第81話 交渉成立
「つまりユーダイ様はアイネと元の世界で知り合いだったということですか?」
フィリシアが怪訝そうな目で俺を見る。確かに知り合いではないからな。嘘はつかない方がいいだろう。エリザに『ジャッジメント』を仕掛けられたら困る。
「いや、共通の知り合いがいるだけだ。それに彼女は俺のように召喚されたわけではない。転生しているんだ」
「転生……ですか?」
「生まれ変わりとも言う。通常ならば転生時は記憶を失うのだが、彼女は天啓を得ていたため記憶を残していたんだ」
乙女ゲームの記憶は天啓といって過言ではないと思う。
「彼女は世界を脅かす悪魔の存在を教えられていた。そして必要となるのは4人。
1人目は魔道具製作に明るい子爵令息、フィリシアの前婚約者だ。2人目は天才的な剣の腕前を持つ騎士ロドニー。3人目は圧倒的な魔力量と才能を持つ侯爵令息。そして4人目が国宝である宝剣を自在に使うことのできる第一王子殿下だ」
「つまりアイネが誘惑した男性たちということですね」
「そうだ。彼女は誘惑というより、仲良くなりたかっただけらしい。実際恋人のようにふるまっているのはロドニーだけだそうだ」
「そんな! 第一王子殿下は彼女のために婚約破棄をなさろうとしているのですよ⁈」
「戦いに赴くためにはそれも必要だと思っていたようだ」
「納得できませんわ。わたくしがどんな目に遭ったか、ユーダイ様にはお話ししましたよね?」
「ああわかっている。ただ彼女の言い分がもし本当だったらどうする?」
「と言いますと?」
「本当に悪魔の侵攻を押さえるためのものだったとしたらってことさ」
「そんな気配が本当にあるのですか? わたくしは家人に社交を制限されていたので情報が少ないのです。どうなの? ベラ」
「わたくしはそんな気配感じたことありませんわ、ね? あなた」
「ああ、私も特にそういう不穏な出来事を耳にしていない」
オルロープ伯爵夫妻まで否定してきて、状況は良くないな。まあいい。
「だがそれが本当だった場合、勇者としては見過ごせない。
だから俺たちで確認するまでアイネの処遇を保留にしていただきたい」
「彼女がわたくしを苦しめていたとしてでもですか?」
「それもまた必要だと思い込んでいたんだ。もちろんそれを盲目に肯定しようというわけではない。ただ世界を救いたいという気持ちから出たもので、それが本当だとしたらどうだろう? 君の評判にも関わることだ」
「ではどうしろと?」
「世界を思うばかりにやり方を間違えたのだ。だから平民落ちにするのはいいが、それ以上の報復は止めて欲しい。八つ裂きにもしたい気持ちだろうが」
「さすがに八つ裂きまでとは言いませんが、娼館に売り飛ばそうかと思っていましたわ。当家の財産を使っていますからね。当然働いて返していただきたいですわ」
「彼女は冒険者になると言ってる。もちろんそれで金を返すのはどうだ?」
「彼女のような手練手管の持ち主ならば、売れっ子娼婦になれそうなのに……。それに自由にすると逃げられるかもしれませんし」
余程売り飛ばしたいようだな。俺は軽く空咳をした。
「コホン、そのかわりに魔法契約を結んでベリンダのいる冒険者ギルドに送り込もうと思っている。君と彼女は知らない仲でもないし、引き受けてくれるだろう?」
「それは……わたくしが頼めばしてくれると思いますが」
「契約違反して逃げたら、その時は好きなだけ娼館で扱き使うといいさ。あと悪魔の存在が認められなかった場合もな」
「……わかりました。ほかならぬユーダイ様のお申し出ですもの。その条件を飲みますわ」
交渉成立。全く世話が焼けるな。
そんなわけで俺とエリザとゲオルグはアイネの示唆する悪魔討伐に出かけている。特にエリザは着飾りたかったようで、ずーっと機嫌が悪い。
「もうっー! わたくしはしばらくパーティーに出て、社交がしたかったのに~‼」
「悪魔討伐の方が重要だろ? 何もなければそれでいいんだし」
「ユーダイはあの女の話が本当だと思っているのか?」
「共通の知人がいるのは本当だし、向こうでは記憶を持って異世界に行くときは理由があるとされているんだ。それが悪魔な場合はこっちでも見逃したら大変だろ? 相手が弱い内に叩いておきたい」
「そうだな、100年前の勇者たちは悪魔との戦いに相当疲弊したそうだから。
それに殿下、この討伐で騎士団長が死んだことにすればいいと思います」
「ああ、悪魔がいようといなかろうと功績をあげて死んだことにすれば、国王や団長の家族がうるさく言わないだろう。これこそ『名誉ある死』ってヤツだ」
「それでいないのにアイネを助けるのか?」
「いいや、国に報告する分だけそう言ったらいいだろ。フィリシアには本当のことを話すさ」
「チッ、わかったわよ」
はぁ、お前仮にも王女様だろ? 舌打ち聞こえてるぞ。
「ゲオルグ、お前もパーティーに出たかったか?」
「いいや、ウソの婚約者なんだから、存在を印象付ければそれほど社交は必要ない」
「その割にはなかなかの演技だったぞ」
「……レリがこんな風に困っていたらと思ってやった。フィリシアは悪い女性ではないが特別な思いはない。それに国王からオルロープ伯爵夫妻が送り込まれたことを考えれば、余計なお世話だったかもしれないと思い始めている」
まぁそうだな。国王の幼馴染の息子の嫁にフィリシアの親友がいるって言うのも大きかっただろうがそれだけでは動かない。
普通に考えてもフィリシアの父と義母は貴族社会を乱す存在だ。伯爵代理の分際で、平民女を伯爵夫人として扱い社交もしているからな。それで立場をわきまえて大人しかったらまだしも、娘は王子を誘惑する。最悪だな。
だからと言ってそれだけで領地を没収すれば、王家が私腹を肥やしていると評判が悪くなる。それで正式な跡継ぎであるフィリシアを助けることにしたのだ。
たぶん国側としてはアイスナー伯爵家の跡継ぎになった彼女にしかるべき相手を宛がうつまりだっただろう。それで恩を売って王に忠実な臣下を作るって訳だ。
「でも別に婚約破棄したいとは言わないんだし。それに偉いさんからそんな多大な恩を売られるとフィリシアも身動きできなくなるから、余計ってことはないだろうさ」
「それならいいが」
そんな話をしているうちに、アイネが言っていた悪魔が隠れ住む洞窟に近づいた。
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