401 紅茶に「お」をつけるなよ
イコマはキャンティが消される直前の行動を話したが、ようやく湯呑に口をつけたキョー・マチボリーからは「分からない」という声が返って来ただけだった。
ロームス、ロームス、ロームス!
こいつは何なんだ?
たとえ宇宙古代生命体だとて、実験だの、試練だの、粛清だの、思い上がりにもほどがある。
ふつふつと怒りが沸いてくる。
それもキョー・マチボリーに見透かされていた。
「イコマ、目の前の怒りで目を曇らせたらあかんで」
「ああ。分かってる」
「そろそろロームスの意思について、話すか?」
「頼む」
「その前に、ケーキでも切って来るか?」
「いや、お構いなく」
「スゥは、どう? いただくと言ってくれると、うれしんやけど。一緒に食べれるから」
いったい、どうなってるんだ。
電脳の存在として、あくまでクールにクレバーに、他を寄せつけない存在感を放つキョー・マチボリー。
何を言い出すのかと思えば。
猫舌だの、恋だの、宇治のお茶だの、ケーキだの。
僕の肉体組成をコピーして、こんなにふにゃりとした性格に変わってしまったというのか。
まさかな。
しかし、我ながらなんだか、情けないような気がした。
結局、スゥの要望に応えてキョー・マチボリーは席を立ってしまった。
「なんやこう、気が抜けるなあ。日本茶にケーキ?」
「いいやん。まだ時間あるし、キョー・マチボリーがあれから速報を出さないところをみると、向こうは平穏無事ってことやし」
「あ、なるほどな」
「それにしても、なんでお紅茶じゃなかったんかなあ。ケーキ、出すつもりなら」
「知らんよ。思い付きでやってるんやないか。それに、紅茶に「お」をつけるなよ」
「なんでやのん。その方が甘くて薫り高くて、おいしそうやん。くくく」
「ん?」
「前にも、大昔、ノブとそんな話、したことあるな、って」




