494 街角のオープンカフェ
季節外れの少し眩しすぎる太陽が、街路にプラタナスの濃い日陰を作っている。
暖かい空気が満ち、モクセイの甘く濃厚な香りが風に運ばれてきた。
街角のオープンカフェ。
チョットマは、ドライイチジクをつまみながら、ウイスキーのハイボールに口をつけた。
「ねえ、ノーウィ、動作確認、順調?」
「何度も言うが、確認などできない。人を過去に飛ばす実験など、実際にできるはずがない」
すぐ横を自転車に乗った少年が走り抜けていき、乾いた落ち葉が街路に舞った。
カフェのパーゴラに括りつけられたスピーカーから、ポップな恋のメロディーが流れていた。
オーニングが秋の風に揺れている。
華奢な体をゆったりとデッキチェアに預けているノーウィ。
「本当に大丈夫?」
「理論的には」
「頼りないなあ」
「くどい。なんと言われようとも、保証はできない」
相変らず尊大な口調だが、ノーウィは少しだけ目の隅に笑みを見せた。
「宇宙船スミヨシの残骸から、何とか組み立てたんだ。エネルギーは十分だから、きっとうまくいく」
「そうよね」
宇宙船スミヨシか。
船長キョー・マチボリーの子孫たちが代々、船を維持してきたが、さすがに老朽化して解体された。
街の中央を貫いて鎮座していた船体はすでにない。
キャプテンルームの柱のあった場所は街の中央広場に変わり、そこにノーウィ自慢の装置がある。
ノーウィはキョー・マチボリーから数えて五代目にあたる自称科学者。
チョットマはキョー・マチボリー・キャプテンのことを思った。
姿形を何度も変えては人生を楽しんだキョー・マチボリー。
まるで人形のような可愛らしい少女の姿になった時のことを思い出して、チョットマはひとり小さく微笑んだ。
彼の素性は何も語り継がれていないが、チョットマは本人から聞いたことがある。
西暦一九五五年の生まれ。関西育ち。齢九百歳。文句なしの人類最高齢者だった。
最後は、妖にはなりたくないからな、と新しい身体になることを拒んで逝った。




