420 そうやな ビールとか
イコマは毛布をはねのけ、ベッドから身を起こした。
パキトポークの最後の一振りが自分に向かい、そして自分が「死」から連れ戻されて、二週間が経とうとしていた。
「やあ、チョットマ、おはよう」
「どう? 体調は」
「絶好調」
「本当? よかった!」
ミタカナイネンの計らいで、イコマはガーデンの中でも格別に居心地の良い部屋で、しかも柔らかいベッドで療養生活を続けていた。
大きく伸びをした。
「痛くない? そんなことして」
「全く。あっ、痛て」
「ほら」
あれからすぐさまイコマは宇宙船スミヨシに運ばれた。
高度で本格的な医療機器が揃っていたし、ユーペリオンには医師団もいた。
昔、ンドペキが殴り、スゥが蹴り飛ばした医者も含めて。
運ばれたのはイコマただ一人。
特別扱いではない。
唯一、助かる見込みがあったからだ。
キョー・マチボリー船長は健在だった。
ロームスによってクルー達は沈黙させられていたものの、本人は無傷だったらしい。
宇宙船の治療室からここに戻るとき、キョー・マチボリーはこう言った。
「大阪由縁の奴が集まって、飲み会でもせえへんか。そのうちに」
なにを呑気な、ということでもない。
あれ以来、ユーペリオンへの襲撃はない。
海底に潜ったパリサイドも鳴りを潜めている。
そして、もう誰かが突然死ぬこともなくなった。
あの襲撃によって、八十ばかりの命が失われたが、死を免れた人々は徐々に落ち着きを取り戻しつつあった。
元々、縁もゆかりもない人々。
皮肉なものだが、あの悲劇を乗り越えるのに、それほどの時間はかからなかった。
キョー・マチボリーはこうも言った。
「どや? 体を交換する話」
しかし、それでは傷んだ肉体をキョー・マチボリーに返し、自分は新品をもらうことになる。
そんな厚かましいことができるはずがない。
「いずれ傷が治った時に、もう一度考えるさ」と、断ったのだった。
実際、もう自分の元の身体を欲しいとは思わなかった。
六百年前に捨てた身体。
そしてこうして、皆がこの身体を生き返らせてくれたのだから。
「朝いちばん、今日はなに飲む?」
チョットマが着替えを手伝ってくれる。
「もう自分でできるで」
「そういわずに。飲み物は?」
「せやな。ビールとか」
「朝から?」
スゥの摺鉢と摺木も大いに真価を発揮した。
脇腹をざっくり切られた割には、イコマは驚異的なスピードで回復したのだった。
「さっき、イッジが来てね」
「へえ」
「今日の会議? 講演会? に参加したいって。いいよって言っておいた」
講演会ではない。会議でもない。
単に、事件の解明に向けて、イコマが思うところを述べる集まりが予定されていた。




