392 私を忘れてるやん!
キョー・マチボリーの声は弾んでいる。
「あんたと話してると、今日の朝焼けのようにすがすがしい気持ちになる」
大阪弁を話す相手に巡り合ったのは六百年ぶりだ、と。
「これだけ生きてきても、最初に覚えた言葉は身から離れて行かないもんやな」
傍にいれば肩でも叩きそうな調子だったが、空疎な部屋に響く声だけでは、郷愁を呼ぶには少し物足りない。
「なあ、イコマ、あんただけや。私に向かって大阪イントネーションで話しかけてきたのは」
「まあ僕は、ずっとアギやったから、大阪弁で思考し続けてきた。だからやろ」
「そういうことやろな。ユウも大阪弁で話すそうやけど、ついに聞かなんだ」
「今度、連れてくる」
「ああ、そうしてくれ」
と、スゥが声を尖らせた。
「ちょっと、キャプテン。私を忘れてるやん!」
尖っているとはいっても、笑みを含んだ声。
「おおっ! そうや! 忘れとった! とんだ失礼を!」
「忘れるかなあ」
「大阪弁を話す女といえば、ユウが定番。すまんかった。完全に意識の外やった。あんまりおとなしうしとるから」
「そりゃそうやん。私はノブの護衛役やし。護衛がしゃしゃり出たらあかんでしょ」
「いやはや! 今夜は久しぶりに楽しい! あっ! すまん! お茶も出さずに!」
「お構いなく」
「ちょっと待っててくれ!」
「あ、いえ、おい、どうぞお構いなく!」
キョー・マチボリーの声が途切れた。
いそいそと茶でも淹れに行ってくれたのだろか。
まさか。
電脳の存在が?




