407 私が教えたばかりに!
イペは厳しい声で吐き捨てたかと思うと、途端に涙声になった。
「ああ! 可哀想なサスケイ! なんてことを! 私があんなことを言ったばかりに!」
イペの手がまたすがるように私の手を求めてきた。
あんなこと……。
もう私でも分かる。
昔のことをサスケイに思い出させたのはイペだったのでは。
「いつ言ったの?」
「付き合い始めてすぐ。もう二度とあんな悲しいことは……」
しかし、イペのその助言は功を奏さなかったのだ。
「レイミはサスケイを誘ってたわね」
バー・ヘルシードでのシーンが思い出される。
腰の引け気味なサスケイに、レイミがにじり寄っていたあのシーン。
その時すでに、イペとサスケイは人知れず恋の焔を燃やし始めていたのだ。にも拘わらず、またしてもレイミが、ということだったのだ。
「私、許せなかったのよ! あんなことをしておいて、性懲りもなくサスケイに言い寄って。あの女」
「そうよね……」
「サスケイに、私が教えたのよ。あれはあのレイミだって」
「そう……、だったのね……」
イペがあのイペで、レイミがあのレイミだと。
「そう! あぁ、あんなことを言わなければよかった。私が教えたばかりに! サスケイは!」
「サスケイ、さぞかし驚いたでしょうね」
「それはもう……。彼のひきつった顔……、ああ、あ、う、ごめんなさい……サスケイ……。うう」
嗚咽を漏らし始めたイペの背を、チョットマには撫でてやることしかもうできることはなかった。
かわいそうなイペ。
サスケイは違うと言っていたのに、本当は、彼が、と思ってるのね。
前を行く行列が止まった。
ここにもバリケードが築かれてある。
小さなゲートを開き、一行は水系の畔に立った。
タァーレルの亡骸をスミソが流そうとしている。
「タァーレル、仇は必ず取ってやるからな」
イエロータドが声を掛けてやる。
白い布で包まれた亡骸。
その胸の辺りをイペが撫でた。
その頬に一筋の涙が流れていた。




