49.魔女と呼ばれた女の覚悟(1)
目が覚めた。自室のベッドのようだ。
陽介は身体を起こし、腹部を確認した。傷口はふさがっている。ミオリが再び治してくれたのだろう。
机の上にスマホの残骸があった。こちらに関しては修理は無理であろうアリサマだった。マイクロSDが無事なら中のデータは取りだせるかもしれない。そう期待してみたが、期待するほど重要なデータなど入っていないことに気づく。
陽介は掛時計で時間を確認した。夜の九時だ。
「あれからどうなったのだろう……」
つぶやきながら、部屋を出る。ばったり芽衣子とでくわした。
「あれからどうなったの?」芽衣子がいった。
「あれからって、いつからだ?」
「なにいってんのよ! 私がミオリに眠らされてからに決まってるじゃない!」芽衣子はイラつきを隠さずにいった。「まったくミオリのやつ、とっちめてやる! 下にいるんでしょ!」
「俺もさっきまで寝てたから、わからん」
「なんで呑気に寝てんのよ!」
「なんでだろうな」陽介はいいながら、階段を降りた。
芽衣子はぶつくさと愚痴をこぼしながらも、後ろをついてきた。扉を開けリビングに入る。誰もいなかった。
キッチンを見るとダイニングテーブルで母が一人、うなだれるように座っている。
「母さん」声をかけると、母はゆっくりとこちらを向いた。
「ミオリちゃんと結婚するの?」
「はあ!?」と返したのは芽衣子だった。
母は芽衣子を無視して続ける。「今ではオレオレ詐欺もずいぶん巧妙になっているのよ。警察を名乗るヤカラもいるらしいわ。ミオリちゃんはすぐに騙されるんじゃない?」
しっかりしていると思っていた母も、こんなに天然なところがあったのかと驚いた。
「そのミオリさんはどこにいるんだ?」
「結婚するには婚姻届けが必要だといったら、それを取りにいったわ」
「もう夜だぞ。役所は閉まってるだろう」
「それもあるけど、そもそも市役所にたどり着けるかしら……」
「そういうのは、魔法でなんとかなるらしいぞ。ジンがいってた。風の魔法がなんちゃらと……」
「たしかに風の魔法で情報を集めれば、いけない場所、探せないヒトはいないわ。それでも迷子になれるのがミオリの凄いところだけどね」芽衣子は小バカにするように笑った。「それよりシグゥアはどこにいったの?」
「でていったわ。芽衣子に合わせる顔がない、とのことよ」母が答える。
「はあ? 私が寝てる間に、なにがあったのよ!」
「シグゥアさんが鬼塚主任を殺そうとしたから、止めに入った。事故みたいなものだが、そのさいにシグゥアさんの手刀が俺の腹に刺さって死にかけた」陽介は早口でいった。
「なんでそんなことに!? 意味分かんない!」
「本当に、何も分からないのか?」
芽衣子はうつむき、上目遣いでこちらを見た。「……どこまで知っているの?」
「ジンから聞いた。一円玉がもたらした悲劇と、俺が『アユルの緩和』の適合者ということを」
「そう……」芽衣子は目をそらした。
「鬼塚主任は?」陽介は母に向かっていった。
「誰? ……今朝いた、一番まともそうなお嬢さん?」
「そうだ」
「知らないわ。少なくとも、私がパートから帰ってからは見かけていない」
「じゃあ、ジンは?」
「さっきまでいたわよ。でも、あなたたちが降りてくるのを見計らうように、大きな荷物を持って出ていったわ。あと、陽介に伝言よ。『私に任せてくれ』、だってさ」
ラカマルに白い世界へ飛ばされる直前、ジンはいった。芽衣子も陽介も犠牲になることなく、アルキアスを救うことが出来ると。
そのキーワードは『抑止力』。ニュースでもよく耳にする単語だ。すぐにピンときた。
「ジンなんてどうでもいいじゃない。私は風の魔法でシグゥアを探すわ。どこかでベソかいてるだろうから、むかえにいってあげなきゃ」
「そういう話なら、俺だって鬼塚主任を探したい。だが、今はジンを探してくれ」
「なんでよ?」
「ジンは芽衣子が犠牲にならなくても、アルキアスを平和にする方法がある、といった。詳しくは聞けていないが、ジンが残したキーワードからおおよそのことはわかる。その方法は諸刃の剣だ。平和になる可能性もあるが、破滅を導くことも大いにありえる。ジンが魔王として君臨する可能性だって低くない。俺はジンという人間をよくは知らない。芽衣子がジンに会って判断しろ」
「あいつ……またなんか悪巧みしてるの?」
「その逆かもしれないが、やはり俺では判断できん。芽衣子が決めるべきだと思っている」
「……わかった。じゃあ、魔法で探す」
「その必要はない。どこに向かったかわかっている。アルキアスに通じる例の神社だ。今ならまだ間に合う。急げ!」
陽介はいい、玄関に向かった。




