397/563
397 怒りはあっさり冷えて
一瞬で沸いた怒りはあっさり冷えてしまった。
船長に文句を言っても始まらない。
秘密にしておきたかったことはたくさんあるが、今となっては大したことではない。
恥ずかしかったこと、嘘をついたこと、騙したこと、情けなかったこと、劣等感に苛まれたこと、汚いまねをしたこと。
そして人を傷つけたこと。
そんなことは誰にでもたくさんある。
しかも、もう六百年も前のこと。
いい加減、時効になっていいし、気持ちの上でも笑い飛ばしてしまえばいい。
そう思えばいいだけのこと。
ん。
データがあるなら、最初から、その身体をくれてもよかったのではないか。
まあ、そういうわけにもいかなったのだろう。
切迫した状況の中で突き合わせている時間はなかったのだろうし、記憶を捨てたマトとの不平等が生じる。
「身体の交換は考えておく。それより、話を元に戻そうぜ」
「そうか。一瞬で済むんやけどな」
実際は、ユウやスゥに意見を聞いてみたかった。
もらったこの容姿も二年が過ぎて、かろうじて馴染んできたばかりだ。
固執する気は全くないが、面倒は御免。そう思った。
それに、「若かりし頃」の生駒延治を、ユウもスゥも知っているわけではない。
ユウと知り合ったのは四十代。その前の姿に戻ることを、喜ぶのかどうか、自信がなかった。




