504 いつしか胸の中央大通りに住んでいた
この本の中に、チョットマとサリだけが知っている秘密がある。
パパが実名を記すことをためらった人々の名。
将来、自分の未来と過去に縛られることになっては申し訳ないからと、名前の綴り順を変え、パパの本当の名前「生駒延治」のIとNを一つずつ抜いてカモフラージュした人名。
チョットマは、一人ひとり、物語の中の名と、本当の名を呟いて、さようなら、と声に出して言った。
ひとりを除いて。
ピルビン(PIRVIN)
すなわち、東部方面攻撃隊のプリブ(PRIV)。
命を賭けて私を助けてくれて本当にありがとう。
出会えて楽しかった。
エリアREFのごみ焼却場の上の橋で、私を負ぶったあなたの言葉、忘れないよ。
急ごしらえのシャワールーム。
忘れないよ。
ヒラレイン(HILALAIN)
すなわち、サキュバスの庭の女帝ライラ(LAILAH)。
私をずっと支えてくれて本当にありがとう。
いろんなことを教わった。
おばあさん……。あなたの面影、厳しさの中のやさしさ。
あの声……。
絶対に忘れない……。
ノーウィ(NOAWIIN)
すなわち、エーエージーエスの主、アヤちゃんの足を切断したオーエン(OWAIN)。
お世話になったね。
皆をよろしくね。
そして、とうとう私の心を盗んでいったロームス。
いつしか私の胸の中央大通りに住んでいたロームス。
私と愛し合うために人の身体を持ったロームス。
コモレビー(COMOREVY)。
私がつけた彼の本当の名は、そう、イェンヴーリック(YNEMVOORIC)。
あなた……。
本当に本当に長い間……。
これからもよろしく。
チョットマは、三百年間、一度も外すことのなかったペンダントを首から外した。
ニューキーツ東部方面攻撃隊の隊長、ハクシュウの形見。古代の武器。
隊長……。
私をずっと見守ってくれて、ありがとうございました……。
手を傷つけないように手の平に包み込んだ。
少し悩み、口づけしてから鞄にしまい込んだ。
そして、口ずさんだ。
あのフレーズを。
Oh Oh Oh
今、そばに
ああ、あなた
いつも、わたしのそばに
一陣の風が吹いて、緑色の長い髪をなびかせた。
おしまい
「トゥシーイントゥザフューチャー」の四部作、「ニューキーツ」「サントノーレ」「パリサイド」「ユーペリオン」、いかがでしたでしょうか。
この長い長いお話を最後までお読みくださり、ほんとうにありがとうございました。
SF世界の推理小説を目指して書いてきましたが、果たして楽しんでいただけましたでしょうか。
「SF+ミステリーの融合」ということで、文の調子について、自分で決めていたことがあります。
シーンやその場の状況の説明をできるだけしない・人物をことさらにリアルに立たせない、ことで、透明感といいますか、クールといいますか、不安定感といいますか、そういうドライな雰囲気を出したいと思っていました。
読者の皆さんの想像力にお任せすることで、それぞれの人類種に対して、皆さんごとに異なるイメージが生まれましたら、それは素晴らしいことじゃないかと思っていました。
しかし、書き終わってみて今更ですが、その目論見は失敗だったかもしれない、と思ったりしています。
登場人物がやたらと多いわりに、その人の「人物像」表現が必要最小限しかなかったので、やはり物語に入り込めなかった方も多いのではないかと、反省もしています。
では、またお目にかかれる日を楽しみにしております。
本当に、ありがとうございました。




