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再編の針と失われた縁  作者: 神田長十郎
第一章 再編の針
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第十二話 ”勇者召喚”

重い扉が静かに開くと、

紡は思わず息を呑んだ。


部屋の中は、外の廊下とはまるで別世界だった。

柔らかな光が、天井近くの大きな窓から差し込んでいる。


白と銀を基調とした室内は、どこか神殿のような静けさをまとっていた。

中央には長いテーブルと向かい合うソファがあり。

壁際には本棚と、淡い光を放つ水晶のような装置が置かれている。

空気は澄んでいて、ほんのりと草木の香りがした。


(……落ち着く……けど……なんだろう、この感じ……)


静かすぎる。


まるで“音”そのものが遠慮しているような空間だった。


その奥に――

グウェンが立っていた。


昨日と同じ白黒の衣装。

銀灰色の髪が朝の光を受けて淡く揺れ、

サングラスの奥の瞳がこちらを見ている。


「おはよう、アマノ君」


その声は、驚くほど柔らかかった。


紡は思わず背筋を伸ばす。

ネロはグウェンの姿を見た瞬間、

さっきまでの刺々しさが嘘のように消え、

静かに頭を下げた。


「グウェン様。アマノをお連れしました」


「ありがとう、ネロ。」


その一言で、ネロの表情がわずかに緩む。

だが紡に向ける視線は、まだどこか刺さっていた。


ネロは部屋の隅に控え、空気がさらに静まる。


グウェンはゆっくりと紡に歩み寄り、

ソファを指し示した。


「さぁ、遠慮せずこっちに来て座りなさい。

昨日は……本当に大変だったね」


その声は優しいのに、

どこか“底が見えない”。


紡がソファに座ると、

グウェンも向かいに腰を下ろした。


「さてさっそくだが……どこから話そうか……。

アマノ君はこの世界のことについて何か聞いたかい?」


「いえ、あまり……あ、1000年前に邪神が倒されてもう存在しないとか…禁術がどうとか…それくらいです」


「ふむ……ではまず、君がこちらの世界に来るきっかけになった

”勇者召喚”に関する話をしようか」


グウェンがネロに目線を送ると、ネロは少し頭を下げ

本棚から紙束を持ってきてグウェンに渡した。

受け取った紙束のうち一枚をテーブルに広げると、それは地図だった。


「この世界には大きく分けると3つの国に分けられる。

―精霊と契約し、精霊の力とともに発展した グラウフェルト王国

―世界樹から生成されるマナを使い、事象を改変する力。魔術を研究し発展した マルクシオン魔術連邦

―厳しい環境下で己の経験や鍛錬により身に着ける武技を極め、力で人を束ね成長した ドラグノルディア帝国

かつてこの3か国は資源や領土などを巡って争いをしていた」


グウェンは指で地図をなぞりながら続ける。


「だが約1500年前、“邪神”と呼ばれる悪しき存在が飛来し、

世界は未曽有の災害に見舞われた。

魔術、精霊術、武技……あらゆる力を使って対抗したが、人類は徐々に追い詰められていった。

……ここまではいいかい?」


「……はい。続けてください」


「三国は邪神討伐のため同盟を組み、魔術研究の末に“勇者召喚”を編み出した。

異世界から“勇者”を召喚し、500年に及ぶ戦いの末――」

「1000年前に邪神が倒された、と」

「その通りだ」


グウェンは頷き、もう一枚をテーブルに広げた


「当時召喚された”勇者”たちは邪神討伐時に発生したエネルギーを利用し、

全員元の世界に帰還をした。

そして”勇者召喚”は“禁術”として術式は三つに分割したうえで封印し、

各国で厳重に保管された」


紡は眉をひそめる。


「禁術……? じゃあ俺がここに来たのは……?」


グウェンは首を振る。

「調べたが、各国の封印は完璧に機能していた。

つまり――誰かが秘密裏に術式を隠し持っていたか、

もしくは……新たに作り出したか。

そのどちらかだろうね。こちらについては現在調査中。という回答になるね」


紡の胸がざわつく。


なんで禁術が使われたのか……それがわからないとしても、

一つ分かっていることがある……


「……先ほどの話では、当時いた勇者は”全員帰還した”と言っていたと思いますが、

それは今も元の世界に帰る方法がある。ということですか?」


「そうだね、”勇者帰還”の魔術は存在しているよ」

「……じゃあ!」

紡が身を乗り出すと、グウェンは手を上げて制した。


「その話をするにはまず僕たち”再編の針”についても説明しないといけないね…

”再編の針”の活動理念としては、召喚された”異世界人たち”を保護・サポートするためだ」


「異世界人……“たち”?」


ざわり、と悪寒が走る。


「そう。君だけではない。

この世界には、すでに何名か召喚されてきていることを確認している」


「……そんな……」


「そして――邪神がいない今、全員を一度に帰還させるほどのエネルギーは確保できない。

だが、マナを集めれば“一人ずつ”帰還させることは可能だ」


グウェンは静かに頭を下げた。


「すぐに帰すことができず……申し訳ない」


その瞬間、背中に氷の刃が突き刺さるような寒気が走った。

ギギギ、と首を動かして後ろを見ると――

ネロが、光のない目でこちらを睨みつけていた。


(やばい……殺される……!)


「グウェンさん……いや、グウェン様!

今すぐ頭を上げてください!

お願いします!俺が謝るんで!!」


紡が必死に叫ぶと、グウェンはゆっくりと頭を上げた。

その瞬間、ネロの殺気が嘘のように消える。


「なんでアマノ君が謝るんだい?」

グウェンは心底不思議そうに首を傾げる。


――そんな顔で俺を見ないでくれ……


紡は咳払いし、話を戻した。

「と、とにかく……続きをお願いします」


「あぁ……そうだね。つまり“勇者帰還”は可能だ。

だが――アマノ君に一つだけ、どうしても確認したいことがある」


グウェンの瞳がまっすぐ紡を射抜く。

自然と喉が鳴った。


「アマノ君。

君は元の世界に戻りたいという意思はあるかい?」


「……それは……」


(帰る……か…………俺の望みは……)


紡は少し考え、自身なさげにゆっくりと口を開いた。


「帰りたい……という気持ちはあります。

……でも……正直、すごく帰りたいかと言われると……

どちらでもいい……です」


グウェンとネロが驚いたように目を見開く。


「どちらでもいい……とはどういう意味だい?」


「俺は……一人で生きていける環境があるなら……

他はどうでもいいんです」


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