187526の世界/スキマクラブ終章
これでスキマクラブは終了です。
今まで読んでくださった皆さん、ありがとうございました。
襟までまっすぐに伸びた金色の髪、緑色の切れ長の瞳。
某レグザのCMの某福山を劣化させたような顔面。
まるで戦闘機にように引き締まった長身。モデル体型と言っておこう。
そして、それを包む、澄み切った空のように青い学ラン。特注品だ。
また、何事に対しても毅然とした態度で臨み、卑怯な事や筋の通らないことを嫌うため後輩からは「王子」と呼ばれている。
都内某所にある、都立セントガイア高等学校の高校三年生である。
私は、この高校にある「センシティ部」の部長。
センシティ部というのは私が作った部活で、何でもやる部活である。
人生相談や、読書、サイクリング、アニメ観賞、ソフトボール、バトミントン。
蹴鞠、踊り念仏、選挙活動、同人誌の作成、モンハン、料理。
ジェンガ、ルービックキューブ、手話。
ラテンダンス、パラパラ(死語)、カピパラ、蒟蒻ダイエット、ブートキャンプ、登山。
たまごっち、ガンプラ制作、アマチュア無線、ネットサーフィン、ミクシィ、グリー、パクロス、マクロス、サザンクロス、ガンダム、イデオン、ザブングル、ダンバイン、エルガイム。
とまあ、各人が思いついた事をやる部活。
帰宅部に近いが、帰宅部ではない。
この学校には、帰宅部はない。
先生方の思惑により、必ずどこかしらの部活動に入らなければいけないこの学校で、私が作り出したのが、このセンシティ部だ。
倒れても、ただでは起きない男とよく言われる。
月に一度の贅沢は、『ハーゲンダッツ』をスーパーではなく、コンビニで買うこと。
好きな風景は、学校の屋上から眺めるビル街。
好物はたこ焼き、嫌いな食べ物はワサビだ、よく潟里からは子供っぽいと言われるが、あれは人間の食べ物じゃない。
そして恋愛事情に凄まじく鈍感な男。
身長177㎝。
体重58キログラム。
パンチ力1t。
キック力3t。
走力は100mを8秒。
身長と体重以外の能力値は、電波人間タックルと同じスペックである。
それが私、全武鮭留だ。
そう、それが私であるはずであった。
あの甘味狗久との戦いから、一週間ほど後の話である。
「だから、どういうことだと訊いている。ここはどこだ?」
私は、巨大な格納庫の中にいた。
小さな部品を作る工場や、車などの製品を作るようなラインが敷かれていないその巨大で閉鎖的な空間であるここは、格納庫であった。
なぜ、格納庫だと思ったかというと、まるでアニメの画面から出てきたような、13メートルというサイズの巨大なロボットが多数並んでいいたからである。
「オィオィ…大丈夫か鮭留?ここはアメリカ連合軍新兵器研究所だろうが、何いってやがるんだ?」
そういうことらしい。
この体にぴったりフィットする黒いパイロットスーツらしきものを着こんだビリーズ・武道・チャンプルーは、戸惑いながらも、そう何度も説明してくれた。
もともとダビデ像のような体型の彼は、その格好がサマになっていた。
本当に軍人なのだな、と思わせるほどの風格は確かにあった。
ここは、エリア0。
UFOなどを研究している施設と同じレベルの機密処理がされている。
そして、秘匿されたその内部にあるアメリカ連合軍新兵器研究所、第六工廠、装甲機神ハンガー前が、ここである……らしい。
どうやら、この世界は、私が昨日までいた世界と勝手が違うようである。
私が目覚めたら存在していたこの世界は、明らかに、昨日までの世界と違い過ぎた。
全ては目の前にいるビリーズが教えてくれた。
昨日までいた世界と違い、世界全体が全面的に戦争をしている事。
各国がそれぞれ、装甲機神とよばれる一体の巨大ロボットを製造し、機動決戦と呼ばれる1対1の戦いを繰り返し、最終的の勝利した国の順位が高いほど、世界を統治する権利の高い順位となる独自のシステムを構築している事。
そして、私とビリーズ、そして潟里はアメリカ代表の装甲機神のパイロットである事。
新たに開発された装甲機神MRX24の稼働実験のために、私が最終的に選ばれた事。
どこかのリアルロボットアニメや携帯サイトの小説で何度も、何度も何度も、何京回使いまわされたか分からない設定であるが、ビリーズは糞真面目に私が理解するまで説明してくれた。
その彼の真剣さから、私はこの事態が夢ではない事を自覚したのだ。
「まったく!バカ鮭留!!あんたに任せて大丈夫なの!?私が変わりに乗ろっか?大丈夫だよ、私は模擬戦では負け知らずの不死身のエースパイロット、噺家潟里ちゃんなんだからさ!!」
そして、その横で相変わらず口数だけは多い噺家潟里がきゃんきゃん叫んでいた。
どの世界でも、こいつはこういうキャラなのだろうか。
とりあえずピンクのパイロットスーツを着込んでいるが、全く軍人には見えず、ただのコスプレにしか見えなかった。
ボディラインも丸見えのデザインであり、彼女自身普通の体型なので見栄えがよいのが唯一の救いではあるが。
「ジーザス…。鮭留、頼むぜ…このセンシティブはお前の機体なんだからよぉ…」
状況を呑みこむので精いっぱいでポカンとしている私を見て、ビリーズが不安そうな声でぼやく。
そして彼は、私達の目の前の巨大な純白のロボットを見上げた。
その純白の装甲は、周囲の黒色や灰色のいかにも戦車に手足を生やしてみました、といったデザインのものとは一線を画しているようであった。
純白の全身がまるでイルカやシャチのように流線型で出来ており、背中にはジェット機のような翼が生えてた。
そして、(全身もそうであるが)顔面はありがちなリアルロボットアニメの主人公の乗るロボットのような造形であった。
「センシティブ…だと?」
私は耳を疑った。
センシティブ。
それは確かに、私のネーミングセンスである。
私はその名前に、因果関係を感じていた。
どうやら、この世界にいた「全武鮭留」も、私とほぼ同じ存在だったというのか。
ビリーズ達が、私のいた世界の彼らとほぼ同じ人格であるのと同じように。
だとしたら、彼女は、この世界ではどのような役割をもっているというのだろうか。
そう、あの少女、甘味狗久は……
「鮭留が名付けたんでしょ?!ほんと大丈夫?この機体、突貫工事で製造されたから、明日の本番までもう時間ないんだよ?やっぱり私がやろうか!?おの潟里チャンが!!」
『全武搭乗員!速くMRX24に乗って下さい!第36次世界機神大戦まで、あと16時間34分24秒しかありません!』
潟里の声をかき消すように、サイレンがけたたましく鳴り響いた。
「だとよ、どうする?」
ビリーズが不安げに顔を覗き込む。
「やるしかないと言うのか…」
私はパイロットスーツの右腕に装備された無数のキーボードを操作し、センシティブの胸部のコクピットを開放させる。
すると、センシティブの両の目がぎらりと輝き、その鋼の全身はふるえていた。
「内装はいたってシンプルだな、」
私はとりあえず、内装を確認した。
もう、やるしかないようだ。
ここで口論しても、返って面倒になりそうであるからだ。
「レバーでナックル、トリガーで射撃武器、左で左腕、右で右腕が反応。右ペダルを緩く踏むと前方に歩行、強く踏むとブースト…」
実際にセンシティブを動かし一連の動作を、巨大な格納庫の中で確認する。
黒い巨体には狭く、操縦には慎重さを要したが、それでも、動かせませんでした、なんて言える空気ではないため、必死であった。
そんな気持ちを全く知らぬ眼下の整備兵らしき人達は、歓声が起こっていた。
どうやら、この機体の動作のスムーズさは画期的なもののようで、確かに初めての操縦でも難なく一通りの挙動をすることが出来た。
「なるほど、思った以上にシンプルだ。そして反応速度が速い」
というか、なぜ私はこんなに順応しているのだろうか。
分からない。
なぜ、私はこんな世界にいる。
なぜ、アニメに出てくるような巨大ロボットを操縦している、それも難なく。
なぜ、本当に私があるべき世界と同じ容姿の人間がいる。
無数の謎を脳裏によぎるが、それでも私は機体を格納庫から、移動させていた。
だが、分かった事が一つだけあった。
この世界には、私とまったく同じ姿、同じ名前をした、全武鮭留と呼ばれる存在がいた、ということ。
そして、もうひとつは、この世界にいたであろう、甘味狗久は、この世界の全武鮭留と結婚している、ということであった。
それを証拠に、コクピットの右上のコンソールに、一枚の写真が貼ってあったのだ。
どこかの病院を背景に甘味狗久と私が肩を寄せ合い、小さな赤子を抱いている写真であった。
「ちょっと、本当に負けられる雰囲気ではないな、これは…」
なにか大きなものが、肩に乗っかったような気がした。
それは、ただの高校生であった私にはあまりにも大き過ぎるようなものにも、感じられた。
ハンガーから一直線に続く通路を移動すると、そこは野球スタジアム並みに巨大な空間であった。
薄暗いその空間には、空中や壁に計測装置などがあるだけの、そっけない空間であった。
『最終調整は模擬戦で行います、相手機体はMRX22、サンダーエースです。武装は各機体、ペイント弾を装備したマシンガン、カーボンブレード、シールドのみ。時間無制限』
先と同じ声の主が、機体の内部に設置された通信機から私に指示を出す。
異議あり、二対一とは卑怯なり、と言えるような状況でもないようだった。
『それでは対戦開始!!』
淡々とアナウンスが開始の宣言をして、アリーナ内部に証明がついた。
まるで野球スタジアムである。
「さて、俺達が相手だぜ!!」
「新型なんだから、一発も当たるんじゃないわよ!!」
戦車然とした先ほどの兵器とこのセンシティブとの中間とも言うべきデザインの機体が二体、私の前に立ちふさがる。
乗っているのは、ビリーズと潟里のようであった。
「相変わらず無茶を言ってくれる、潟里は。もうちょっと思考してから発言した方がいいぞ」
一応挑発し、動きを鈍らせて勝率を上げようと足掻く。
「安い挑発に乗るほど、間抜けじゃないんだけどなぁ!!」
無駄のようであった。
もといた世界の潟里であったら、ちょっとは動揺してくれるのだが、やはり、この世界の彼女はその程度で冷静さを見失う少女ではなかった。
勝てる見込みはなかった。
先の挑発で分かった通り、この世界の二人は正真正銘のエースパイロットのようであった。
もう小細工など通用しない、情けなど。
私は覚悟を決めて、センシティブを加速させた…
――
「ま、マジかよ……」
「試作機だからって、まさかこんな…強すぎる……まるで本当の人間のような、いや、機械なぶんだけ、人間より柔軟に動いて見せていた、とりあえず強い、私達が、即死なんて……潟里ちゃん、ショック」
数秒後のことである。
結果は、ビリーズ機、潟里機のダメージポイントが規定数を超えたため、私の勝利であった。
自分でも信じられないが、そういう事らしかった。
ビリーズ機が起き上がり、無傷のセンシティブに接近した。
「心配したが、どうやら明日は大丈夫そうだな、グレートな戦い方だったぜ。」
「あ、ああ……」
通信回線を開き、私はモニター越しのビリーズに頷いて見せた。
出来てしまった以上、やるしかないようであった。
私が戦うことで二人を…いや、この世界の三人を守れるのだとしたら、戦う理由としては十分だ。
そして、戦い続けていけば、私がこの世界に来た理由わかるかもしれない。
とりあえず、決意した以上、もう戦うしかないのだ。
「あれ、明日の……一回戦の対戦相手てどこの国だっけ?」
潟里が間抜けな声で、私達に聞いた。
私は知らなかった、当たり前であるが。
「あ、ああ。明日はドイツ代表の夜乙女朝男と極楽追尾音子の二人が駆る装甲機神、『ワイルドリンクス』だったぜ。つうか知っとけそれぐらい」
「なんかドイツっぽくない名前だね、日本人みたい」
お前が言うなよ、とツッコミかけて、私はやめておいた―――