3 財宝の煌めき
枕元の小さな明かりが揺らいだ。
不吉な予感。
いつからだろう。
真っ暗な中で眠るのが恐ろしくなったのは。
大昔読んだ、ノスタルジックなファンタジー。
財宝を守る竜が現れて食い殺されてしまうとか、眠ったが最後、竜の姿になってしまうとか。
それが怖かったのかもしれない。
ただ、もうそんな恐怖も過去のこと。
今、とても小さな明かりとはいえ、灯したまま眠るのは、財宝の煌めきを感じていたいから。
真っ暗闇の中では、財宝のベッドもその価値はないと同じだから。
思えば、この財宝の山を私たちが見つけたことは、最高の幸運だったと思う。
偶然とはいえ、この特別な場所に迷い込んだことは、残された最後の人生を変えた。
そればかりか、連中のように地上の汚染に晒されることなく、こうして生き延びることができたのだから。
小さな袋小路の奥のまた奥。
小径とさえいえない複雑な岩の隙間をいくつも潜り抜け、辿り着いた地下水流を渡り、深い溝を降りていよいよ行き止まりかと思ったところにある小さな鉄の扉。
岩棚をくり抜いたキャビネットのような小さなドア。
扉の丁番が錆びてもろくなっていなければ、引き返していたはずだった。
その先にこの場所があることを知らずに。
闇はますます深く、淀んだ空気が溜まった狭い部屋。
しかし、特別な空間であることはすぐにわかった。
隙間なく美しい石が敷き詰められていたのだ。
そして、そこここに無造作に積み上げられたもの。
見たこともない宝石で彩られた装飾品の数々。美しい細工がふんだんに施された工芸品。
王冠やティアラ、剣や仮面。祭祀用の道具類なのだろう器や人形など。
そしてとてつもない量の黄金の塊。ダイヤモンドの原石。
どれもが美しく、妖しく光り輝いていた。
古の時代の宝物。
その数、計り知れず。
うっすらと埃を纏って、誰の目にも触れることなく、長い歳月を眠り過ごしてきたモノが、私の持つ明かりの前に突如現れたのだった。
私達二人は、ここに移り住んだ。
誰にも告げず。
幸い、少し上の階層に登っていきさえすれば、生を維持するだけの食料や水、そして身の回りの品々はある。
あの狂人共と、いがみ合うばかりの連中と、一緒にいることはない。
愛し合う私達は二人だけで、この黄金郷で暮らしていけばいいのだ、と。
手に入れた物を誰に見せびらかすわけでもない。
裕福な暮らしを望むわけでもない。
財宝の力を借りて、人々を支配したいわけでもない。
身に着けたいとさえ思わない。
これがすべて我が物であるという満足感だけで十分。
それが、生きていこうとする意思に繋がっていた。