4 亡霊に出くわしたかのように
女は財宝の山々を見透かした。
人影が見えたように感じた。
と同時に、
うっ。
まただ。
あの強烈な悪寒が襲ってきた。
人影が見えたように感じても、それが幻覚であることは知っている。
女は浅い息をして、目を閉じた。
瞼におぞましい影が踊っては消える。
この男ほどではないにしろ、自分の精神にも歪みが生じ始めていることは気づいている。
誰にもやらぬ。
この財宝は私のもの。
掠め取ろうとする者は、許さぬ。
私がこの手で始末してやる……。
時々襲ってくる悪寒は、その存在を予告している。
死に絶えたと思っていた奴らだが、生き残った奴がいるのだ。
そいつが近づいている。
まだ、この場所を見つけてはいないはず。
いや、本当にそうか。
一つや二つ、いや、百や二百、盗まれたところで気づきはしない。
知らない誰かがここに潜り込んだ気配もするのだ……。
明日、この男を奮い立たせ、確かめに行かねばならぬ。
もし、奴らが死に絶えていないとしたら……。
奴らがこの場所を嗅ぎ付ける前に殺さねば……。
私のベッドを、墓場を、荒らされてなるものか……。
高貴なる美しい死を汚されてたまるものか……。
そう考えるたびに、頭に血が上る。
網膜が強烈な熱さで焼け焦げるような気持になる。
どうせ殺るなら、できるだけ残忍な方法で……。
こいつも狂っているし、私も狂い始めている……。
だから……。
奴らだって、狂っているに違いない……。
男がまた唸り声を上げた。
ん?
女は目を開けた。
男が寝返りを打った。
顔が毛布から覗いた。
あっ。
長い髪が、毛布の中から零れ落ちた。
えっ!
思わず叫び声を上げそうになった。
男は、いや女だ!
眠りから覚めようとしている。
真っ直ぐこちらを見ている。
そして焦点が合うや否や、男が叫び声を上げた。
まるで亡霊に出くわしたかのように。
ぎゃ、わわわっ!
今度は女が叫び声を上げた。
そこに唇をわななかせている自分の顔を見た。