443 私のすべてをあげるから、それで満足して
つまり、レイチェルはね。
自分の身も心もロームスの自由にさせる、それをロームスに提案することでこの実験を収束させることはできないか。
そう考えてる。
ロームスがこの実験で何を得たいのか分からないけど、私のすべてをあげるから、それを実験の成果として満足して、というわけなん。
「そんな……」
レイチェルは本気。
だからそれまで、是が非でも防衛部が市民の心の拠り所であって欲しいと思ってる。
スジーウォンやンドペキには悪いけど、役に立たないけどお守りみたいな存在。
防衛部にはそうあって欲しいと思ってるねん。
「そうやったんか……」
レイチェルは最後の人類一万五千人のリーダーとして、自分に何ができるか、それをずっと考えてる。
自分が死ぬこと、もう悩んだり、躊躇はない。
覚悟はできてる。
でも、それをロームスに伝える方法が分からない。
彼女の悩みはそこにあるねん。
レイチェルはロームスにその意思を伝えようと、自分の胸の内にもいるであろうロームスに語りかけているという。
しかし、返事はないし、自分の胸に何の兆しもないのだという。
「いざとなれば、それを伝える役割を誰かに頼まないといけないかもしれない、そこがレイチェルの悩み」
つまり、誰かにロームスとの橋渡しを頼まなくてはいけないというのだ。
そんな恐ろしいことを誰に頼めるか。
頼めるはずがない。
そもそも、ロームスと会話した者など、誰もいないのだから。
それに、ユーペリオンにいる市民は、ロームスと言葉を交わすことはもちろん、どんな接触もするまいと、必死の思いで抗ってきた人々なのだ。
そんな人に、ロームスに伝えて、などと言えるはずもない。
チョットマを除いて。
そして、もしかするとアヤを除いて。
「さっきのメッセージ。キョー・マチボリーは、新たな情報があれば、スジーウォンにも直接伝えようか、ってことやってん」
「なるほど」
「その申し出は無視すると思うけどね。レイチェルは」
「中途半端な時間だし、晩餐というわけじゃないから、簡単なもので」
スゥが食事を運んでくれる。
「ユウは早く寝たいでしょ」
軽く焼いたフランスパンにオリーブオイル、たらこペーストを絡めたパスタ、それにアボガドとゆがいた大ぶりのエビのマヨネーズ和え。
「おおっ、豪華やな」
「ノブの好物」
「よくこんなもの、手に入ったな」
「さっき、洞窟の私の部屋から持てるだけ持って来たんやんか」
「おいしい!」とユウが顔をほころばせた。
「ンドペキも食べていけばよかったのに」
アヤもチョットマも、ようやく笑顔をみせた。




