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戦火とともに

「司令部より兵士諸君、プランCだ。本作戦はサードステージ移行。...生きて帰れよ」

予想より敵の分布がばらけてしまったがカバーできない程ではない。

赤茶けた大地に擬態して伏せっていた兵士がむくりと起き上がった。そして両翼から敵戦車隊を包囲攻撃。自走砲、戦車砲、対戦車ヘリも攻撃に参加する。

プランC、歩兵陣地におびき寄せて一斉攻撃。

最後の手段に設定され、採用されるのは他に手がない場合のはずだった。

できれば歩兵を立たせたくないのが司令部の本音。

装甲がない人体は容易に破壊される。

「出て来いくそったれえええ!」

「スプラッタにしてやんよ!」

白線が空を駆け、爆炎が上がる。

ついにキリマンジャロ大戦車戦と呼ばれる戦闘はNATO軍の勝利に終わる。

だが損害も大きく、NATO軍は戦線の後退を余儀無くされた。


一方の南米。

ここでも大規模戦闘が行われていた。

ペルーのリマに集合したアメリカ空軍を中心とした部隊。

ちなみに現在世界中で戦っているのは国連軍ではなく多国籍軍である。

中国の強硬な反発で国際連盟憲章第七条で定められた国連軍の編制が行えないのだ。


一月二十八日。

「ようダヴィ。ラプターの調子はどうだ?」

アメリカが間借りする基地の食堂で、ジョージ=エルフィンストーン少佐はダヴィッジ=グルード大尉に話かけた。

「すごい機体ですよ。少佐もヴァイパーよりラプターにしましょうよ」

「俺はステルスが嫌いなんだ」

ジョージはF-16Eのパイロットで、ダヴィッジはF-22Aのパイロットである。

ダヴィッジはジョージの教え子の一人。

今でこそ合衆国空軍のエースだが、ジョージに勝てたことは一度もない。

ラプターに乗ってからは未だ模擬戦を行っていないが、それでも勝てると思っていない。

「でも強いですよ?」

「ならヴァイパーの力を教えてやろう。明後日なら模擬戦もできるかもしれんな」

「!それは楽しみです」


二月一日。

模擬戦に備えて準備をしていた二人だが、敵の大編隊が接近中だというのでブリーフィングルームに集められた。

数十名のパイロットたちは思い思いの姿勢でブリーフィングを聞いている。

「敵は南から接近中。数も形式も不明。ようは簡単だ。Kill Them All、それだけさ」

作戦担当のいい加減なブリーフィングはすぐに終了。

どうやらラプターの性能を過信しているらしい。

しかしラプターでも堕ちるときは落ちるのだ。

もしかしたら作戦立案に関わった連中すべてがそこを分かっていないラプター信者なのかもしれない。

奥の方では他のパイロットがなんのためのブリーフィングだ、馬鹿馬鹿しい。と怒りを露にしていた。

「おい、スコア競うか?」

「例のごとく、負けたら一晩奢りでいいですか?」

「オーケー」

模擬戦前恒例のやり取りを交わし、それぞれの格納庫へ別れる。

ウエポンベイにミサイルを詰め込む様子を横目にコックピットへ滑り込む。

AIM-120を六本とAIM-9を二本の計八本。

計器やフラップのチェックを終え、滑走路へと誘導される。

(そういやラプターの初実戦だっけ…)

轟音と共に猛禽が空へと飛び立った。


〈こちら空中管制機ゴーストアイ。オールウエポンズフリー、繰り返す。All Wepons Free!敵を当空域より駆逐せよ。これは演習ではない。それに下は山だ。広いにいくのは億劫だから落ちるなよ〉

こちらは全機管制機だけでなくイージス艦ともデータリンクを行っており、敵のステルス戦闘機さえ把握している。

作戦立案に関わった連中の増長もわからないでもないというものだ。

「野蛮な猿どもに人間様の恐ろしさを見せつけてやろうぜ!〉

(もうね、こいつらね…アホかと)

相変わらず無線からは下品な雄叫びが聞こえる。

初陣の恐怖を紛らわしいのだろうが、敵を見くびるなど言語道断。

おそらく油断した隙にあいつは墜ちるだろう。


〈こちら海軍、敵の管制機を発見した。おそらくラプターも丸見えだろう。対処されたし〉

太平洋に展開中の原子力潜水艦からの突然の報告が入る。

貴重な情報に感謝である。

〈…放置はできない。最優先破壊目標だ。デバステーター隊、敵の管制機を撃破せよ。他はそれを可能な限り援護〉

デバステーター隊、つまりダヴィッジのラプター隊である。

〈デバステーターリーダーより全機、行くぞ!〉

スーパークルーズを備えたラプターが見せる加速。

高度七千メートルまで駆け上がり、敵の管制機を目指す。


高度三十メートル。

ノーズアートには隊則を加えた海龍を描き、機体を地獄の深淵のような藍色で塗った小隊がいた。

「リヴァイアサンリーダーより全機…ラプターごときに負けてらんねーよな?」

〈…いっちょ魅せますか?〉

〈海龍の舞を!〉

〈久しぶりだな!〉

ジョージ=エルフィンストーン少佐率いるアメリカの狂人集団、リヴァイアサン小隊。

F-16Eヴァイパー、F-15Eストライクイーグル、F-18Eスーパーホーネット、F-20タイガーシャークと、まったく違う四機種編制という変態。

とくにタイガーシャークはセールス競争に敗れ、三機しか生産されなかった機体である。

そんな無茶な運用を認めさせるのもジョージたちリヴァイアサンの実績ゆえである。

「マニューバ、スタート」

ダイヤモンド隊形を維持しながら交戦距離に入る。

そのまま各機が別の方向に花弁を咲かすかのごとくシャンデル/スライスバックで散開する。

メンバーはバラバラに起動しつつも連携をとって敵を追い詰め、時に同士討ちを、時に空中分解をおこさせる。

ヴァイパーが敵の戦闘機を追いかける。

インメルマンターンで回避しようとしたところをさらに小さな旋回半径で回り込み、主翼の付け根に銃撃を加える。

イーグルは左に逸れて逃げようとする敵の尾翼を狙撃して、ホーネットが追いかけましている敵機と空中衝突。

タイガーシャークは巴戦に持ち込み左捻り込みで撃墜した。

(リヴァイアサンとまともに相対できるのってニホンのオロチぐらいだよな…相手にしたくないわ)

安全圏から見ていたあるイーグルドライバーはそう一人ごちる。

味方からは畏怖を以て迎えられ、敵からは恐怖を以て迎えられる。

リヴァイアサンこそ最強の一角に相応しい実力を持つチームだ。

「リヴァイアサンリーダーより全機、ここはあらかた殺った。狩場を変えるぞ」


〈デバステーターリーダーより全機、ミサイル発射〉

ついに捉えた。

敵の管制機だ。

敵の護衛戦闘機を機銃で排除し、管制機へとミサイルを放つ。

十六発のミサイルを撃墜すべく護衛機が奮闘するも、対空ミサイルの迎撃などほぼ不可能だ。

チャフやフレアで管制機はヨタヨタと逃げるが間に合わない。

大空に大輪の花が咲く。

〈デバステーターリーダーより全機、帰投するz,.'_;〉

〈3と4、逃げろ!〉

だがしかし、ここは敵地のど真ん中。

周囲には管制機の復讐に燃える悪鬼が踊る。

瞬く間にリーダーと二番機が墜ちた。

〈..いくぞダヴィッジ!〉


三番機とともに決死の逃走が始まった。

地球最強を名乗るラプターに襲いかかる雑魚ども。

しかしラプターの武装は少なく、ステルス機のはずなのに旧式らしい機体に追い回されている。

(別の管制機?いや、大型レーダーでもあるのか?)

〈ダヴィッジ、俺はもう持ちそうにない。俺がここで食い止めるからお前は…生き残れ〉

「先輩…」

〈泣くな!生きて帰り、俺たちの戦いを語り告げ!〉

二人とも涙を流している。

今回の失態は管制機にある。

少数で行かせるべきではなかった。

無かったことにされないためにも、生きて帰るしかない。

そのためにはどちらかが足止めをしなければならない。

しかしながらそんな悲壮な決断も、第三者から見るとバカらしく思えてくるものだ。


〈Look ! Up there in the sky ! (空をみろ!)〉

〈It's a bird ! (鳥だ!)〉

〈It's an airplane ! (飛行機だ!)〉

〈No, We're Leviathan ! (違う、リヴァイアサンだ!)〉


無線からいつか聞いたことのあるようなセリフが飛び出してきて驚くダヴィッジ。

懐かしい。

走馬灯か?

そして自機から一メートル程度の超至近距離をなにかがすれ違ったことに気付き、ようやく目が覚める。

..ちがう、そうじゃない。

…そうだ、勝てばよかろうなのだ。

パイロットは常に現実(うつつ)の空を飛ぶのだ。


「Devastetor 4 ,Engage !(デバステーター4、参戦する!)」


ダヴィッジ機がクルビット機動で追撃する敵へ相対する。

瞬間、M61二十ミリ機関砲が唸りをあげて、敵機のコクピットの内部が朱に染まった。


〈ミサイルカーニバルです〉

〈ハッハー!貧弱ぅ!貧弱ぅ!〉

〈貴様等には水底がお似合いだ〉

周りでリヴァイアサンの連中が盛大な花火を打ち上げる。

〈よぉ相棒。敵の管制機を堕とす。付き合わないか?〉

「ヘッ…上等ぉ」


高度一万メートルの天空に、蒼の管制機が優雅に飛んでいる。

護衛は二十機ほど。

「Leviathan隊則その一!」

〈殺せ!〉

「Leviathan隊則その二!」

〈殺せ!〉

「Leviathan隊則その三!」

〈殺せ!〉

殺伐とした隊則を唱えながら、四匹の悪龍と一人の殲滅者が上昇する。

ちなみにリヴァイアサンの機首には"蝶のように舞い、蜂のように殺せ!"と隊則が書いてある。

ついでに機首の反対側には"ぬるぽ"と日本語で、しかも達筆に書かれている。

これは空自のオロチの連中の仕業に違いない。

(野蛮極まりないな)

〈穿て、AIM-120(アムラーム)!〉

五機の戦闘機の銃撃を浴びて、管制機は地に墜ちる。

これの支援を受けていた敵の戦闘機たちは総崩れとなった。


〈…緊急、空中管制機ゴーストアイから全機。敵の地上侵攻を許した。直ちに北上せよ〉

「聞いたか野郎ども。リヴァイアサンリーダーより全機、ズラかるぞ!」

破壊の権化が北へ行く。

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