393 盆に三つの湯飲みを乗せて
この男の人生を思った。
神の国巡礼教団に従った理由はどうでもいい。
この男の場合、人生はむしろその後にあるのだろう。宇宙船スミヨシの船体そのものがこの男の身体となってからが。
キョー・マチボリーの脳、そんなものがこの船のどこかにあるのだろうか。
それとも、未来から来た男、オーエンのように、この船の全システムを統合したものがキョー・マチボリーの記憶、思考、意識、感情の源なのだろうか。
しかしそれは、聞いてよいことではない。
きっと失礼にあたるだろうし、人に話せることでもない。
「スゥ、さっきの質問項目、あれでよかったか?」
「そうやねえ。まあ、いいんと違う? でも、私やったら、もうちょっと現実的な、というか切実なことも聞いてみるかな」
「例えば?」
「まずは、そう。市民がまたここに避難してきたとしたら、ロームスの霧を吸い込まずに収容できるのかとか、この先、避難先について具体的に想定している星域は、とか」
「えらい現実的やな。それに一気に究極の質問や」
「それとか、いや、これはないな」
「なんや?」
「もし、ベータディメンジョンに避難することになったら、キョー・マチボリーはどうする? ここに取り残されることになるけど」
「ないわな、その質問は」
「やね」
「気の毒過ぎる」
もしかすると、宇宙船スミヨシごとベータディメンジョンに移行することもできるのだろうか。
その答えはすぐに与えられた。
「そういうこともあろうかと」
と、キョー・マチボリーの声がした。
しかし、その声は今までのようにキャプテンルームに響く声ではなかった。
声の発生源が。
えっ。
振り返ると、一人の男。
盆に三つの湯飲みを乗せて立っていた。




