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「あなたはかつて、魔術防衛局局長として、この国の魔術防衛の基礎を固めるとともに、局長となる前の課長時代には、ポート・ディクソン帝国との一戦で多大なる戦績を上げている方です。その時に養われた魔法の能力は、料理人としての現在も活かされている。違いますか?」
違いますか、と聞かれて、違います、と答えるのは難しい。しかも王女相手にそう答えるのはなおのことだ。コーヒーを一口飲んで答える。
「料理においては、魔法のコントロールは特に慎重を要します。ほんのちょっとした火加減や、水分量によって料理の良し悪しが分かれますから、魔法の使用には細心の注意が必要です。」
「戦闘において、魔法のコントロールはその魔力の強弱をコントロールする、というよりかは、魔法をどの場所に、どの範囲にわたって使用するかのコントロールがメインでしょう。それに対して、料理において魔法を用いる場合には、厳密に魔力の強弱をコントロールする必要があります。」
まさにその通りである。どれほど実戦において魔法を使用してきた術者であっても、料理において魔法を正しく用いることができるとは限らない。
「その通りです。しかし……」と王女に対して続ける。
「料理において、魔法のコントロールが厳密に必要とされるからと言って、私が王女様の亡命のお助けをできる、ということにはならないのではないでしょうか。」
王女に対して反論する私に対して、2人の護衛は「なんて無礼なことを言うのか」とでも言いたげな顔で睨んでくる。ここで私が王女の手助けをする、と約束しなければ他に亡命の手助けをしてくれるアテはないのかもしれない。内心ではこの護衛は不安なのだろう。
「いいえ、あなた以外に適任はおりません。」
きっぱりと断言する王女に対して、内心溜息をついた。なにを根拠に言っているのか。しかし、いくら私でも「何かその発言に根拠はあるのですか」などとは聞けない。
ここで私は考える。もし私が王女の立場だった場合にどうするか、だ。王女は国王の後妻の末っ子として、王族内では大して立場が強いわけではない。従って、この緊急事態―ポート・ディクソン帝国が侵略してくる事態にあっては、亡命に対して手厚いサポートが得られたわけではないのだろうと察しがつく。国内の優秀な人材は優先して、より上位の王族の身辺警護につくか、ポート・ディクソン帝国との戦闘態勢についていることだろう。そうすると、二流・三流の人材、または素性の良くない人物を、この王女は頼りにするしかなくなる。ただし、その場合、生存確率は著しく低下するだろう。生きながらえたいのであれば、別の手立てを考えるしかない。そうなれば、身近にいる信頼できる人物を引き連れ、外部に頼るべき人物を求めるしかないだろう。で、あれば、10年前に偶然にも教育係として王女に仕え、しかも史上最年少で局長まで上り詰めた私のもとを訪ねてくるというのはそこまでおかしな話ではないのかもしれない。まぁ、やや強引な推論であるような気もしなくはないが、ひとまずはそういう事情で私を訪ねて来ざるを得なかったのであろうとしておこう。




