視点N 手遅レ
「―--というわけです。」
「なるほど、怨念の基準はあやふやだが、それよりかは対策を進めた方がいいか。それに2週間後のライブよりも先に襲撃される恐れもあるしな。」
「伝達はこれで全部ですかね。ではー。って百合川さんじゃないですか?お久しぶりです。あ、風也君それじゃあ失礼します。」
電話が切れた。百合川・・・。あの時の看護師か。そういえばこの病院、半年前色々あったとこだな。あの時の中庭も今では平和そのものだ。
「レッジ。ひとまず今日は帰るか。」
「そうするとしよう。」
ひとまずロビーを目指す。その途中、とある病室から光が漏れているのに気づく。それと同時に夕暮れ時だということに理解がいく。
プライベートのこともあるだろうに・・・。中を見ないように扉を閉めようとする。しかし、その光景がついつい目に入ってしまった。
「体拭いておいたよ。お父さん。」
そこにはお父さんと呼んでいる男を介抱している。伊達由香里の姿があった。ただし、男は彼女の言葉に返答することはない。
(植物状態か?)
「もう少ししたらフェスに参加するの。ここで一躍注目を浴びて見せるから。必ず成功してみせるから。」
彼女が頑張る理由がこれか。しかし・・・。
「誰?誰かいるの?」
しまった。
「あ、あんた!盗み聞きなんて、最低!」
「いや、扉が開いていたからつい、」
「・・・」
「父親なのか?」
「ええ、そうよ。悪い?」
「そんなことは思ってねえよ。それより詳しく話を聞かせてほしい。お前がそこまで本気になる理由を。」
「・・・わかったわよ。」
病院に入室した。
「もう4年前になるわね。交通事故で意識を失ったのは。母親は私を生んですぐに病気で亡くなったし。男手一つで育ててくれたの。」
「4年も看病を続けているのか?」
「そうよ。だって、私の大切な家族だから。」
「家族。」
「私の夢を唯一応援してくれた人だもの。私の・・・女優になる夢を。」
「女優?アイドルじゃなくて?」
「俳優の事務所オーディションに全部落ちたの。それでやむを得ずアイドル事務所に。ほら最近のアイドルって卒業した後女優に転身するものだし。」
「かなり遠回りだな。」
「それでもいいの!お父さんが生きているうちに夢を叶えないといけないの。私が夢を叶える瞬間をみせたいの。」
でもそれでは・・・。
「なあ、1ついいか。」
「なによ。」
「お前の父親は目が覚めるのか?」
「・・・。」
「4年も寝たきりなんだ。もう可能性は」
「・・・」
「仮にお前が夢を叶えたとしても、見てもらうことは」
「うるさい!!もう私にはこれしかないの!もう、この道しか、私には残されてないの!今止めたら、私は、私はー--。」
「どうなんだ?」
「何も残らないの・・・。」
「しかしそれでも、中止を。」
「私に夢は無かった。でも昔の学芸会の演技を褒めるお父さんの笑顔は忘れられなかった。あなたには夢は無いの?」
「俺は、俺の夢は。ツクモを全部倒すこと。」
「それ以外は?」
「え。」
「生まれたときからそうだったの?」
「いや、そういうわけでは」
「・・・もう少し、夢を見たいの。お父さんのために。」
【風也も何か夢は無いの?】
あの言葉を思い出した。
「父親か・・・。」
暫く考える。
「1週間だ。」
「え?」
「1週間。時間をくれ。そのときもダメだったら、ライブは諦めろ。」
それだけ言って病室を出た。そのまま電話をかける。
「もしもし、三崎さん。色々と足掻いてみようと思う。」




