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「それではこれで契約締結ですね」
「よろしくお願いします」
それからの話は早かった。
ケイシーさんは護衛代わりに残ってくれて、クラウスさんは警備隊の本部に急いで戻って行った。
そしてエリック様の知り合いである事や、最近話題の良い薬を作っている善き魔女である私の窮状を訴え、是非とも警備隊で薬の定期購入をする契約をすべきだと上官にかけあってくれたのだ。
そのあまりのスムーズさに、クラウスさんていったい何者なの?とケイシーさんに聞いてみると、彼は元々商人から貴族に成り上ったお金持ちの三男坊で騎士に憧れて家を飛びだしたクチなのだとか。
しかし実は家族の中で一番商才があるらしく、時折家族から「いい加減帰ってきて商売を手伝え」という手紙が届くらしい。
何となく納得。
だってクラウスさんがまとめてきた契約書類は私に最大限譲歩したうえでお互いの利益をきっちり守っている内容だ。
「これでユディさんの薬はこの地区の警備隊お墨付きです。毎月定期的な納品を確約するかわりに、薬を受け取りにお店に警備兵が顔を出しても問題ない」
「おお~~」
特定の個人だけを警備兵が警護すると言うのは後々文句を言われる可能性があるが、薬を取りに来たついでに雑談という体裁を取ってしまえば口出しは難しい。
なんというか、凄く頭のいいい人だなぁと感心してクラウスさんを見てしまう。
「で、ユディさんの取り分はこちら。本当はもっと上乗せしてあげたかったんですけど、警備隊ってそんなにお金ないんですよ。すみません」
「いえいえいえ。十分すぎるほどですよ!」
まとめて卸すのでお店に出すような個包装は不要ということでお店で売るよりは単価は下がったが、包装の手間が無いし、警備隊の人が定期的に巡回してくれる事を考えたら安いものだ。むしろ私の方こそもっと値切ればよかった。
「いやいや駄目でしょ。あんないい薬、これ以上安くしたらそれこそ変な奴らが寄ってきますよ。ちゃんとした商品はちゃんとした価格で売らなきゃ」
「クラウスさん、絶対商人に向いてますよ」
「だろう?私もいつもそう言ってるんだ。こいつは剣を握るよりそろばんをはじいてる方が生き生きとしている」
「二人とも酷いなぁ。俺はね、昔から騎士になるって決めてたんです。カッコいいでしょう、騎士」
にこっと笑うクラウスさんは少年の様で、ケイシーさんはどこか諦めたような溜息をついてる。
「でもこれでよっぽどの事が無い限りあの商会は手を出してこないと思います。警備隊とつながりのある薬師に手を出した、なんて話が出回れば商売に差し障りがあるでしょうからね」
「本当に大丈夫でしょうか…?」
「警備隊はこの辺の治安維持とか通称手形の発行も担ってます。袖の下で動いてるやつがいないとは限りませんが、基本、みんなまじめでいい奴ばかりです。身を守る薬を作ってくれる貴女を守りますよ」
「そうです。以前は各自で買っていた薬が配給になったとみんな喜んでいるのです。こちらこそ、この出会いには感謝していますよ」
二人にそう言われるととてもくすぐったい。
そんなこんなで、警備隊の人達に薬を卸すという新しい仕事を得た私はこれまで以上に頑張って薬の作成に励むことにした。
せっかくなので、今ある薬を警備隊の人たち向けに改良する事に。
傷薬は極力匂いを押さえ、止血効果の高いものを。
そしてその逆に匂いが強く魔物避けになる薬も開発した。鼻のいい獣型の魔獣などはこの薬を使えば寄ってこないだろう。この薬は村の畑で害獣避けにもなるとかなり重宝される事になった。
薬を取りに来るのは主にクラウスさんかケイシーさんの二人。
それ以外にも何人かが代わりと言って村に来てくれるようになり、警備隊が出入りして治安を守ってくれる村だと村そのものの治安すらよくなったと村長さんに何故かややたら感謝された。
冬が近くなると、商店が備蓄用に買い込んだ食材なんかを狙った盗みが多発してたらしいのだけど、今年はそれもないのだとか。
あと、私の家に押しかけた男たちはやっぱりと言うか口を割らなかったらしい。
前歴のある人もいたらしく、明らかな暴言や破壊行為(未遂)というのもあって、そういう人たちはしばらくの間、投獄。
それ以外の人は罰金を払って釈放されたらしいので少し怖くもある。
しかし警備兵が関わっている私に続けて手を出してくる可能性はかなり低いだろうから安心してと言われてほっとする。
私一人なら魔法やパルの結界で身を守れるが子供達に何かあったら後悔してもしきれないだろう。
一応、ルイザや双子たちだけでは絶対に屋敷の外に出ないようには言いつけた。
騒動を知ったティルは青い顔をして駆け付けてくれて、ルイザ達は俺が守ると宣言していた。
ルイザは「ばかじゃないの!」と言いつつもほっぺたがちょっと赤くなっていたのを私は見逃さなかったぞ。
エリック様が来たことは予想外の出来事ではあったけど、おかげでいろんなことが解決した。
すごいなぁ。
しかし問題がひとつ。
エリック様が残していった恐ろしい悪魔の噂だ。
まず間違いなくセオの事ではない。本当に悪魔かどうかも分からない。
あの話を聞いた時に感じた嫌な予感が拭ってもぬぐいきれない汚れのように肌に張り付いて離れない。
出来ればセオに話を聞いてみたいのだけど、エリック様が来た時に姿を消して以来、セオは現れない。
あんなに頻繁に来ていたのに。
「ねえ、パル。セオの気配ってわかる?」
「近くに居ればわかりますけど、ここ最近はご主人様全然近くにいないです」
「そっか」
「寂しいですね」
「ええ…………って、寂しくない!寂しくないから!!」
パルの言葉につられてうっかり頷いてしまった。
別にセオが居ても居なくても寂しくはないのだ。昔から現れるときは突然で長く姿を見せないのも普通だったから。
あの日、セオにもらったペンダントをぎゅっと握りしめる。
ガザシュ商会の件だって、本当にこれで終わりかだなんてわからない。
何だかひどく嫌な予感がする、と私は短くも深い溜息を吐き出した。




