439 長官として、その作戦は却下だと言え!
「いい加減にしろ! お前達の誰も、そんな作戦は許さん! レイチェル! 長官として、その作戦は却下だと言え! 今、ここで言え!」
レイチェルがびくりとして口を開きかけたが、その言葉も聞かずンドペキが怒鳴りたてた。
「いいか! お前達! よく聞け! 東部方面隊がその名誉と命を懸けて、ここを守る!」
立ち上がったンドペキの拳がテーブルを粉々にした。
「稀代の名将ハクシュウが創り上げたこの部隊を見くびるな! ちょこちょこ出しゃばった真似をするな!」
完全にンドペキに先を越されたが、イコマも言っておきたかった。
「アン、気持ちは分かるが」
「分かるか!」
「ンドペキ、黙って聞け」
「なにを!」
「ここで僕に喧嘩を売る気か! そんなことをしているときか? ことが済んだら、腐った喧嘩、何度でも買ってやる。今は聞け。いいか、アン、サリ」
イコマはアングレーヌとサリの目を見つめた。
「アン、君を大切に思っている人がここにはたくさんもいる。サリもそう」
確率の低い賭けのような作戦を望んでいる人なんていないんだよ。
覚えてるかな、アングレーヌ。
僕を守りに来てくれた時、やったことがないからって、イメージトレーニングなんてしたよね。
アングレーヌの目が興奮のためか、涙のためか、きらきら光っていた。
あの時、僕は、君の手を握って、吸ってみて、と言った。
もし、君がどうしても行きたいというなら、ソウルハンドが使える証拠を見せてくれ。
さあ、僕の手を握って。
さあ。
一瞬でパリサイドを倒せるほどの力を君が持っていることを見せてくれ。
さあ。
僕が一瞬で死んで、これならパリサイドを倒せると分かったら、行ってもいい。
僕一人が死んで、一万五千人の人が助かるのなら、それでいい。
でも、僕を殺せないのなら、行かせるわけにはいかない。
命に重い軽いはないけど、僕の命と君の命の価値、これは違う。
僕はもう六百年も生きてきて、十分に幸せな時期もあった。
君はこれからだ。
僕は死んでも悔いはないけど、アングレーヌやサリの命が軽々しく消えたりしちゃいけないんだよ。
「その作戦は却下します」
レイチェルの声。
「わかりました」
アングレーヌとサリが頭を垂れた。
少しほっとしたが、不安は残る。
アングレーヌがユウの性格も継いでいるというのなら、いざとなれば、自分の思うところを突き進むかもしれない。
レイチェルのクローンであるサリがレイチェルの気質を持っているなら、これまた同じ。
今は説得された格好だが、心から納得はしていないだろう。
アングレーヌにしてみれば、正義感だけで行動を起こすだろうし、サリはあの負い目をバネに無謀な賭けに出るかもしれない。
そうならないことを祈るばかりだ。
アヤが口を開きかけたが、何も言わなかった。
そう、黙っていなさい。
こんな話に決して心を動かされないように。




