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近頃のゲームともなると、キャラクターメイキングの幅がとんでもなく広いことが多い。それはファッションなどと同じく、個人個人で個性を出させるという企業側の配慮があるのだが……もし、そういった場面で受けを狙おうと考える人がいるならば、どうか考えなおしてほしい。友人と始めたオンラインゲームで、その友人を笑わせようとした自分の判断を、今になって後悔している人間がここにいるのだから。
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目が覚めて最初に目に入ったのは、部屋の隅に置かれた姿見だった。
「え……?」
間の抜けた声が口の端から漏れ、そして、その声にもまず違和感を覚える。
思わず喉を押さえる。すると、鏡の中にいた豚人間も、同じように手を喉へと伸ばした。
そう、豚人間。
どんな言葉で目の前に写る姿を表せられるか考えた時、まず頭に浮かんだのはそれだった。
豚のように前を向いた、顔の三分の一を占める大きな鼻。分厚いまぶたに半ばまで埋もれた小さな目。黄ばんだ長い犬歯の鈍く光る、だらしのなく開いた口。
思わず立ち上がり、おぼつかない足取りで鏡に近づく。
二メートル超の巨躯に、力士のそれを二回りは大きくしたブヨブヨの胴回り。丸太のような腕、短く太い三本の指。そして半ばまで腹の肉に埋もれた短い足。
――オーク。
鈴科翔馬は、その姿に見覚えがあった。
つい先程まで、友人とともにボイスチャットで会話しながら楽しんでいたオンラインゲーム。その自キャラ……”ショーマ”の姿だったからだ。
目をこすってみる。
頬をつねってみる。
部屋の中を歩きまわってみる。
壁に立てかけられた身長大のハンマーを手にとってみる。
テーブルの上に置かれた革袋の中を覗いてみる。
……どうやらこの部屋は、ゲームの中に存在した宿屋の一室のようだ。その間取りや家具の配置に、見覚えがある。
そんなことを確認しながらもう一度鏡を覗いてみると、先ほどと変わらない豚人間がこちらを見ていた。
「どういうことだ……?」
呟いてみる。空気と骨を通して聞こえた自分の声も、いつもとは全く違ったものだった。
まさか、ゲームの中に入り込んだとでもいうのか。
まさかとは思う。だが、ならばこの状況は何なのか。
最後の記憶を思い出してみる。
友人からの電話。パソコンを起動し、ゲームを起動する。ボイスチャットで冗談を言い合い、自分はオークを駆って重戦士として盾役を全うし……そして、そこからの記憶がない。
全身を蝕む焦燥感。
思わず、ベッドに座り込んでいた。その体重にベッドがギシギシと悲鳴を上げる。
手で顔を覆う。
そして大きく息をつく。
――なんでこんなことに。
そんなことを何度となく呟きながら、翔馬はしばらくその場から動くことができなかった。




