻いていた。それは「祝い褌」という装備で、人々の幸せを願う儀式に使うものだという。
「祝」の英雄は他の英雄たちを一つの方向にまとめ上げ、
「★」の英雄は切れ味のある頭脳で冷静な判断を行い、
「幸」の英雄は世界を明るい方へと導き、
「せ」の英雄は弱きものを守り、
「に」の英雄は堅実な道を示す。
女神に召喚された英雄たちがこの世界を作り上げた。
英雄たちの力はその子孫に血を持って伝えられたが、徐々に失われていく。
召喚から1000年。
長い年月を経て、力を失った英雄たちの子孫は過去を忘れないようにと儀式の中に取り込んだ。
王族は真に愛するものに婚姻を申し込むとき、英雄の間に鎮座する聖遺物「褌」をただ一人愛する女性に差し出し妻問いする。
女性は捧げられた愛に応えるため刺繍を施す。
この一連の儀式を行う王族はただ一人の女性しか愛することができないため、意味が変遷し、王族にとっては臣籍降下するという意思表示になった。権力から離れ、民に尽くすという意味もあった。だからこそ、滅多に行われない。
最後に。
女神に召喚された英雄たちは口々に言う。
「褌チートwww」
この意味はいまだに解明されていないが口伝されている。
◆
【ちょっとした裏話】
「くうううう、まさか課長にマドンナを持っていかれるなんて!」
「本当にな。いつの間にアプローチしたんだろう?」
過酷なプロジェクトを共に乗り越えてきたメンバーたち5人がとある居酒屋に集まっていた。5人は次から次へと酒を飲み、くだを巻く。
「結婚式、都内の有名なところだろう?」
「そうなんだよなー」
「二次会の出し物、いいやつがある」
ぼやく実行部隊の若手二人に、サブリーダーが不穏な言葉を発する。
「ちょっと、やめておきなよ」
「聞いてから決めようぜ」
サブリーダーの同期が止めようと口を挟むが、プロジェクトリーダーが言ってみろと促す。サブリーダーはニヤリと笑った。その笑顔は悪戯をする子供そのもの。
「祝い褌をしてやろうぜ」
「祝い褌?」
「そう。見た方が早い。前たれに一文字ずつ刺繍してあるんだ。好きにお祝いの言葉を作って披露するんだ」
スマホで祝い褌の通販サイトを他のメンバーに見せた。皆が覗き込み、ゲラゲラと笑いだす。
「いいじゃないですか! 流石サブリーダー!」
「注文しちゃいましょう!」
「5文字か。どんな文章がいいですかね?」
悪乗りした後輩たちがああでもないこうでもないと祝いの言葉を紙ナプキンに書きだす。
「5文字……。意外と難しいな」
プロジェクトメンバーはうんうんと唸りつつ、文面を考えた。
1時間後。
選んだ褌の前たれの文字を入力し、注文確定ボタンを押す。
「結婚式、楽しみだな」
酒に酔っていたメンバーは誰一人この案がドン引きであることに気が付かなかった。
結婚式当日。
5人は二次会の席で披露した。
上半身裸、首には紺色のネクタイ、足は革靴。
そして六尺褌の前たれには。
「祝」「★」「幸」「せ」「に」
会場がしんと静まった。
何かまずかったかと、プロジェクトメンバー誰もが思った時。
足元に光り輝く魔法陣が突如として現れた。
Fin.