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リハビリテーション  作者: 雪乃府宏明
4/4

ある青年の主張から

 ……。

 ………………。


 ……え……ちょ、何?

 『お前の話を聞かせろ?』 ……唐突に何ですか、一体。しかも今、自分の質問の内容、俺に喋らせたでしょ?


 いないじゃん、質問されて、同じ文言そっくりそのまま聞き返す奴。


 いい? 確かに文字で書き表された事は、それだけで、読んだ人にとって『現実』になる。でも、その『現実』に『リアリティ』がなかったら、その文字が作り出そうとする『現実』に没頭する前に、『え、何? ちょ、これ、どういう事?』ってなって、集中できなくて他の事考えて『あー、もういいや』ってなるワケじゃん。


 誤字脱字はもちろん、言葉の使い方とか、人に寄っちゃ、改行の仕方や点の打ち方ですら『うぐ』ってなっちゃうワケですわ。


 今、俺に『お前の話を聞かせろ?』って言わせたでしょ? そーれはないわ。それはリアリティない。そんな奴いない。だからもうちょっとリアリティのある書き出しいたーいたーいたーいたー痛ーいっ!!


 痛いって文字に書いちゃうだけで俺、大ダメージ。

 まぁ、何が起きた事にしたっていいんだけど……今はこう……腕をぐりって捻り上げられて、つま先で軽く民族ダンス踊った、って考えてもらえれば大体合ってるよね? ……合ってますよね。


 ……わかっ、わかっ、わかったっ! わーかりましたっ! やります、やりますって、自己紹介! ……そんなしゃちほこばったモンじゃなくていい? ……あー、もう……言葉にも気を付けないと、どんどんメタ要素が酷くなっていく……。

 大体言わないですよ、しゃちほこばったなんて。誰が好き好んで天守閣の一番上で三転倒立かまさなきゃいけないのかって話……はいはい、すーいーまーせーん。


 こーゆー面倒くさい奴ですよ、俺は。

 何かにつけて小利口に立ち回ろうとする、狡っからい……あ、こすっからいってこう言う字書くんだ……あー、まぁ、そんな、自己非難がよく似合う、どこにでもいる大学生だって。


 ……うーん、でも狡っからいって言うのもちょっと違うか。そんな策士めいた事、得意じゃないし。ただただ、その時に合わせて言葉を選んで、面倒ごとは華麗なスルーをかませたらいいな! って思ってるだけだし。

 そう考えると凄いよな、本気で狡っからい人って。自分がそうであるって言うなら、人生において生きる道の先々に、常に策を巡らせて生きてるワケだ……おー、すーげー……町の保安官たちを待ち構えるランボーとどっちが上になれるだろーかと……。


 ……脱線するんですって、俺は。

 だから人にめんどくさがられるの。

 一つの事を話すのに回りくどいって言われて早20年ですから。……あ、これじゃ赤ん坊から回りくどい人間だわ。ンな奴いねーわ。……俺はそうじゃないと信じてーわ。


 口で話すのが、苦手なんだよな。

 何かしら回り道して、外堀埋めて、埋めた気になって、他人から攻撃されまい攻撃されまいってしてるんだろうなって思う。

 でもよく見ると綻びだらけ、隙だらけで、攻撃されて、反撃手段がないから綺麗に全身ハチの巣状態と。素晴らしい人生でした、と……。


 でも、当然望んでそんなことになりたいと思ってるわけじゃない。

 それを回避するための手段として……俺は愛想笑いと、適当な相槌と、尖ったことをしゃべらない、という防具で身を守ることを選んだ。


 ……そうすることが、楽しいかどうかは分からないよ。

 でも、世間にはもっと自分の生き方を楽しんでいる人がいるんだろうなって思うと、ヤになる事も多くてね。


 はぁ……まぁ……そうやって人と比べて生きる事が、つまらない生き方だなんて世の中言われてるわけですが、どうやったらそんな生き方を脱却できるんだろうね……俺には分かんないや……。


 ……え……? ……もっと外面的な話とかしていいの?

 外面ってか、外見……って、それこういう話する時に一番最初に出さなきゃいけないんじゃないの!? 読んでる人、勝手な想像逞しくしちゃって、勝手に俺も逞しくなっちゃってるかもしんないんだよ!?

 最初にイメージさせるの、当然でしょうよ……ただでさえ伝わりにくい事べらべらしゃべってんだから……。


 身長、ちょっとひょろひょろ高い。

 体重、ちょっとひょろい。

 どっちかっていうと、控えめに言っても言わなくても貧弱な体つきだろうなって思う。

 運動? うん、苦手! いやー……もう個人的には、歩く姿すら実は他人と比べて出来損ないのモンスターみたいな事になってるんじゃないかって心配だからね!

 ……それは言い過ぎとしても、とにかく肉体を使った事には何の自身もないコンプレックスの塊です。


 ……自分で言っててヤになってきた。

 えーと。


 ……好きな事とか喋ってもいいの?

 うん、そっちの方がしゃべる方も聞く方も気が滅入んなくていいんじゃないかなって思うよ。


 好きな事。

 ……うん。物書きになりたいって思ってる。


 それが小説なのか、童話なのか、絵本なのか全然わからない。でもずっと子供のころから頭の中に色んな物語が生まれて、それを形にしたいって願望がいつでも渦巻いてて。

 その表現手法って奴がまだどうにも見えなくて、誰に伝えたいのか、どういう方向性で描くべきなのか、それがずっと決めあぐねてるって感じ。


 確か小学校の低学年の頃だったと思うんだけど、近所にヘンなおっさんがいてさ。俺たちみたいな暇なガキ集めて、話を聞かせてくれたんだ。

 ……今にしたらあのおっさん、間違いなく通報されて事案になるね。


 それはいいとして……まー、その話ってのがまた突拍子もなくてさ、国を救う英雄が、突然降ってきた隕石に潰されて死んで『人生ってのは何が起こるか分からないモンなのさ』とか、借金まみれの貧乏な奴が、もう少しでお金持ちになれるってところで頭のおかしい奴に刺されて(大体主人公がみんなろくでもない死に方で死んでた)『幸福は簡単に手に入らないんだぜ』とか、『まじで!?』ってなる教訓残して終わる話ばっかりで。


 でも聞いてたみんな大爆笑で、突拍子もないその物語は、そのおっさんの話し方とか演出とかもググッと引き込むだけのパワーがあったせいで、どんな絵本よりも、刺激的だったんだ。


 俺はどうも、その人の影響を受けてるらしくてね、少し前に図書館でバイトしてて、集まった子供たちにお話を聞かせる会とかがあって、そこで、俺が話を聞かせる役になって。


 で、最初は司書さんと話して決めた童話の本とか読み聞かせしてたんだけど、なんだか退屈でねー……。なもんで、最後の最後で、スペシャルで特別なコーナー、とか言って、図書館に内緒で、子供たちに『俺の話』を聞かせてやったんだよな。例のおっさんの話に負けず劣らずの刺激的なオチでさ。


 あの時話したのは確か……あ、そうだ。魔女に滅びるって宣告された国で、国民みんなが全裸になって海に向かって飛び込んでく話。ミソなのは飛び込んでいく人たちの効果音ね。ぴぽぽーん! とか、しゅばばーん! とか一人一人変えて。

 残った王様と魔女は、顔を見合わせて、首を傾げていましたとさ……。


 子供たち、大爆笑。

 連れてきたお母さんたち、クレームの嵐。


 わっかんねーよな、アレで呆気にとられるなら分かるんだけど、『キレる』親って。モンペア? モンペアなの、アレが?

 え? ……いやいやご冗談を。なんで俺がモンスターなのかっての。……面白い事言うね。出来合いの物語で人の心を食う、かー。それはそれで刺激的な作家だなー、いいなー、それ。


 まー、それはいいとしてさ。なんだか良く分かんないまま、司書さんにメッチャ怒られて、そのまま首になりました。

 図書館のあの読み聞かせのイベントも当面お休みになったとか。

 最後の最後まで意味分かんなかった。


 まぁ……多分、ズレてんだろうなってのは何となくわかるんだけどさ。でも、俺が好きなものはそう言うフツーの人からしたら素っ頓狂な話なんだからしょうがない。

 だから迷うんだよ。どんな形で人に伝えたらいいか。

 こんな話でも、笑ってくれる奴らはいたんだ。だからそういう話を、上手くまとめれば、きっと大勢が笑ってくれる話がかけるんじゃないかって、今は勉強の最中だよ。


 あ、でもちゃんと評価してくれる奴はいるんだよ?

 同じ大学の同期の譜治光ふじみつは、いっつも俺の話を楽しそうに聞いて。ってか、俺の所に聞きに来てくれるぐらいだもんな……。


 はぁ……。……あいつはいわゆる才媛ってやつでさ。同じ大学生なのに、2冊ぐらいか本を出してるんだよな。たしか児童文学だったはず。書店にも並んでるのを見てスゲーって思ってる。しかも……美人だし……。なんであいつは俺の話なんか聞きたがるのかなぁ……。


 え? ……いやいやいや! 俺があいつの事どう思ってるかって、なんか期待してるのかもしんないけど、違うからね? マジで好きとかじゃないよ、多分。あいつの前だと、俺は俺の話を聞いてくれるから話ができるんだけど、多分そういう物語以外の話は気後れしてできないと思うんだよな……あはは……。

 憧れてる人なのは確かだよ。でもコレ、恋愛感情みたいなのじゃないよなぁ……。


 あ、そういうのいらない?

 ンな事言ったって、話せって言ったのそっちじゃんかよぅ。


 まぁ、いいや。こんなトコでいい?

 今日はまたヒマだから、またいつもの喫茶店行って話とか考えよっかなー、って思ってるトコ。


 え? ……何? 名前?

 って、なんでそんな大事な情報一つ一つ後回しで聞いてくるわけ!?

 もう自己紹介終わりだっつってんのに……。ってか、名前も知らない俺の事聞いて楽しいの!?


 はぁ……まぁ、いいや。……いいやっていうか……名前……なま……うーん。


 ……分かったよ、言うよ!

 獅堂紅蓮しどうぐれん! はい、どーですか!


 ……だよね。そういう顔になるよね。名前負け、人生全戦全敗ですよ、マジで。どこが真っ赤なんですか。戦隊モノのドセンターですか。強そうとか知った事じゃないからね。

 苗字は仕方ないじゃん。でも、名前はどうにかなんなかったのか、父母よ……。こんな猛獣で暑苦しそうな名前、アニメの中かラノベの中にしかいねーよ。ってか、ラノベでももう少し考えるわ。

 こーゆーキラキラネーム、マジで子供歪むよー……?


 まぁ……俺が歪んだ性格に見えるかどうかは人それぞれって事で。

 とりま、こんなトコでいいよね。またどっかで会ったら……って……。


 え……ちょっ……マジ!? このタイミングとか……いやだよー、喫茶店でのんびりするトコなのに……。ったく……。


 え? ……あ、いや、ゴメン、これは完全にこっちの事!

 なんせ、『地球平和を守る』なんて副業してるもんだからさ。……あはは、はいはい、その顔は正解。

 そんなおかしな事言ってる奴って見え方でいいよ。別に誰に知られても知られなくてもいい副業だからね。


 気をつけて帰ってよ。これ以上酷くならないことを祈るけど……最近マジで――『物騒になってきてる』からね。


 それは『誰か』次第ではあるんだけど。あはは。……じゃ!


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