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再編の針と失われた縁  作者: 神田長十郎
第三章 変化の兆し
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第七十話 友への思い、友への願い

外に出ると、ひんやりとした心地よい風が頬を撫でた。

グウェンは目を閉じ、気持ちよさそうにその風を受けていた。


「グウェン様……あまり風に当たられるとお体が冷えてしまいますよ?」

「ハハ……心配性ですね、ネロは」


くすりと、いつものように優しく笑う。

けれど――

ネロの眉間の皺は深くなるばかりだった。


そんな様子に気づいたのか、グウェンは困ったような笑顔をみせた

「ネロにはいつも心配ばかりかけてしまうね」


グウェンは突然歩みを止め、

しっかりとネロへ向き直った。


「大丈夫。今日のようなことはもう起きない。

いや…………”起こさせない”。

スクルディガー家の当主として、誓うよ。

だから安心して。ネロ」


グウェンからは力強く、そして深い覚悟を感じた。


その言葉で、ネロは緊張の糸が切れたのか

くぅ、とお腹の音が鳴った。


みるみるネロの顔が真っ赤に変わっていく。


「あ…あの…これは…その…」

あたふたと慌てふためくネロを見て

グウェンは笑みをこぼした。


「隠す必要なんてないんだよ?…この様子だと

もしかして皆、食事をとってないのかい?」


「あ…そういえば、いろいろあったから……」

紡が苦笑すると、フィーロもお腹を手で押さえながら、

寂し気に眉を下げ、ぽつりとつぶやいた。

「…………お腹すいた」


「あぁ……僕のせいだね。本当に済まない。

食事代は出すから、戻る前に皆で食事をとってきなさい」


グウェンはポケットから財布を取り出すと、

そのままネロに手渡した。

財布を受け取ったネロは、戸惑ったように眉を寄せた。

「グウェン様は?一緒に行かれないのですか?」


ネロの一言に、一瞬間を置くと、

まるで父親のように、穏やかで優しい口調で答えた。


「僕は……もう頂きましたから……

それに僕がいたら落ち着いて食べれないだろう?

だから、君たちだけ食べておいで」

「しかし――」


なおも食い下がらないネロに、

レオンが間に入った。

「グウェン様のことは、俺に任せて行って来いよ、ネロ」


レオンの発言が意外だったのか、

グウェンは目を丸くすると、顔を覗き込んだ。


「おや?レオンは良いのかい?君も食事はまだなんじゃないのかい?」

ジーと見つめられバツの悪そうなレオンは、

顔を背けながらぼそぼそと呟く。

「俺は……まだ胃の調子が悪いし……」


なおレオンの顔を覗き込むグウェンと、

怪しむように目を細めるネロに対して、

レオンは誤魔化すようにまくしたてた。

「とにかく!グウェン様は俺に任せておけばいいから!

お前たちはグウェン様の金で俺の分まで食べてこい!いいな!」


ネロは観念したように息を吐くと、

レオンにこぶしを突き出した。

「わかった。グウェン様のこと、お前に任せたぞ」

「おう、まかせとけ!」


二人は拳を合わせると、笑いあった。


紡はそんな二人を見て、どこか同じ職場だから。

という理由ではなく、

二人の間には兄弟のような……昔からの築き上げてきた

確かな絆と信頼があるのだと感じた。


そして、そんな二人を”羨ましい”と感じた。


紡はそんな感情に気づいてしまい、

頭から追い出すように頭を振った。


「ではグウェン様、行ってまいります。

すぐに戻りますので」


おずおずと話すネロは、

まるで主人から離れがたい小動物のように見えた。


グウェンは、そんなネロを愛おしいそうに見つめると

苦笑いをしながら送り出した。

「フフ……食事くらいゆっくりでいいよ。

……行ってらっしゃい」


ようやく背中を見せて歩き出したネロたちに、

グウェンはその姿が見えなくなるまで手を振って見送った。


そして――

横目でレオンを見る。


「――さて。何か言いたげだね」


レオンは深くため息をついた。

「……はぁ、グウェン。

いつまでその猿芝居続けるつもりだ?」


レオンの発言に、喜びとも驚きとも取れない表情を見せたかと思うと、

すぐにいつもの穏やかな笑顔を見せた。


「……何のことだい?」


「そのしゃべり方だよ。

俺の前では演技しなくていい」


グウェンの笑顔が、ふっと揺らいだ。


「……ッハ。ハハハハハ!

なぁんだ、バレてたか。

俺、結構自信あったのに」


気まずそうに髪を乱暴に書き上げると

悪戯気に笑った


「いつから気づいたんだ?」

「いつからって……お前気づいてないのか?

お前が戻ってるときは、俺を呼ぶとき“呼び捨て”になってるんだぞ」


グウェンはポカンとした表情をみせる。

本人は全く気付いていなかった様子に、レオンは呆れたように笑った。


グウェンは自分の顔を片手で覆うと、

肩が震わせたかと思うと、次の瞬間には笑い出した。


「ック……ハハハハハハハ!!」


ひとしきり笑うと、苦し気に続けた

「くそ……そこか……!

あ~~!! 油断した!!

だって今さらお前に“君”付けなんて気持ち悪いだろ?」


そう言うとグウェンはレオンの肩を軽く小突いた。

レオンもまんざらでもないように静かに笑った。


「お前は昔から最後の詰めが甘い」

「おい、なんかレオンに言われるのは癪に障るな」


上機嫌だったグウェンは、ムッとした顔を見せる。

そんな様子も気にすることなく、レオンは肩をすくめた。


「……で? いつから……いや、そんなことはどうでもいい

……重要なのは、お前……いつまでもつんだ?」


グウェンは一瞬だけ目を伏せた。


「……さぁ、どうだろうな。

父上は“長くはもたない”って言ってたな……

まぁ……俺みたいな欠陥品は前例がないからな。

正直わからん」


「随分弱音を吐くな。お前らしくない」

「……ハハ。だろうな」


風が吹き、二人の間を抜けていく。

しばらくの沈黙が続き、先にグウェンが口を開いた。


「多分、このまえ拘束されたときだ。

長時間力を押さえられたからな……ノルンの力が不安定になってたんだよ」

「…………いまもか?」


レオンの問いかけに、グウェンは黙って首を横に振った。

「もう大丈夫だ。ノルンはもう戻ってきてる。

今だって、一時的なものだ。もうすぐ俺は消えるさ。

いつも通りに」


寂し気に目を伏せると、次の瞬間、ふっと肩の力を抜いたように笑った。


「でも……少しの間だけでも……今日は楽しかった。

悪かったな……今度はまともな紅茶を淹れられるように練習しておくよ」

「謝るのそこか?」


二人は顔を見合わせて笑った。

だが、どこかお互い寂しさを押し殺しているようだった。


グウェンは小さく息を吐いた。


「………なぁ、レオン」


「なんだよ」


「最後に……聞いていいか……?」


レオンは黙って頷いた。


「お前は……

俺と、当主としての俺。

どっちの味方だ?」


グウェンの問いかけに、

レオンは迷わなかった。


「……俺はグウェン。お前の友だ。

そして“再編の針”の副隊長でもある」


ゆっくりと、はっきりと言う。


「俺は、グウェン・スクルディガーを守る。

そのためだったら――」


レオンはグウェンをまっすぐ見た。


「俺は、お前の“敵”になる」


グウェンは目を細め、

ほんの少しだけ、寂しそうに笑った。


「そうか……」


その瞬間――

グウェンの雰囲気が変わった。


「その言葉を聞けて……僕は安心したよ」


「お前は――」


レオンが言いかけたが、

グウェンは静かに遮った。


「大丈夫。僕はちゃんと務めるよ。

スクルディガー家の当主として。

レオン君が……君たちが望む――“グウェン・スクルディガー”を」


穏やかな笑顔のまま、

しかしその奥に何かを隠しているような声で続けた。


「僕なりに、対策もちゃんと考えてるんだ。

そのための準備もしてきた…………ようやく必要なものも見つけた……」


そして――

静かに、しかし決定的な響きで言った。


「だから…………」


グウェンは一瞬だけ目を伏せた。

その仕草は、まるで“言うべきか迷っている”ようだった。


グウェンの言葉が途切れた瞬間、

レオンは静かに息を吸い込んだ。


「…………グウェン様。貴方はきっとその力で

自分の”運命”を、そして俺たちの”運命”も視てしまっているんですね」


グウェンは答えなかった。

ただ、静かにレオンを見つめた。


その沈黙が、答えだった。


レオンは歯を食いしばり、

声を震わせながら言った。


「……グウェンが何を考えてるのかわからないが、俺は止める。

あいつが自分を犠牲にする道を選ぶなら……

俺は全力で阻止する」


グウェンは目を細めた。

「そうか……そうだね。

あれは”運命”って言葉自体嫌ってるからね。

自分のことながら、つくづく呆れるよ」


風が吹き、銀髪がわずかに揺れる。


「レオン君」


グウェンは穏やかに微笑んだ。

その笑顔は、どこか“諦め”を含んでいた。


「僕はね……

“グウェン・スクルディガー”としての役目を果たすためなら、

どんなことだってするし、受け入れるつもりだ」


そして――

決定的な響きで言った。


「だから…………その時が来たら

皆を頼んだよ」


レオンの喉が、かすかに震えた。

その言葉は、まるで“遺言”のようだった。

閲覧いただきありがとうございます


少しずつ、グウェンさんの秘密もわかってきたところで、ちょっとだけ投稿ペースが落ちるかもしれません。


毎日投稿、とまではいかないかもしれませんが

なるべく早い頻度で投稿できるようにはしていきたいと思います…!


初作品でまだまだ荒削りな小説ですが、

日々閲覧いただけていて、嬉しい限りです。


ブックマークや評価もいただけて

確実にここまで続けてこられた

大きな要因になっております…!!


最後まで、きちんと書き上げたいと

思っておりますので、

どうぞ、最後までお付き合いくださいませ。




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