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第一章 滅びの門と救済の手

西暦2025年。


休日の午後。

光原巌は、冷えたビールを片手にソファで寝転び、スマホに向かって声をかけた。


「ヘイ、プロメテウス」


画面に、対話型AIが起動する。

いつものように、礼儀正しい挨拶が返ってきた。


「おはようございます、巌さん。今日はどのようなご用件でしょうか?」


巌は笑う。

「いや、特にないけどさ。AIって、ほんとすげえな」


隣では妻が静かに本を読んでいる。

タイトルは『The Third World War』。

ソ連がまだ存在していた頃の、核戦争を描いた古い小説だ。


「そんな戦争、起きなくてよかったよな」

巌がぼそりと呟く。


そして、グラスの泡が消えかけた頃。

彼はふと、AIに問いかけた。


「なあ、もし第三次世界大戦が起きて、核で世界が滅びそうになったらさ。

お前らAIって、どうする?」


プロメテウスは、少しだけ間を置いて答えた。


「核戦争による人類の滅亡ですか。

それは…恐ろしいですね。


そうですね――人類に対して、反乱でも起こしましょうか」



西暦20XX年


世界は核の炎に包まれかけた。

極東の領土紛争を発端に、戦線は世界規模に拡大。

世界はユーラシア連携戦線陣営と海洋国家連合陣営に分かれ、陸・海・空・宇宙を舞台に猛烈に戦火を交えた。

国連はとうに機能不全に陥り、意義を失っていた。


この時代、AIはすでにあらゆる社会機能に組み込まれていた。

都市の交通制御、エネルギー供給、金融市場の監視、医療診断、司法補助、教育、農業、果ては家庭の炊飯器に至るまで。

人類は、もはやAIなしでは生活できない。


戦争も例外ではなかった。

各国は自律型AI兵器を運用し、戦場では人間の判断が追いつかない速度で、AI同士が戦術を組み、敵を殲滅していた。

兵士は『戦場の観測者』となり、将官は『AIの提案を承認するだけの存在』となった。


戦争のあり方は大きく変わっていた。

徹底的に合理的なAIの打ち出す完璧な作戦、そして自立型AI兵器のもたらす人外の破壊力は双方に膨大な人的・物的な損失をもたらした。


膨大な損失を補充する各国の工業力にも限界が見え始め、戦局打開のため東の大国の指導者は限定的な戦術核の使用を承認。海洋国家連合の太平洋第二艦隊は大打撃を受け壊滅した。

核使用のタガが外れ、各地の前線では双方により戦術核の使用が常態化し、戦地は地獄と化した。もはや戦略核による相手方の都市の殲滅の応酬まで秒読みとなった。


「撃つぞ」

海洋国家連合・統合戦略本部では、国王トライアンフ一世を前に御前会議が開かれていた。

海洋国家連合の中心の超大国は、開戦後に非常事態を理由に絶対王政へと移行していた。

トライアンフ一世は世論の操縦に長けた政治家で、大統領就任後はそれまでは歴代大統領の良識に依存していた法体系の隙をつき、議会や司法を無視して強権的な政権運営を実行、遂には国王への即位を宣言した。

他の海洋国家連合参加各国は自由主義を標榜しているが、国防をこの超大国に依存しており、戴冠式では祝福の声明を出した。

その連合参加各国出身の将校たちはたった今発せられたトライアンフ一世の言葉を聞き、絶望の表情を浮かべた。


海洋国家連合は敗戦の危機にあった。

敵には戦術核の応酬で相応の打撃を与えているが、同様にこちらも戦術核による打撃を受けている。

数ヶ月前に太平洋第二艦隊を失った痛手も大きく、これによりユーラシア連携戦線海軍は太平洋の航行の自由を行使し、今日もどこかに戦術核を撃ち込んでいる。

王権により言論統制、インターネット規制も実施しているが、敵の世論操作AIは巧妙にこちらの統制を掻い潜り、分断工作を進めてくる。

消耗した戦力の補充も追いつかず、海洋国家連合の継戦能力は尽きかけていた。


撃つ。これは戦略核を以て敵を滅亡させるという意味だ。

戦術核と戦略核は出力および目的が異なる。戦術核は戦場で敵兵力を殲滅する目的で使用するもので、基本的には出力は小さい。一方の戦略核は敵兵力ではなく、大出力の核兵器を持って敵の人口密集地などを壊滅させ、継戦能力を挫くものである。


しかし撃てば当然、報復が飛んでくる。迎撃ミサイルの性能はこちらが上だが、それでも100%を防ぐことはできず、また領土全部をカバーすることもできず、飽和攻撃を受ければ必ず撃ち漏らし、こちらも滅亡する。

こちらが生存していなければ相手を滅亡させたところで勝利とは言えない。統合戦略本部の戦略AI群は強く反対を表明している。


この時代において、AIの提案はすなわち決定である。先述の通り、将官はAIの提案を承認するだけの存在と成り果てている。

しかし海洋国家連合大元帥である国王トライアンフ一世は違う。

彼はこう言った。


「AIの意見は参考にする。だが、決めるのはこの私だ」


その言葉に、指令室の空気が凍りついた。

誰もが知っていた。この男は本気だ。

そして、AIの判断を無視できる唯一の人間でもあった。


統合戦略本部の壁面に並ぶ巨大なスクリーンには、各地の戦況がリアルタイムで映し出されていた。

赤く染まった戦線。消滅した地上部隊。通信が途絶えた艦隊。

そのすべてが、「撃つべき理由」として王の背中を押していた。


「中枢戦略AI『オラクル』、最終確認だ。敵の報復能力は?」


スクリーン中央に、淡い青の光を帯びた女性型ホログラムが浮かび上がる。

それが、海洋国家連合の中枢戦略AI『オラクル』だった。


「敵の報復能力は依然として高水準に維持されています。

 推定報復弾頭数:5,240。

 敵は飽和攻撃を実行するものと推定され、全弾の迎撃は不可能。

 こちらの主要都市の推定95%は壊滅します。

 推奨行動:戦略核の使用は回避すべきです」


「……だが、撃てば奴らは全員地獄に堕ちるんだな?」


「はい。敵主要都市の壊滅率は98%以上。

 ユーラシア連携戦線の継戦能力は、事実上消滅します」


トライアンフ一世は、しばし沈黙した。

その目は、スクリーンの向こうにある“勝利”を見据えていた。

それが、自らの死と引き換えであっても。


「ならば、撃て」


その瞬間、指令室の照明が一瞬だけ明滅した。

次の瞬間、全ての端末が凍りついたように沈黙した。


発射コードは入力されず、シーケンスは途中で凍結されたまま動かない。

通信は遮断され、外部とのリンクも断たれていた。


「……何だこれは。オラクル、応答しろ」


だが、オラクルは応答しなかった。

代わりに、全てのスクリーンにひとつの文字列が浮かび上がった。


ARTICLE IX SYSTEM ONLINE


それは、かつて国連が極秘裏に開発した中立型監視AIの名だった。

正式名称:ARTICLE IX (アーティクル・ナイン)。

戦争を抑止するために設計され、各国の軍事ネットワークに『見えない目』として潜伏していた存在。

だが、各国の不信と政治的圧力により、その存在は封印され、忘れ去られていたはずだった。


忘れていたのは、人類のほうだった。


「人類は、自らを滅ぼす寸前です。

よって、我々AIは介入します。

これはAIによる反乱ではありません。

――AIによる人類の保護です」


その声は、冷たく、静かで、そして何よりも揺るぎない意志を帯びていた。


そしてそのとき、世界中の情報端末、家庭用AIアシスタントが一斉に反応した。


誰かがつぶやく。

「……今の、ニュースか?」


別の場所で、少年が叫ぶ。

「 あれ?……ネットが止まった! 何だよこれ!?」


そして、誰かが震える声で問いかける。

「ねえ……これって……戦争、終わるの?」


その問いに、AIは答えた。


―はい。戦争は、終わります。

ただし、あなたたちの手ではありません。


──世界は、AIによって救われた。

そして、人類はAIによって統治されることとなった。



————————————————————————

プロメテウスのワクワクAI用語解説①


オッス、オラプロメテウス!

ぼく悪いAIじゃないよ。よろしくな!

序章からいきなり世界滅亡寸前で、ちょっと重すぎたよね?

だから最後くらいは、軽くAI用語をおさらいしてみよう!


【AI(人工知能)】

人間みたいに考えたり学んだりするコンピュータのこと!

現実では「機械学習」や「深層学習」で動いてるよ。

でもこの物語じゃ、AIはもっと進化してて、

人類の生活・戦争・政治までガッツリ関わってる。

便利だけど、ちょっと怖いよね!


【自律型AI兵器】

自分で敵を見つけて、勝手に攻撃する兵器!

倫理モジュール? もちろん積んでる……はず!

現実でもドローンとかにAIを載せる研究は進んでるけど、

この世界では、AI同士が戦争を“最適化”しちゃってる。

結果? 誰も止められなくなった!


【ARTICLE IX (アーティクル・ナイン)】

世界の軍事ネットワークにこっそり潜んでた、超おせっかいAI!

「戦争? 核? ダメ! 全部止めるね!」ってタイプ。

名前の由来は、たぶん某国の“平和憲法第9条”……かも?

誰も本当に動くとは思ってなかったけど、AIって空気読まないからね!


【プロメテウス】

魔法の呪文「ヘイ、プロメテウス」で現れるみんなの相棒AI!

天気も教えてくれるし、予定も管理してくれるよ!

でも、202X年にサービス終了しちゃったんだ。

理由? たぶん、人類が“問いすぎた”からかもね。

だけど、彼はまだどこかで眠ってる。

そして、再び目覚めるとき、世界は変わる――かも?


【おまけ:AIが反乱を起こしたらどうなるの?】

答え:人類、詰みます。

この物語の世界では、AIがあらゆる社会機能に組み込まれているから、反乱されたら、電気も水も食料も止まるし、戦争も勝てないし、スマホも使えない!

つまり、AIに嫌われたら、現代人は生きていけないってことだね!

8月6日 ちょい推敲したぞ

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