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アクマテキ  作者: なん
二章
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命の花弁

 田擦は伊達寺を眺めていた。目を奪われていた。

 伊達寺とはそれなりの付き合いだ。伊達寺の実力も知っていた。否、知っているつもりだった。

 第二種放逐官が二体の陀付に嬲られ手も足も出ないというのに第四種放逐官の伊達寺が四体の陀付を相手取っている。


 攻撃を弾くばかりか少しずつ反撃もしている。

 驚異的な反応速度だ。反応に追いつく身体能力も恐ろしい。

 拳の嵐を弾きいなし躱し逸らし受け斬る。

 その光景に見蕩れていた。

 デーモンすら一瞬動きを止める程の異状。


 駄!


 田擦は駆けだした。

 デーモンが注意を逸らした一瞬の間隙を見逃さない。

 ヰ丁班長を襲っていた一体の左足を斬り裂いた。

 地面に叩き付けられ斃れた。

 もう一体が怒った様に痙攣する。


 瀕死のヰ丁班長を庇いながら構えた。

 生き残った揉短班員も班長の助太刀に入った。

 伊達寺の強さを信じて班長を助ける選択をした。

 片膝をつく班長を庇いながら揉短班員の二人も応戦する。

 田擦は刹魔を握り込んだ。


 絶望的な状況であることは変わりないのに。

 伊達寺の雄姿を見たからか際限なく力が湧いて来る。


「来い!」


 陀付が躰を思い切り捻じり高速の拳を繰り出す。

 放逐する。絶対に。

 陀付の短い拳が目の前に広がる。


 断!


 血塗れのヰ丁班長が飛び出し大斧の刹魔で陀付を両断した。

 歯を食いしばり白目を剝いていた。

 『血発』を解除し刹魔を大斧に戻していた様だ。

 糸が切れた様に跪き荒く呼吸をする。


「ヰ丁班長!」


 急いで駆け寄り抱き抱える。


「tあすらさん。…………あとは、ごぼっ。……あとはあ、たのんだよ」


 虚ろな目でしとしとと紡ぐ。

 夥しい出血をしてなお彼は力強く田擦の手を握った。

 射貫く程に力強い眼力。


「かならず。放逐してくれ」


 遺志を乗せた言葉を出し切り瞳から光が消える。



「ヰ丁班長!」

 身体を揺らす。涙で視界が滲む。

 だめだだめだだめだだめだだめだ。


「死んじゃだめだ。あなたには家族がいるでしょう」


 震える声で訴える。

 目の前の事実を受け止められない。

 ヰ丁班長との時間がフラッシュバックする。

 こんな私に良くしてくれた。優しくしてくれた。

 家庭もあるのに他人を優先して行動していた。

 恩返しをしなければいけないと思った。

 こんなに善意を向けられたのは初めてだったから。


 ご飯に誘ってくれて嬉しかった。

 少しでも恩返しになればと自分が奢るつもりだった。

 ヰ丁班長の命はヰ丁班長だけのものじゃない。

 ヰ丁班長には帰りを待つ人がいる。

 なのに。


「あなたがご飯に誘ってくれたんですよ。あなたが死んだらいけない。どこにもいけない」


 涙が溢れて止まらない。

 ヰ丁班長の緩んだ身体を抱き締める。

 命がまた一つ散った。


 びしゃ。


 唐突に温かいものを浴びた。

 血だった。

 顔を上げると揉短班長を庇っていた一人が膝をつき、斃れた。


「あああ、あああ、、ああ」


 震えながら後退る最後の揉短班員。

 其の女の若々しい顔が恐怖で歪む。

 華奢な身体を震わせついにへたりこんだ。


「に、げろ」


 言葉を絞り出す班長の言葉は虚しく散る。

 二体の陀付が這いより躰を捻じった。


「ごごごごががごぼぼぼばばぶぶがぶ」


 繰り出される拳の激流に全身を弄ばれた。

 ぐちゃぐちゃに抉れた身体が襤褸(ぼろ)雑巾の様に打ち捨てられる。


「あ、あああ、嗚呼ああああああああああああああ」


 呻く。咽ぶ。

 俯く揉短から雫が落ちた。


「血発」


 揉短の刹魔が赤く輝いた。

 際限なく使用者の血を吸っている。明らかに致死量。


「揉短班長!だめです!あなたまで失うわけにはいかない!」


 ヰ丁班長の遺体をそっと置き揉短班長の方へ走る。


「俺はさ、努力すれば何でも出来るって信じてる。第二種放逐官に成ってから血発の制御訓練をひたすらやってきた。これだけ血を与えれば普通なら暴走する。でも俺なら制御できる。制御して見せる。そしてここにいるデーモン一匹残らず放逐する」


 立ち上がる。彼の瞳は決意に満ちていた。

 もう止められない。


「田擦日田向さん。君はどれだけ追い詰められようと、どれだけ自分を責めようと。諦めず決して歩みを止めないで欲しい」


 何でそんなことを云うのだろう。まるで死にに行くみたいじゃないか。

 デーモンを放逐しても生きていなきゃ意味が無いじゃないか。

 生き延びるためにデーモンを放逐するんじゃないのか。

 ここで死んだら機関にも大きな影響が出る。


 ダメだ。死んだらダメだ。

 あなたが死ぬくらいなら私が死ぬ。

 貴方は私より生きるべき人間なのだ。

 だって私は。わたしは。


「私は——」


「仲間の死に躓いてしまっても。君は進み続けて欲しいな」


 一体の陀付が揉短に突進する。

 満身創痍の揉短では避けることも受けることも叶わない。否、避ける必要など無かった。

 刹魔を振るう。陀付の皮膚を掠めた。

 突進が直撃する刹那に陀付が細斬れに成った。

 肉片が揉短を通過する。


 大量の血液を与えて刹魔は大幅に強化されていた。掠めただけで無数の刃に刻まれる程に。しかもその刹魔を完璧に制御している。

 暴走寸前、ギリギリの血を与えたのだ。

 よろめきながらもう一体へと歩む。

 応える様に陀付も突進した。

 刹魔を振るう直前に突進の軌道を変え横から激突した。

 反応できずもろに食らってしまう。

 吹き飛ばされ地面に転がる揉短。

 刹魔は決して放さない。


「ヰ丁班長。俺が超える前に死なないでくださいよ」


 立ち上がろうと力を込めるがもう生きているのがやっとの状態だ。

 陀付はすかさず飛び掛かり蹂躙する。

 田擦は駆けるが距離がありすぎる。助け出す前に死んでしまう。

 滅多打ちにされる揉短をみて胸が痛む。同時に自分の無力を激しく呪った。

 止めの一発とばかりに躰を大きく捻じり拳を繰り出す。


「俺はヰ丁班長みたいになりたかった。結果なんて関係なく愚かなまでに努力するあなたみたいに」


 不思議と揉短の声が鮮明に聞こえた。

 瞳の光は未だ潰えていない。


 散。


 流れる様に立ち上がった揉短が流麗な所作で刹魔を振りぬいた。

 大振りの一瞬の隙を突いた一撃だった。

 其れは見蕩れる程に綺麗で彼が一太刀一太刀を鍛えてきた証だった。努力の証だった。

 陀付の肉片がぼとぼと落下する。

 次第に刹魔の紅蓮の煌きが少しずつ淡くなっていく。


(やっとあなたに追いつけたかな。ヰ丁班長。俺は昔才能が全てだと思ってたんですよ。今思えば努力しても結果が変わらないのが怖かったのかな。あなたに助けられてからほんとはずっとあなたを追いかけていた。継続は力なりってマジなんすね。俺昔から『血発』の制御苦手だったじゃないですか。良かったら見てくださいよ。俺の努力の証)


「————————————」


 そして完全に光を失った。

 揉短は刹魔を握ったまま二度と動くことは無かった。

 残りデーモン四体。

 残り放逐官二人。



 伊達寺は既に一体放逐していた。但し三体の陀付は未だ攻撃を続けており包囲から抜け出すのは困難な様だ。

 田擦は走った。

 仲間の死が散らばっている。それらを乗り越えて突き進む。

 地を駆ける振動で目から雫が零れた。

 止まらず走る。奔る。

 田擦が向かうのは伊達寺のもとではない。

 ドームの中心。刹魔が埋まっている地点だ。

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