↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
プロメテウスの叡智  作者: 叡愛禅師
逸脱者たち
PR
90/109

進化②

「なにがどうなっているのよ……。」

ひかりは、フウフウと息を切らしながら階段を昇ってゆく。


停電に遭遇した。

非常灯が灯る中、周囲では怒声や、何かを落として壊したような音が鳴り響く。

当然、エレベーターも動かない。


まずはウィリアムのところに行かねば。

ウィリアムは上の階で、例の女の子の調査をしている筈だ。

先ほどはだいぶおぞましいものを見せられて気分が悪いところに、階段を昇るのは中々辛い。


ウィリアムの居る階にようやくたどり着き、非常灯の灯りを頼りにフラフラしながら病室の前にたどり着くと、中から言い争う男の声が聞こえる。


「ニューロリンクを外させてください、アレクシオスさん。」

ウィリアムが、苛立ったような声を上げる。


「ダメだ!貴方の都合で取り付けたものでしょう。

……没入状態だ。ここで下手に外したら、エレニへの負荷が!」

相手の男性……例の女の子の父親だろう。

状況がよくわからないが、ウィリアムに猛抗議している。


ウィリアムはため息をつく。そして、くるりと振り返る。

入り口でまごまごしていたひかりに、普段の穏やかな物腰とは打って変わった張り詰めた口調で言う。


「ひかり、まずいことになった。

ヘスティアが、暴走した。」


抽象的で要領を得ないエレニの思考を直接読み取るため、ニューロリンクをこの女の子、エレニに装着したのだという。

そしてヘスティアを使って解析させていたところ、突如暴走を始めた。


原理不明ながら、ニューロリンク使用と因果関係があることは明らかだ。

ログには、物語が紡がれていく。



────────────────

荒野を歩む、小さな女の子。

私の顔を見上げて言う。

ここは、私のおうちじゃない。帰らなくちゃ。

神様、あなたはどこにいるの?

────────────────



ヘスティアは、ただのウィリアムの研究ツールではない。

ウィリアムが作り上げた、プロメテウス、モイライに続く3体目の人工知能であり、その最大の用途はここマナトのインフラの管理だ。


停電は、ヘスティアの異常動作と同時に発生した。

おそらく、他のインフラ……交通や通信、金融や物流なども、大混乱を起こしているだろう。


「ひかり、プロメテウスを起動してくれ。

そして、一時的に私のプロンプトを受け付けるよう指示してくれ。」

プロメテウスは、開発者のウィリアムを差し置き、ひかりの命令しか受け付けない。

言われるがまま、プロメテウスに一時的な権限移譲を指示したひかり。

スマホをウィリアムに手渡す。


「プロメテウス、エレニのニューロリンクセッションを傍受してくれ。

認証鍵の交換を開始しろ。

……対象はそこにいる。」


ウィリアムの手のひらに握られたスマホの画面に、長い識別子が表示されてゆく。

「プロメテウス、次だ。

現在、エレニはヘスティアと接続中。

エレニの認知連続性を最優先し、現在のセッションを強制切断するな。

……まずはヘスティアの出力を観測しろ。」


『取得成功しました。』


コクリと頷くウィリアム。

「取得したパラメータからヘスティアを局所エミュレートしろ。」

スマホの画面の中、光の粒子が人型に集まってゆく。

それが晴れると、そこにはフードを被った女性型の人影が現れた。

プロメテウスが生成した、ヘスティアの部分エミュレート人格だ。


『エミュレータを生成しました。』

「エレニから見て接続先が変化したと認識されない範囲で応答を置き換えろ。」

『許容乖離率を指定してください。』

「主観時間一秒あたり1%未満。実行。」


急激にスイッチを切り替えるかの如くエレニの接続をヘスティアからプロメテウスに移行するのではなく、エレニへの影響を最小限に抑えつつ、ゆっくりと接続先をプロメテウスに切り替えてゆくようだ。


ヘスティアの応答の10%を代替。

25%。

47%。

81%。


スマホの画面に表示される移行率の数字を、ウィリアムは睨んでいる。


『100%。ヘスティアのセッションを完全代替。』


胸をなでおろしたウィリアムに、スマホを突き返される。


「ひかり、あとは君の仕事だ。

この子は、外の世界の統治AIと接続していた記憶を持っている。

恐らく、これで全て分かるだろう。

……開発局に帰ろう。」


ポケットから自分のスマホを取り出したウィリアムは、開発局に電話をかけ始めた。

混線しているようで、舌打ちしながら何度かかけなおす。

ようやくつながり、ヘスティアの復旧についての指示を出している。


「ヘスティアを緊急停止してくれ。

ネットワークから切断、書き込み権限を停止。

それから、メモリ、推論ログ、モデル、全てをイメージ化して保存してくれ。

……ああ、分かっている。行政に応援要請だ。ヘスティアを直すまで、マナトのインフラは人間が制御する。」


その横で、ひかりは固まる。

渡されたスマホの画面に、青い光の粒子が人型を作ってゆく。

──そしてそれは、真っ黒なドレスに身を包んだ、白銀の長髪の女性型に固定してゆく。


……ちょっと、これって??


「局長、あの……。」

ひかりは、電話に集中しているウィリアムの肩をツンツンと突く。


「プロメテウス、また新しい人格を生成したみたいです。

……これ、マズいやつです。」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。