第48話 ヒルダとレイラ・モルヴァリッド
最終話ですが、あまり最終話らしくありません。
途中でめんどくさい話になっていますが、飛ばして読んでいただいてもかまいません。
本筋に関係ありそうで、実はあまりないかもしれません。いつもの裏設定回。
アウロ=シュタンジュ連邦首都ユーテックスに出現したのは4の邪神、デウタス・ゾーマ。両腕が球状になっている魔法拳闘士型。
ダーガイマ共和国首都ガノーグスに出現したのはに3の邪神、ガーマ・アルゲリア。溶解液と毒ガス攻撃主体で、都市攻防戦では厄介な相手だ。
グウェン人民国砲兵中央基地に出現したのは6の邪神、ジータ・バレル。小型電磁砲のようなとげを無数に飛ばしてくる。無人攻撃機の編隊を相手にするようなものじゃ。
瞬間移動で戦況を切り替えながら、また都市部から郊外へ誘導するようにしながら被害を最小に食い止める。かつ倒し切らないように、しかし無力化しつつ戦うのは難しい。
模擬バイターとは格が違う強さじゃった。
HLDOLのダメージも大きかったが、戦場を瞬間移動で変える度に新しいパーツに付け替えたのでなんとかなった。
イマジナリの再生というか、再現スピードは邪神の回復スピードを上回った。
わしの勝機は、そこにあった。
単純な破壊力なら、正直、邪神の方が上回っていた。
シドウの所属する彼の軍の制圧兵器よりも、苦戦したからな。
やがて30分が過ぎ、邪神どもはゆらりと影のように朧となって、消えた。
わしはなんとか成功した。
邪神を退けたさまをまじかで見て三国の人々から賞賛を受けるのも早々に、わしはゲルマ高地に戻った。
すでに9の邪神、イオ・ガリガーチャも消えており、皇帝たちもテント下に戻ってきていた。
レイラ・モルヴァリッドもいた。
わしはHLDOLから降りると、レイラに近寄った。フレイアも傍に来る。
レイラ・モルヴァリッドはゆったりとしたウェーブのプラチナブロンド、鮮やかな青い瞳を持つ美少女だった。
最近回りが美女、美少女だらけなのは薄々気がついていたが、これはまた破格の美しさだった。
でも、どっかで見たことあるような…。
あっ、タタラが作っていたヒメリア!
ちょっと似ている。
ということはわしに似ている、ということか?
ふーむ、偶然の一致? かな? それとも別の意味があるのか。
わしのこの姿は女に会いたいという気持ちから生まれた、と思っていたが、冷静に考えるとなぜ子供なのかは不明じゃ。
目の前の女、レイラの思惑が働いていたのか?
まあ、今は考えてもわからん。
「さっきは顔が見られなかったから、とりあえず初めまして、でいいかしら? ヒルダ」
「お、おう、はじめまして。レイラ。それで、話があるといっていたが、こっちもいろいろ教えてもらいたいのじゃが」
「邪神のことよね。今はダメ。巫女がいるし」
「そういえば貴様勇者のくせにパートナーがおらんのか? シャーリーズ隊長が連絡取れないとか言っておったが」
「わたしには巫女がいないわ。必要ないもの」
「巫女に聞かれてはいかん話があるということじゃな」
「そうね」
「ふむ、捨てられた子供らではどうじゃ?」
「あそこもまだ生き残りがいるし……」
「タタラのことか?」
「そうね。じゃあ、あそこがいいわ。多分邪魔が入らない…。あれ? 誰か最近入った形跡が? って、貴女じゃないヒルダ!」
「は? 何のことじゃ?」
「いや、したことはラボのデータのダウンロードか。トレース。捨てられた子供らに転送している。ははあ、タタラね。あの黒服襲撃をうまく利用したのね」
「おい、貴様、何を言っている?」
「まあ多分あなたのためにしたことよね。タタラに作らせてるんでしょ? 自分と同じ生体コードを持つ式を」
「おいそれ秘密! ってなぜ貴様それを知っておる!?」
「大丈夫よ。今喋っているのはトスカルド帝国語だから、フレイアもすぐには解読できないわ」
「え、あ、そういえば、言語変換エンジンが無効になっておるな。これはわしの国の言葉…。貴様は一体何なのじゃ?」
「それは後で。では行きましょう」
そのとたん、わしとレイラは巨大な機械の中にいた。
「転送、か」
「大概の力は使えるわ。まあ、長く生きているからかしら、ね?」
「タタラと同じことを……。で、ここは?」
「第5世代型超弩級超次元戦艦ドラクナジェの第一艦橋。というより 大聖堂のすぐそば。地下およそ1000メートルといったほうがわかりやすいかな」
「古代の魔道光炉か!」
「残念、ちょっと違うわ、それに動力を供給しているけれど。転移に失敗して地下にめり込んで、再転移が出来ないままになっているのよ。古い世代の機械はダメね。失敗しちゃったの。超次元艦としての機能は現在ほとんど停止しているわ」
「ふうむ、してみるとここは星からの神々の船か。第5軸から来たという」
「トスカルドの兵士としては、まあとりあえずの理解としてそれでいいわ」
「我らよりはるかな高みにいるということか。話を聞こう。貴様はいったい何者じゃ?」
「長命族。全てを統べるもの」
「彼の軍の宗主が最後の長命族という噂があるが、まさか貴様……」
「あの娘、まだそんな嘘でシアーズを統治しているのね。長命族が一人だけ生き残ってるなんておかしいと思わない? 200億年の時空を超えて、わたしたちはいまも宇宙のあらゆる場所、あらゆる時間に存在しているわ」
マジか。シドウ、お前とこの宗主、嘘つきらしいぞ。
「その長命族がこんなところでなぜ邪神討伐の手伝いをしているのじゃ?」
「この宇宙は…、この宇宙を含むあらゆる宇宙は、実は間もなく滅ぶ」
「なに?」
「間もなくと言っても、ヒルダのスケールではうんと先だけど、まあ、数億年ぐらいかな? でも宇宙や、わたしたちの基準では間もなく……。全ての世界線が未来のある一点で交わっているの」
「どういうことじゃ?」
「量子的確率があらゆる点において1になる。多様性の消滅。すなわち、全宇宙の無への還元」
「なぜそんなことに? 宇宙は発散こそすれ、収束することはなかったのではないのか?」
「ああ、ヒルダの時代だと、トスカルドの科学も宇宙超数の概念は把握してないのね。全ての可能性を含むということは、新たな可能性の余地がないということでもあるわ。簡単に言えば宇宙の伸び代がなくなった。宇宙が疲れちゃったのよ」
「またぶっちゃけた説明じゃなあ……。イメージは分かった。じゃが、宇宙が滅びるとして、それと邪神討伐の手伝いと、どう関連してくるんじゃ?」
「全ての世界線が交わる点…世界の終末点は、また新たな宇宙の始まりでもあるわ」
「ひとつに重なった宇宙がまた分かれて広がっていくのか?」
「ひとつとなった宇宙が更に圧縮された1点からね。単宇宙でいう大収縮の全宇宙、全世界線版。それが終末点よ。さて問題。宇宙が広がりを取り戻すために必要なものは?」
「……観測者!」
「そう、そのとおり。でもあらゆる宇宙のどんな知的生命体も観測者にはなれないわ。終末点を超えられないから」
「全て滅ぶのか」
「ええ、もちろんわたしも、わたしたちもいろんな研究を重ねているわ。でもどうやっても終末点で反射されてしまう。今の宇宙群のどこかの世界線に戻されるだけよ。まあその副産物で宇宙群の自由航行技術が確立できたんだけど」
「それがこの船……。なるほど、終末点をすべての宇宙の結節点として使うわけじゃな。シドウもその方法は知らなかったが…」
「終末点について知っているのはあなたたちの宇宙ではごく僅かしかいないから、宇宙の濃度を超えて航行する方法を思いつかないのは仕方ないわ。さて、宇宙を再び始めるためには観測者を送り込む必要がある。でも今存在する宇宙群における何者も終末点を超えられない。なら、どうすればいい?」
「新たな観測者…。新しい知的生命体を創造するしか、ない」
「そうね。時空の全消滅を超え、その先に翔ぶことの出来る新しい知的生命体」
「純粋な意志の力、物理空間に依らず存在できる誘導関数そのもので出来た純粋な精神知性体…イマジナリ」
「そう、イマジナリこそが新たな観測者足り得る。わたしはそう考えているわ」
「それで全宇宙から勇者を召喚しているのか。イマジナリに複製し、可能性を高めるために。じゃあ、邪神との戦いは何じゃ? イマジナリの進化を促しているとでもいうのか?」
「違うわよ。これは3度目なの」
「3度目?」
「エクスアーカディアはもともとは三重連星ではないの。二つの月は別の世界線のエクスアーカディアなの。そして邪神は、失敗した世界線が残したもの」
「なんと!」
「最初にイマジナリを一から作ってみたら暴走したわ。それが最初の失敗。次はまず肉体を持つ人工生命体を造り、それをイマジナリに変換してみたわ。これも失敗。これが邪神の正体よ。今回は既存の生命体のこころを複製してイマジナリにしたの。でもイマジナリ本来の能力がうまく起動できなくて、仕方がないから私が直接調整したの。ようやくフミトやヒルダのように少しはうまく行きはじめたのが今ね」
「じゃあ、邪神は貴様が造ったのか。いや、そもそもこのエクスアーカディアそのものを貴様が造ったということか?」
「厳密に言えば前2回はわたしじゃないわ。別の世界線のわたしの方針ではあるけれど」
「じゃあこの船は」
「失敗した2回目のものをサルベージしているわ。だって、わたしが来たのはつい最近だし。もうこんな大掛かりな装置はいらないもの」
「星からの神々は、この大地じゃなく、2回目のエクスアーカディアにやってきた、ということか! なんとなくわかってきた。新たな観測者を作るためにこの世界を作り、試練を与え、イマジナリを高度化しようとしている。そういうことじゃな」
「そう考えた、と言ってほしいわ。わたしは、この混乱した状況を修正するために来たんだもん。誤った世界線の後始末をしにね」
「じゃあ、あの黒服軍団はなんじゃったんじゃ? あの黒幕は貴様じゃないのか?」
「あれは……、まだ秘密。今は真実を知らない方がいい。でもね、わたしでも、邪神でもない、別の要素がある、ということだけ理解しておいて。この世界はヒルダが考えている以上に混沌として歪んでいる。貴女は兵士として揺るがない心を失い、感情を得つつあることが良いことだと考えていると思うけど、それは冷徹な思考を捨てさせられている、とも言えなくない? 今日はここまでね」
気がつけば、ゲルマ高地じゃった。傍らにフレイアが立っていた。
「あれ? 異世界語でつぶやくヒルダちゃんが一瞬ぶれたと思ったら、レイラがいなくなっているのです。はてなのです?」
転送直後の時間に戻されたのか。時空を操ることなど造作もない、ということか。
あいつは、イマジナリなどではない。本物の長命族そのものだ。
もはや、邪神4体と戦い、迎撃した高揚感はない。
薄々感じていたこのエクスアーカディアの抱える秘密を、まだ一部とはいえ知ってしまった。
三回目の世界線での実験。
すべての宇宙が消失した後、宇宙を再生するための観測者。それがイマジナリ。
なにもかもが作られた世界。わし自身、ある意味架空の存在じゃ。
この先どうするか……。
クドゥエル皇帝たちが寄ってきた。
口々に感謝を述べている。
涙を流しているものもいる。
皇帝に腕を取ってぶんぶんされた。更にハグも。
ああ、こいつ、アホ側に落ちよったな。ダークサイドならぬフールサイド。
うーん、いや、しかし…。
うーん……
………
…
いや、こんな世界じゃからこそ、救いが必要なのかもしれん。
わしはカワイイ!
カワイイは正義!
悩んでも仕方がない。わしは邪神を倒し、平和を取り戻し、ついでにレイラのイマジナリ観測者計画も成就させ、この世界を真に解放する!
決めたのじゃ!
わしの戦いは、これからじゃ!
こうして、わしの、本当の意味での闘いの日々が始まった。
そして、この時レイラが語らなかった世界の真実の先にあるものを、やがて知ることになるのじゃが、それはまた、別のお話。
18時からの夕食会が邪神を退けた祝勝会となって大盛り上がりしたことだけは、記しておこう。
これにてseason2、完結です! 最初はフミト復活までのつもりでしたが、世界設定を最後にちょっとだけご披露しました。
season3はまたフミトくん視点でのお話に戻る予定です。だってこれじゃデパートガール全く活躍しないんで…(´・ω・`)。
あ、次回作は別の作品の予定です。こんどはおっさんミーツガール的なお話です。ではまた!




