第21話 緊急の呼び出し?
お披露目も終わってしばらくたった頃。
参加した貴族たちは王都での用事が終わると、領地へ戻っていく。
本来であれば俺も辺境伯家の人間としてさっさと領地に帰りたいが、陛下から報酬としてもらう予定の屋敷がまだなので未だに王都に逗留していた。
まあ、ゲートを使って村の様子を見に行ったりしているので完全に王都にいるわけでないが。
そんな訳で、暇つぶしに魔の森で採取した薬草を使って回復薬を作っていると、王城から使者がやって来たことをイゼルナが伝えに来た。
「ケネス様、王城から使者が来られました」
「何の用事で」
「詳しくは王城で伝えるという事です。それも今すぐに来るようにと」
「・・・分かった。では行ってくる」
呼ばれた理由が屋敷の受け取りなら急ぐ必要はないはず。
そんなことを考えつつ、使者が乗って来た馬車に便乗して王城に向かう。
応接室に案内されて用意されたお茶を飲みながら待っていると陛下たちが入って来た。
とっさに立ち礼節をとる。
「ケネスよ、待たせたな。どうにもうるさいのがいて会議が長引いたよ」
「いえ、美味しいお茶を用意して頂いていたので」
陛下がいつもの席に座り、その隣に宰相も座った。
「まずはお主に渡す屋敷が決まった。元は伯爵家の屋敷だったが横領や脱税など叩けば叩くほどに罪状が出てきたので取り潰して没収したものだ。今は王家が管理している、ここなら王城からも学園からも遠くないからいいだろう」
「こちらが、屋敷の地図とカギです」
「ありがとうございます」
「それと、今回お主を呼んだ理由はほかにある」
「何でしょう」
「そなたの作る食事は素晴らしいとエステリアから聞いてな。是非とも食してみたいと思ったのだ。何か作ってくれ」
「私の分もお願いします」
「・・・もしかして、今回急いだ理由はそれでしょうか」
「うむっ!そうだ。もうじき昼だからな、急がせた」
思わず叫びたくなったが必死にこらえた自分を褒めつつ、目の前で昼食に心躍らせる自国の重鎮に呆れ果てる。
食事を作ってくれというのなら事前に言ってくれれば何の問題もないが、急に言われてできる物ではない。確かにアイテムボックスには仕込みの終わった物がいくつか入っているが、それでもだ。
「リクエストは、お聞きしませんよ。何分急なのでできる物が少ないですから」
「構わんよ。それでは行こうか。食堂の隣に小さいが調理場がある」
「では、行きましょうか。陛下」
「そうだな、ライナードよ」
二人が先行するように歩きだしたので、後について行く。
途中、話を聞いたエステリア王女と王妃様の二人が合流し、漸く一行は食堂に到着した。
メイドに案内されて、併設されている調理場に入ると意外と広いことに驚くが、それは直ぐに終わりを迎える。
監視のためだろうか騎士たちが厨房に入って来たのだ、それも手伝いのメイドたちと共に。おかげで一気に狭くなった。
ここで騎士たちを追い出せば要らん疑いをかけれらてしまうために文句は言えないが、せめて鎧姿で入ってくるなっ!邪魔でしょうがないっ!
しかし、陛下たちも時間がないだろうから、ここはパスタにするか。
ペペロンチーノだと手抜きだと思われるから、直ぐに出来て尚且つ見た目のいいカルボナーラ辺りがいいだろう。
水の入った寸胴を火にかけながら、食品庫に材料を取りに行く。
食材庫には色々な食材があり目移りしそうになるが、目的のベーコン・卵・ミルクなどを持って戻る。
念の為に、ベーコンの塩分を確かめるために味見をすると。
「・・・っ、ぺっ。しょっぱ!」
味見したベーコンは塩分がかなり強かった。
辺境伯領では地産地消であるから塩は薄目で肉の凝縮した味がして美味しいが、王都の場合は流通の関係上どうしても塩を強くしなければならない。王都の近くで討伐したオークを材料にすれば塩を少なくできるだろうが、安定して仕入れができないだろうからこの塩加減で仕方ないのかもしれない。
もっとも、地下の調理場にはあるかもしれないが、取りに行く時間はないのだ。
塩辛いベーコンをこのまま使うことはできないので、今回はアイテムボックスから自作したベーコンを取り出す。
Aランクのオークジェネラルのバラ肉から作った特製ベーコンをカルボナーラ用にカットして、沸騰した寸胴にスパゲッティを投入する。
その間にソースを作っていき、茹で上がったパスタをザルに上げる。
作っておいたソースに絡めて器に盛り付けていき、最後に名前の由来になった黒コショウをふって完成だ。
デザートはこの間試作したアップルパイでいいか。
「出来ましたので、配膳をお願いします」
「畏まりました」
後ろで見ていたメイドに運んでもらい、厨房を出る。
陛下たちを見ると、丁度配膳が終わったようだ。
「ケネスよ。この料理の名はなんという」
「はい、この料理はカルボナーラといいます。使っているソースは別名炭焼き職人ともいわれています」
「?なぜ、炭焼き職人のだ」
「パスタに振りかけてある黒コショウが炭のように見えたからというのが名前の由来です」
「・・・なるほどね。いい匂い」
「騎士様たちが先に頂いていますので、毒見は済んでいます」
「では、頂こうか」
「「「「「・・・・っ!!」」」」」
陛下たちがカルボナーラを口にするとそこからは無言で食べ始める。
しばらくして、食べ終わった器を回収した後、デザートのアップルパイと、それを作った際に出たリンゴの皮を使ったアップルティーを陛下たちに配膳していく。
「・・・ほう、デザートもあるのか。これはなんだ?」
「リンゴを使ったデザートです」
「このお茶もあまいリンゴの香りがすばらしいわ」
王妃様にも好評のようだし、エステリア王女もアップルパイを頬張り幸せそうにしている。
それを見ていると、視線に気づいたのかエステリアは下を向いてしまった。
「さてと、素晴らしい昼食を頂いたので午後の仕事を頑張るとするか」
「そうですな。各部署からの書類が執務室に届いているはずですからお願いします」
「う、うむ。分かっておる。ケネスよ、今日はご苦労であった。報酬はライナードから貰うといい」
そういうと陛下は逃げるように食堂を出ていく。
慌てて近衛兵がその後を追っていくのを見送ると、ライナード宰相がいくらかの貨幣が入った袋を持ってくる。
「今日は済まなかったな。たいへん美味しかったよ、これは今回の報酬として受け取ってくれ」
「ありがとうございます」
「うむ、では私も仕事に戻るよ」
そういうとライナード宰相も仕事に戻っていく。
王妃様はもう少しここにいるようなので受け取った屋敷を見に行こうかと考えていると、すぐそばにエステリア王女が来た。
「ケネスは、この後どうされるのですか?」
「報酬として貰った屋敷を見に行こうかと思います」
「なら、ついて行く。いい?」
「いやしかし。それでは婚約を秘密にしている意味がなくなるかと」
「・・・むう。それなら城の中の案内をする」
「それなら・・・いいのか?」
「問題ないと思う」
「まあいいです。行きましょう」
エステリア王女の案内を受けて、王城内を歩くことになった。
勿論帰るためなのだが、一緒に歩くだけでも彼女は嬉しそうにしているのでなにも言えなくなる。
少しでも長くしたいのか城門へ一番遠回りになる道を選んでいるようで、中々着かない。
「前を向いていないと、危ないですよ。エステリア王女」
「エステリア王女だと他人行儀、リアでいい」
「わかりました。二人だけの時だけですよ。・・・リア」
余程嬉しかったのか、赤い顔をしながら急に前に向かって走り出してしまう。
止めようと声を掛けようとしたが。
「うあっ!」
「きゃあっ!」
・・・遅かったようだ。
少し先の分かれ道を歩いていた人がいたらしく、二人が激突したようだ
衝突した衝撃で相手が持っていた書類が紙吹雪のように宙に舞う。
「大丈夫ですか?エステリア王女」
「・・・だ、大丈夫」
後ろに倒れそうになった彼女を支えていると、それに気づいたのか慌ただしく姿勢を正す。
ぶつかった相手を確認するためにリアを後ろに連れて現場に向かう。
「大丈夫ですか?」
「あ、ああ。腰を少し打っただけだから、大丈夫だよ」
腰を摩りながら立ち上がったのは、若い男だった。
黒いローブに茶色のボサボサ頭、そして分厚い瓶底眼鏡をかけている。
「あの・・・アーヴィング卿、ごめんなさい」
「いやいや、ぶつかったのが私でよかったよ。次は気をつけてください、エステリア王女様」
「・・・はい」
二人の会話を聞いていた俺は、アーヴィング卿についてカスミからの報告を思い出す。
アーヴィング=フォン=サードニクス伯爵。この国の財務大臣を務めている男で、ライナード宰相の奥方の身内で、その縁で経理部に入ったようだ。たった数年でメキメキと頭角を現していくのを前財務大臣の目に留まり、昨年大臣の位を譲られたそう。
ただ、彼に関して王城内での通り名がある、それが「経理部のオーガ」
これまで、彼が関係した案件で無駄な箇所あったら絶対に受理しない、直談判や権力を使っても無駄だった為についたものらしいが、見た目からはそう見えない。
「アーヴィング卿、書類を集めるのを手伝いますよ」
「私もやる」
「ありがとう。君は・・・そうか、君が英雄のケネス君か」
「はい、ケネス=フォン=ホラント男爵ですが。自分は英雄ではありません、人として当たり前のことをしたまでです」
「いや、その言葉からでも十分英雄だよ」
三人が床に落ちた書類を集めていく。
しばらくして集め終わると、中々の厚みを持った束が出来上がった。
「これを一人でお持ちに?従者の方は?」
「ああ、食事を済ませたあとに近くの部署から回収してきたのさ。従者には先に戻って作業を進めてもらっているよ」
「なるほど、ではこの書類は自分がお持ちしますよ。丁度、アイテムボックスを持っているので」
「そうかい、なら頼むよ。お礼にお茶でも飲んでいってくれ」
「はい。・・・そういうわけで、エステリア王女様。自分は少し寄りみ」
「・・・私も行く」
「はっはは、構わないよ。エステリア王女様もどうぞ」
余り感情を表に出さないエステリア王女の行動と押され気味の英雄君を見てアーヴィングは微笑ましく感じる。
ケネスが書類をアイテムボックスにしまい終わると、三人は財務大臣の執務室に向かって歩いていく。
何とも奇妙な集団が歩いていく光景は、少し異様だが誰もそれを口にするものはいなかった。
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