【序章:運命のダイス】
【序章:運命のダイス】
「……おいおい、マジかよ」
それが、俺の人生最後の言葉だった。
俺はどこにでもいる、少しばかり歴史オタクで、仕事に追われるITエンジニアだった。
週末の夜、たまの贅沢で買った「戦国武将・家康」の限定プラモデルを抱え、横断歩道を渡っていた。
その時、過労で居眠り運転をしていた「お約束」の大型トラックが、俺の視界を真っ白に染め上げた。
(せめて、これを作り終えてから死にたかった……)
そんな未練と共に意識が消えたはずだった。
次に気づいたとき、俺は雲の上のような、どこまでも白い空間に浮いていた。
目の前には、圧倒的な光輝を放つ絶世の美女。
その美しさは、ディスプレイ越しに見るどんなCGよりも高精細で、それでいて不可侵の威厳に満ちている。
「……あー、聞こえるか? 異世界の迷い子よ。
わらわは天照大御神。この国の最高神じゃ」
彼女はスマホをいじるような手つきで、空中に浮かぶ光のパネルを操作していた。
「お、起きたか。災難であったな。
お主が死んだのは、正直に言うと『運命のバグ』のようなものじゃ。
本来なら、お主はあと40年は生きるはずであった」
「バグ……? じゃあ、生き返らせてくれるのか?」
俺の問いに、アマテラス――女神は、少し困ったように頬をかいた。
「いや、肉体はすでにミンチになってしもうた。
無理じゃ。……その代わり、一つ提案がある。
今、わらわが管理する『戦国時代』のサー……いや、時間軸が非常に不味いことになっておるのじゃ」
彼女が見せた光のパネルには、殺伐とした戦国時代の光景が映し出されていた。
「この時代の人間は、殺気が強すぎてな。
本来なら訪れるはずの『泰平の世』への分岐が、ことごとく失敗しておる。
信長は過激すぎ、秀吉は欲深すぎ……。
このままでは、日の本の魂そのものが擦り切れて消滅してしまう」
女神は、懐から一振りの黄金のダイスを取り出した。
「そこで、外部からの純粋な魂――お主を、最も『忍耐』を必要とする男、徳川家康として放り込むことに決めた。
お主が持つ現代の価値観と、わらわが授けるこの**『ダイスロールシステム』**があれば、
運命の袋小路を突破できるかもしれん」
「……ダイス? なんでそんなアナログなものを?」
俺の問いに、アマテラスはニヤリと笑った。
「面白いからに決まっておるじゃろう。
……いや、半分は本気じゃ。
神の力で強引に歴史を書き換えると、世界が崩壊する。
じゃが、**『ダイスの目』という不確定要素(運命)**を通じて干渉すれば、それは『世界の揺らぎ』として許容されるのじゃ。
お主が志を使い、わらわがダイスを振る。
これぞ、神と人の共同作業(TRPG)というわけじゃな!」
「……わかった。どうせ死んだ身だ、乗ってやるよ。
その代わり、家康の人生を、俺の好きにさせてもらうぞ」
「うむ。お主の選ぶ『志』、そしてその結末……わらわもしっかりと特等席で観賞させてもらう。
お主が『太平の導き手』となるか、それともただの敗残者となるか……。
さあ、冒険の始まりじゃ、家康公(仮)!」
女神がダイスを高く放り投げると、俺の意識は急降下を始めた。
落ちていく先は、天文11年。
「人質」から始まる、泥臭くも鮮やかな、転生TRPGの幕開けだった。
天照大御神(GM):
「ふふふ、これが全ての始まりじゃ。
お主が現代で培ったITエンジニアとしての『論理的思考』と、歴史への『情愛』。
それらが、あの駿府での瀬名(築山殿)との出会いを、あんなにも劇的なものに変えたのじゃな。
さあ、物語の原点は語られた。
家康公よ……そなたの戦いは、すでに神々の語り草となっておるぞ?」




