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457 いわゆる普通の殺人事件

 レイチェルの目が吊り上がった。

 イッジやアングレーヌの顔も見る間に曇っていく。


「つまり」


 犯人はソウルハンドを使える人だということになる。

 そしてナイフを突き刺し、自分がパリサイドだということを隠そうとした。

 と、いうことじゃないのか?


 イッジの顔にはほのかに朱が差していた。


「幸い、というか、あそこは水流の飛沫が掛かる場所。血は洗い流されて判然としない。しかも暗い。黒い岩に血がどれだけ流されたのか、もう分かりはしなかった」



「関係ないんだ。こいつは」

 イコマはナイフを紙袋に放り入れた。

「直接的な凶器じゃないんだ。死因がソウルハンドなら」


 ナイフはそれをカムフラージュするもの。



「僕を最も悩ませていたのは、実は、こういうこと」


 レイミ殺害は、ロームスの実験の中でどんな位置づけにあるか、ということ。

 一連の出来事、つまりパリサイド目撃情報、岩盤崩落、宇宙船への攻撃、連続殺戮、とエスカレートするとんでもない出来事が続けば、レイミ殺害事件も、当然、その流れの中にある、と考えるのが普通。


「実験のプロローグだったはずだ。僕はそう考えた。きっとそのはず だと」


 さすれば、動機は?


 ロームスの実験なら、動機など、人間の想像の及びもつかないところにある。わかりはしない。

 それが、推理が進展しなかった理由ではある。



「でも、先日の殺戮事件以降、僕はその考えを捨てた」


 ロームスは、問答無用で市民を切り殺した。パキトポークとアイーナを操って。

 ソウルハンドで殺しておいて、ナイフを刺しておく、というような細工。

 別次元の発想、というか、実験の流れとして全く説明がつかない。


「ロームスの実験とは、全く関係ない。変な言い方だけど、いわゆる普通の殺人事件。そう考えた方が自然なんだ」



 そう説明つつ、本当にそう言い切れるのか、という意識はあった。


 殺人の動機は極めて人間的な発想によるものであったとしても、殺人にまで至る心の動きにロームスの意識が全く働いていなかったと断言できるだろうか。

 しかも、今回のロームスの実験テーマは、「愛」

 その意味では、実験の一部であったかもしれない。


 愛のために人を殺す……。


 だが、そこから事件にアプローチしても、真相にはたどり着けない。

 誰もが誰かを愛しているという世界であれば。


 この発想は捨てたし、今も説明するつもりはない。

 それこそ、話をややこしくしてンドペキを煽り立てるだけ。

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