魔法検体11《照明》#2
冒険者ギルドに戻ると、衛兵と冒険者たちが集まっていた。
「繁華街の奥の地下だ。水害対策の大きい水瓶があるだろ? あそこに固まっている」
「魔物の種類は、おそらくアンデッド系だが、数が多すぎてわからなかった」
「目的は魔法書だな。逃走ルートはこっちで塞いでおくから、上から叩いてくれ。セイチと言ったか。お前はどうするんだ」
シーフのプロたちが報告していた。
「俺は……」
「上から行け。このセイチって古代魔法の使い手は妙なところに手が届くし、亡霊系のアンデッドなら秒で討伐する。空きビンを持って行け。自分のできることだけやればいいんだから」
「はい」
先輩冒険者に励まされて、俺は衛兵と冒険者の教官たちとともに、繁華街へと向かった。繁華街と言っても、すでに閉店している店ばかり。後片付けをしている店員たちが、衛兵たちを見て、何事かと表に出てきた。衛兵たちもまさか魔物が街中に現れたとは言えないみたいだ。
「表には出ないように。魔物に襲われるぞ」
後ろの冒険者たちがバラしていた。
「ひっ」
蜘蛛の子を散らすように店員たちは店を閉めていた。
繁華街の隅にマンホールがあり、そこから下りていくという。
「罠を張っていいですか」
俺が冒険者と衛兵に聞いた。
「どんな罠だ」
「地面に張り付かせるような」
「空を飛んでくるものはどうするんだ」
「それは瓶に入れちゃいます」
「わかった。なんでもやってみろ」
「一旦、火球で魔物たちの分断を図ってみる」
「前衛より前に出ないでくれ。アンデッドだから呪われるかもしれんが……」
俺は前衛の4人に「保温」をかけておいた。
「しばらく状態異常にはなりません。もし、それでも呪われたり、毒にかかったりしたらすぐに言ってください」
「お前さん、プリーストか?」
「いえ、古代魔法の使い手です」
そう言うと、皆笑っていた。
「そうか。頼むぜ」
マンホールを開けた瞬間に、冒険者の魔法使いたちが火球を放ち、風を送り込んでいた。前衛が盾を担いで、鉄のはしごを下りていく。俺たちも続いた。
巨大な部屋に数十体の骸骨や動く死体が蠢き、霊体が飛び回っている。
「残念だが、計画は潰させてもらうぞ!」
前衛の戦士が部屋中に声を響かせる。その間に、泥濘んだ地面に「接着」を放っておく。注意を引いてくれる存在がいると便利だ。
姿を保ったままの亡霊たちもいるので、「切断」を構える。
「何をやってるの?」
後衛の魔法使いが聞いてきた。
「瓶に入れやすいように亡霊を縮めようかと」
「はい?」
俺は返事もせずに、土地とアンデッドたちの関係を切り離しに掛かる。アンデッドたちが揺れる亡霊に驚いている間に、盾部隊が声を上げて威嚇してくれる。
こちらに向かってきた骸骨剣士や動く死体が「接着」にかかり、転んでいた。前衛は盾の縁で頭蓋骨を割っている。
未だ飛んでいる人魂や影の魔物を空きビンに「収納」し、「清掃」で解呪していく。それほどレベルが高い魔物ではなかったのか、すぐに消えた。
最後に残ったのはリッチという魔物の中でも上位の化物だった。俺は古代魔法「照明」で戦いを照らし、リッチから放たれる精神魔法を可視化した。その魔法、呪術の一切を「切断」し因果を断ち切っていく。シャドウィックと呼ばれる影の魔物たちがリッチの助太刀に入ろうとしていたが、後衛の魔法使いたちが火球で焼いていた。
後は、前衛が肉弾戦で一気に畳み掛ける。生者の筋肉と死者の魔力をまとった骨では、筋肉が勝つ。
絶叫とともに朽ち果てたリッチの魂を「清掃」して、緊急依頼の討伐は完了した。
「全部回収して帰ろう。魔物の痕跡なんてあったら、また豪雨の後に水の魔物が発生しちまうから」
衛兵たちの呼びかけで、簡単な部屋の掃除が行われ、定期的に掃除することが決まった。
はしごを登って、マンホールから出るとシーフのプロたちが待ち構えていた。すでに朝日が昇っていて、繁華街では仕入れの配達員たちがギョッとしていた。
「どうだった?」
「親玉はリッチだ。なんでこんな街に入り込んだかは知らないが放置してたら大変だったな」
「古代魔法のセイチは使えただろ」
なぜか俺を褒めてくる。
「アンデッドに関しては、ほとんど私たちの出番はなかったね」
「これでプリーストじゃないんでしょ。さっぱり意味がわからないわ」
「ただ、実力はある。俺たちは転んだアンデッドの頭を潰すだけだった」
「リッチの魔法も呪術も全部遮っちまう。負けようがない」
「全員、怪我なし。報酬をもらってくれ。一週間ぐらいはかかると思うけど」
冒険者ギルドに戻って、討伐完了を報告した。シーフのプロたちには酒に誘われたが、魔力が回復しないので、と断っておいた。
部屋に帰って、報告書を書いておく。
古代魔法「照明」は確かに、街灯や手持ちランタンなどに応用されているが、失われた効果の汎用性は高く、「切断」などと組み合わせると、アンチ魔法、アンチ呪術となり得ることがわかった。姿を隠している魔物にも有効で、仲間に敵の位置を知らせることが可能になる。確かに古代魔法「照明」は時代に殺されたかもしれないが、失われた効果が多いため、語り継ぐべき魔法だ。
俺は一眠りして、昼頃に起き出した。
井戸で顔を洗っていると、ランパリが声をかけてきた。衛兵たちは報告もあったから、それほど眠れていないのか。
「実力がバレたって聞いたけど」
「いえ、俺は亡霊と呪いを浄化させただけです」
「でも、話題になってるよ」
「そう言われても……」
そこで俺の腹が鳴った。どうやらレベルが上がったらしい。
「レベルが上がったかな」
「おそらく」
「じゃあ、しがない衛兵が昼食を奢ってあげよう」
「ありがとうございます」
そのまま冒険者ギルドの酒場で、麺料理とパン、鶏肉を香草で揚げたものなどを頼み、「いいんですか」とランパリに確認しながら食べた。
「必要経費で落とすから!」
ランパリは、リッチ討伐の必要経費にしようとして、報酬から引かれていた。
「それで誰と組むかは決めたのか」
悔し泣きしていたランパリが聞いてきた。
「ああ、その観点では見てなかったですね。古代魔法の『照明』が優秀で、そればっかり追いかけてました」
「じゃあ魔物は実証実験のためか」
「そうかもしれないです。目に見えない魔法や呪術の可視化までできるなんて、すごくないですか。しかも『切断』できるし。やっぱり使い方次第でかなり伸びそうです」
「まだ仲間はできそうにないか」
「あ、でも、わかりましたよ。仲間がいたほうが任せられる部分が多いということは」
「戦いやすかったか」
「できることが増えるじゃないですか。水の中でも呼吸ができるとか、捕まえた魔物は盾で潰せるのかとか、驚きは多かったです」
「一時的に組むのはいいけど、継続はしないか」
「古代魔法を調べている間、俺は参加できないですからね」
「学者でも仲間にするか。学者同士なら、お互い研究を認めあえるだろ」
「あ、それはいいかもしれません。専門家だと魔物と遭うこともないかもしれないので」
「え。そんな事あるのか」
ランパリは驚いていたが、俺は魔法図書館で学者風の人たちを何人も見てきた。冒険者ギルドで仲間を探すより、魔法図書館で学者の仲間に声をかけたほうがいいのかもしれない。
俺はふと右手に握ったスプーンが曲がっていることに気がついた。レベルが上って力の使い方が慣れていない。真っすぐに伸ばして戻したが、レベルが上がれば不具合も出てくる。
しばらく身体が慣れるまで薬草採取に勤しむことにしよう。




