国交のすゝめ『魔王で脅しましょう』
「これがノースタリア国王が住まう城」
「うちのよりデカイね」
「城は1番権力の大きさを国民に示しやすいっすからね」
「クレア王国の9倍の領土を持ったノースタリアからすればこれぐらい当たり前って事か」
現在、昼。サンサンと輝く太陽が真上にある。
あれから朝食を取り、少し仮眠して地図を準備。出発して馬車に揺られること約1日。
ようやく王都に着いた。麻袋に入れて持ち運んでいるヨーグルーリトナはハイドの薬のおかげで仮死状態になっている。扱いに気をつければ死なないだろう。ちょっと持ち運びには重いけどね。
「今思ったんだけどさ、いくら急いでいるとはいえ、王様に会うのにこの服装はやめておいた方がいいんじゃないかな?」
ふとハイドが自分の服を見ながら言った。
つられて私も自身の服を見る。
ズボンにマント、シャツ、手袋に至るまでボロボロだ。11日間の旅に耐えた服だ。所々に泥やよく分からない汚れがこびりついている。
「そうっすね。この服で魔王を名乗るのはちょっと解釈違いっすね」
「解釈違いって、ヨーグルーリトナの前では名乗ってたじゃん」
「あの時はこれしかなかったししょうがなかったけど、折角だから着替えよう。王都だからそれなりの物が揃ってるよ」
確かに汚いし、着替えに新しい服を買った方がいいか。一応魔王だし、威厳も重要だろう。
「一理ある、買いに行こう」
「しゃオラァ!!自分はファーが着いた黒いマントが欲しいっす!服も黒、装飾品は繊細かつ、華美でありながら存在感が小さい物、あとルビーの指輪!!」
子供か。相変わらず魔王は見た目にこだわる。
なんだその僕が考える魔王の見た目、みたいな服装は。高そうだなぁ。でもいいね。すごい、
「魔王っぽくなると思う」
「いいんじゃないかな。となると従者の俺は執事服が無難かな」
ハイドもノリノリで提案してくる。執事服か。じゃあ私はメイド服かな。でもあれスカートヒラヒラしてて動きにくいんだよなぁ。
「魔王は執事にも宝石をつけさせるんすよ!ループタイをルビーにしましょう!」
「確かに魔王の従者っぽい」
「人外さを出す為に角とか着けたらいいんじゃない?」
「自分は出せますけど。角........売ってるすかね?」
「ゴブリンの角ならある」
「「ソレだ!!」」
それから私たちは王都で服をあーだこーだと言いながら買いまくった。
そして夜。空には満月。全ての準備は整った。いよいよお城へダイナミックに訪問する時だ。
☆☆☆
ガヤガヤと賑わう城の一室。
そこでは、国王主催の宴が繰り広げられていた。
........今日は疲れる。相変わらずこのバカ共は私の考えを否定してくるのだ。
「隣国のクレア王国を植民地とするのの何が行けないというのだ」
「国王様........」
「そなたもそう思わんか?」
共に酒を飲んでいる1人に話しかける。
我が国は、食は豊かなものの、鉱物が全くない。山脈もない。つまり、財がない。食物が不毛の年に賄う金が全くと言っていいほどない。
「クレア王国は金がたんまりと眠る鉱山がある、その割に国土が小さい。つまり我が国の従属国として金を献上させるのも簡単な事だろう」
「おっしゃる通りに御座います」
まさに、我が国に最適な国では無いか。先代もそれに気づいて居たはずだ、しかし何故か手を出さなかった。
「我が国の軍事力であればクレアなんぞすぐに征服出来るであろう?何故そのように渋るのだ?」
「申し上げにくいのですが、あの王国には我が国にも勝るとも劣らぬ軍があり、伝説の男が率いているのです........」
そう言って目を伏せる男。
何が伝説の男だ、そのような者がひとり居たところでどうにもならんだろう、戦は数、量で押し潰せば小国などどうにでもなるわ!!
........最近は何もかもが上手くゆかぬ。
憂さ晴らしに宴を開いてみたがあいつが来ないのも悪い。毎年この時期は『いい物を入荷する』と言って私の誘いを断わるのだ。
「とにかく、クレア王国に攻めいるのは時期尚早かと思われます」
「もうよい!!私の邪魔ばかりをしおって、お主がヨーグルーリトナに並ぶランカースの土地を収める公爵でなかったら、首を手おっていた所だ!!自分の身分に感謝するんだな」
「国王様。いくら酒の席とは言え、そのような物言いは........!!」
近くにいた従者があわてて私を止める。
「ええい!もういい、1週間後だ。1週間後クレア王国に攻めいる。異論は認めん。これは国を上げて成すべき国事だ。わかったらさっさと準備をしろ!!」
「王国様はお疲れな上に酔っておられるのです、皆様。くれぐれも本気になさらぬよう」
そう従者や周りの貴族があわてて止めに来る。そんな時だった。
「ふむ。馨しい悪の香りがすると感じて来てみれば、匂いの元は『王』と来たか。フッ........なかなか人間にしては良い面構えだ」
まるでそこに居るのが当然のように。当たり前のように。
さっきまでは絶対に居なかったはずの影が3体、居た(現れた)のは。
それらは人間ではなかった。角が生えていたからだ。
「あぁ、名乗って居なかったか。この人間により我復活せし魔王である。この2人は我の配下だ。宜しく頼むぞ?」
指にハマったルビーよりも紅い瞳、漆黒の髪を背中にたらし、黒いマントを揺らし、『魔王』と名乗るそいつに誰も動けない。
「これはこの宴への手土産だ。我を呼び起こすからどれ程の悪かと思ったら見込み違いであった。ただ闇雲に村娘を誘拐し売る、そのような事を繰り返すチンケな者だ、我が望む悪には遠く及ばぬ。故にソナタ等にやろう」
その言葉とともにメイド服を纏う魔王の従者が麻袋をこちらに投げてきた。
重い音を立てて床に落ちた。衝撃で口が開いた麻袋からは青白い手がチラリと見えた。
「し、死んでる!?」
「案ずるな、仮死状態なだけだ。しかしコヤツはもう使えぬ。さっさと貴族の座から下ろすと良い。檻に囲まれた地下で一生を怨みながら死ぬれば良いなぁ........いい呪いの素材になってくれそうだ」
「の、呪いの素材?」
たまたま魔王の近くに居た男がそう問いかける。勇気がある。
「我に質問するか?人間よ。私がこの人間を貴族の座から下ろしたいと望んだ、我が望んだ事は疑問を持たずに即刻解決すべきだ。そうであろう?」
「そ、そそそその通りだと、思います!!」
うっそりと微笑む魔王に声をかけた男は震え上がった。
魔王は人間に畏怖される存在。まさにその通りであった。背中にひたりと冷たい汗が滑った。口を開こうにも空気が上手く吸えない。
下手に喋ろうものなら首が飛ぶのではないか?そん恐怖と戦いながら魔王との対話を試みる。
「して。魔王、何故復活した?何故ここにいるのだ?」
「質問が多いな人間の王は、まぁいい、お主が持った悪に免じて答えてやろう」
そう言って顎を撫でる魔王。いちいち動作が芝居臭い、人間の真似をしているようで、だからこそ恐ろしい。
「この男が女の贄を使って我を呼び起こした、故に復活した」
「女の贄だと!?巫山戯るな!!人をなんだと思っているんだ!!」
「おい、よせって!!」
思わず叫んでしまったのだろう、隣にいた男にあわてて口を塞がれている。
「贄を用意したのはあの麻袋に入っている人間だ。我では無い。文句はあの人間に、ソナタが許せぬというのであれば赦す為の罪をあの人間に下せば良いだけではないか」
魔王はそのまま興味を失ったように、視線を外に向けた。窓の外を見つめながらまた口を開く。
「ここにいる理由だったな。簡単な事だ、これから戦争を起こそうと望む悪が収める国ぞ。我の国に相応しい」
「と、というと?」
「なに、この国を我が貰い受けてやろうかと思ってな」
☆☆☆
「疲れた」
「お疲れ、キーラ。よくあんな長い時間黙ってたっていられたね」
「ハイドさん自分も褒めてくださいっす!当時の予定どおりヨーグルーリトナの投獄、身分剥奪を約束し、クレア王国へ攻めいることを辞めさせましたよ!」
「魔王が1番頑張った」
「そうだね。お疲れ様」
魔王の魔王ムーヴが留まることを知らない。
めちゃくちゃ悪の覇者っぽかった。
交渉は割とスムーズに行った。魔王の威圧に押されてか、王様が始終ヘコヘコしてたからだ。
まぁ、逆らわなかったのは思考力を低下させる毒をさりげなく広間全体に漂わせていたハイドの功績でもある。ほんとにハイドの毒はやばい。
「でもこの国を貰い受けようって言った時はちょっとびっくりした」
「すぐ『この国は我が国民の国、勝手に貰えると思わないでいただきたい』とか言う、誇り高き宰相が居たから何とかなったけど、ほんとに『わかりましたあげます、だから俺達には危害くわえないでね!』みたいな雰囲気になったらどうするつもりだったの?」
「その時は自分が責任もって収めるつもりでしたよ。自分が収める限り、クレア王国は絶対に攻め込ませませんし」
「魔王が国政やんのか、似合わない」
嫌でも、玉座とかは似合うな。豪華絢爛な部屋の椅子にもたれ掛かる魔王、うんそれっぽい。
「あと、最後の『まぁクレアは我を眠らせた忌まわしき土地。我に先んじて自分の物としようとしているとは........中々いい度胸だな、人間の王よ』ってのはちょっと無理があったよね」
みんなその場の雰囲気で流されてたけどね。
「まぁ結果的にクレア王国に攻めてこないことになったんすからいいじゃないですか!」
「それもそう」
うん。良かった。これで戦争は起こらないだろう。悪の代名詞である魔王が、戦争を起こさない為に奔走したなんて誰も信じないだろうけどね。
「なんか人知れず物凄いことを達成した」
「戦争を未然に防ぐなんて。歴史に残らぬとはいえ、偉業っすよ」
「うん。俺がそんな事の一端に携わったなんて今も信じられない気分だ」
「バイトが居なきゃもっと王国との対話がめんどくさかったす!」
「そうかな?」
そう言いつつも誇らしそに目を細めるハイドがなんだか嬉しそうに笑って見えた。そんな気がした。
まぁ、前髪で隠れてるから分からないんだけどね。
「何はともあれ、あとは帰るだけ」
「そうだね。帰って薬作って、トリッピング嬢を目覚めさせるだけ」
「楽しい旅もここで終わりっすか........また会えなくなるっすね」
「すぐ、夏休みになる」
「キーラさんは来てくれるっすけど、ハイドさんは?」
「俺が、死なないモルモット兼、親友に会いに行かないとでも?」
「つまり来てくれるってことっすね!!」
長いと思っていた薬草とりの旅ももう終わり。薬草は割とすぐ手に入ったけど何の因果か、人身売買の貴族をしばいて、国王に『クレア王国を攻めるのはやめて!』って直談判して、それを成功させたり........私達スゴすぎでは?
「よし、早くアリスちゃんを起こして、褒めてもらおう!」
───遠足は、帰るまでが遠足。それは旅も同じ。




