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再編の針と失われた縁  作者: 神田長十郎
第一章 再編の針
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第二十三話 自身の願い

フィーロに案内され、紡は廊下を歩く。

さっきまでの騒がしさが嘘のように、施設内は静かだった。


「ここがアマノさんの部屋だよ」

フィーロが扉の前で振り返り、にこっと笑う。


「何かあったら呼んでね」

「うん、ありがとう」


扉を閉めた瞬間、張りつめていたものが一気にほどけた。


(……疲れた……)


ベッドに倒れ込むと、身体が沈み込むように重くなる。

今日だけで、どれだけのことが起きたのか。


この世界には異世界人がたくさんいることを知り、

鈴木さんという同郷の人にも会えた。


鈴木さんはここで職員として働いているということは――


(……帰還は、あきらめてるのかな……)


自分はどうすべきなのか。

考えようとするが、疲れで頭が回らない。


(……少しだけ……寝よう……)

意識がゆっくりと沈んでいった。


どれくらい眠っていたのか。

コンコン、と扉を叩く音で目が覚めた。


「アマノ! 起きてるのか!」

ネロの声だ。

いつもより語気が強い。


(やば……イラついてる……)


「い、 今開ける!」

慌ててベッドから飛び起き、扉を開ける。

ネロは腕を組んで立っていた。


「……寝てたのか?」

「あぁ……ちょっと。疲れが出たのかも……」

「フン……まぁいい。グウェン様がお呼びだ。

今すぐ顔を洗って身支度を整えろ」

「わ、わかった!」

急いで洗面台で顔を洗い、髪を整え、

ネロの後ろについて執務室へ向かう。


執務室に入ると、グウェンがソファに座って待っていた。

柔らかな笑みを浮かべている。


「少しは休めたかい?」

「はい。少し横になれたので。」

「それならよかった。じゃあ、さっそく始めようか」


グウェンが手をかざすと、

昨晩と同じように紡の胸元から光る糸のようなものが現れた。


相変わらず、ぐちゃぐちゃに絡まっている。

グウェンはその糸にそっと触れ、

丁寧に、少しずつほぐし始めた。


紡は申し訳なさそうに口を開く。

「なんか……すみません。手間を取らせてしまって」


グウェンは一瞬だけ驚いたように目を瞬かせたが、

すぐに柔らかく微笑んだ。

「気にしなくていいよ」

手を動かしながら、穏やかな声で続ける。


「これは僕がやりたくてやってるんだ。

本当なら、時間をかければ君自身でも自然とほぐすことはできるとおもう」


(……?それは……こんな特別待遇みたいな扱いをしなくてもよかったってことか?)


「じゃあ……なんで俺をここにしばらく滞在させてるんですか?

普通は数日過ごすだけなんですよね?」


グウェンは手を止めずに「うーん」と小さく唸り、

困ったように笑った。

「なんだか……ほおっておけなくてね」


その言葉に紡が息を呑むと、

グウェンはふと手を止め、静かに続けた。


「でも……」

その声は優しく、どこか寂しげだった。


「もし君が“自分の力だけで乗り越えたい”というのなら。

僕はその決断を尊重するよ」

紡は胸の奥がぎゅっと締めつけられるような感覚に襲われた。



―――

その後も紡の胸元から伸びる光の糸を、グウェンは静かにほぐし続けていた。

その手つきは丁寧で、どこか祈るようでもある。


紡は胸の奥がざわつき、思わず視線を落とす。


(……どうしたらいいんだろう)


その変化に気づいたのか、グウェンがそっと手を離した。

「……今日はここまでにしようか」

柔らかな声だった。


紡は小さく頷き、立ち上がる。

「ありがとうございました。じゃあ……失礼します」

扉へ向かい、ふと振り返る。

「……おやすみなさい、グウェンさん」


グウェンは少し驚いたように目を瞬かせ、

すぐに嬉しそうに微笑んだ。

「おやすみ」

その声は、まるで子どもを寝かしつけるように優しかった。

扉が静かに閉まる。


―――

部屋に戻ると、紡はベッドに腰を下ろし、深く息を吐いた。


(……これから、どうすべきか……)


自分はどうするべきなのか。

考えようとするが、頭が重い。


そのとき――

視界の端で、黒い影が揺れた。


「……え?」

振り返ると、いつの間にか黒猫がベッドの端に座っていた。


「相変わらず突然来るんだな……」

苦笑すると、黒猫は紡をまっすぐ見つめた。

その瞳は、いつもの飄々としたものではない。


「君は、このままでいいのかい」


低く、静かで、どこか底知れない声。

まるで“何か強い存在”と向き合っているような感覚が紡を包む。


紡は息を呑み、少し考えてから答えた。

「……このままでいい、とは思っていない」


黒猫は細い目をさらに細め、

「フーン」と興味深そうに喉を鳴らした。


「君がどういった選択をするのか……

このまま見学させてもらうよ」


そう言うと、黒猫の身体は影に溶けるように消えた。


「……何、意味深なこと言っていなくなってるんだよ……」

紡は頭をかきながら、再びベッドに腰を下ろす。


(自分の現状……これからのこと……)


しばらく考え続け、

胸の奥にひとつの答えが浮かび上がる。


(……やっぱり……自立したい。このままずるずると誰かに頼ってばかりは……嫌だ……)


誰かに守られるだけじゃなく、

自分の足で立てるようになりたい。

その思いが、静かに、しかし確かに紡の中に根を下ろした。



ここにきてからずっと流されるままになっていたけど

やっと自分の考えをまとめる時間が取れて思考がまとまった紡くんですが、

それがいい方向に進むかはまた別の話……


明日もよろしければ閲覧よろしくお願いいたします。

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