393 イッジに華を持たせてあげる
イコマとスゥは、サキュバスの庭にある昔のスゥの事務所を覗いていた。
スゥが溜め込んだ品々の中に、避難生活の役に立つものが何かないか。
「だって、悔しいやん」
「何が?」
「イッジが、よ」
イエロータドの報告通り、イッジはレイチェルのシェルタに行っていた。
キョー・マチボリーから乗船を断られてから、ユーペリオンには戻らなかったらしい。
イッジ曰く、シェルタにはもう少しましな武器があるかもしれないと思ったのだという。
その言葉にンドペキは怒り狂ったが、イッジの予想は正しかったようで、幾種類かのセイバーを持ち帰っていた。
片刃の剣で、切りつけると激しく熱を発し、傷つけると同時に焼き焦がす能力を有している。
攻撃隊がかつて相手をしてきた殺傷マシンにももちろん有効だが、そのような接近戦用の武器はいつしか使われなくなっていたのだ。
どう? ンドペキ。
レイチェルにそう言われて、ンドペキはしぶしぶそのセイバーをパリサイド相手に使ってみることにしたのだった。
「くそっ」
スゥはまだ納得できないようだ。
イッジは無断でシェルタに入ったも関わらず、不問に付された。
むしろ称えられた。
そこも気に入らない。
「何か、いいもの、あったか?」
「簡単に見つかるんやったら、さっさと取りに来てるやん」
イッジが見つけてきたそのセイバーは、大量にあった。
市民有志によって、もうユーペリオンに届けられたころだろう。
イコマとスゥはその監督者としての帰り道だ。
有志は元エリアREFの住人が選ばれている。レイチェルのシェルタにも縁のある人々。
それに、アングレーヌもついている。道草を食っても妙なことにはならないだろう。
「これなんか、どない?」
満足げにスゥが物置から引き摺り出したものは、人型の袋のようなものだった。
「潜水用スーツ」
「おおっ」
がしかし、それを着てどうする。
水中でパリサイドを待ち伏せる?
地上でさえ圧倒的に不利な状況が、水中ではますます不利になるだけ。
「使えんな」
「せやね。まあいい。今回はイッジに華を持たせてあげる」
「それより、これなんかどうや?」
ニューキーツで発行されていた雑誌。
「避難所の気晴らしに」
「いいかも」
「ようさん購読してたんやな。料理やらファッションやら。なんでか知らんが旅行雑誌まであるで。これは何やねん。日本の焼き物の魅力って。こっちは魅惑の中世古城巡り……」
「商売柄、そういう情報も必要やったし、うちの広告も出してたしね」
「広告! へえ。なるほどねえ」
しかし結局、雑誌など持ち帰っては、イッジに鼻で笑われてしまうのがおちだということになった。




