2 豪華な寝台
女はお気に入りの寝床で寝返りを打った。
何枚も重ねた敷パッドの下で、数多の財宝がシャリシャリと心地よい音を立てる。
この音がたまらない。
なにしろ目も眩む財宝のベッド。
横で寝ている男もつられたように身じろぎしたが、小さく唸っただけで毛布に潜り込んでいく。
最近になって思うことがある。
自分はこの男を愛したことがあるのだろうか。
夫婦であるかのように装ってはいた。
まだ周りに人がたくさんいた頃には、腕を組んだりしたこともある。
キスしたり、裸で抱き合ったことも。
しかしそれは、どんな心境だったのだろう。
もう、思い出せない。
女は、隣の毛布の盛り上がりが呼吸に合わせて上下動を繰り返しているのを眺めた。
男がまた身じろぎし、積み上げられた財宝の擦れ合う音がする。
そうだ。
この財宝を手に入れてからだ。
自分の気持ちに自信が持てなくなったのは。
こいつはもう狂っている。
仕方がないことかもしれない。
真っ暗闇の世界で、もう何年生きて来たのだろう。
二人きりで。
一年か。三年か。
あるいは十年も経っているかもしれない。
最初の頃こそ、時計を気にしていたが、今はもう、時間を気にすることもない。
女は小さく舌打ちした。
こいつ。
目が覚めるや否や、わめくのはやめてほしいと思う。
俺は誰なんだ! ここはどこだ!
逞しかった肉体は見る影もなく醜く肥え太り、まだ四十代のはずなのに、よたよたと歩く。
髪は完全に抜け落ち、血色の悪い青白い顔を脂汗で照からせ、臭い息で溜息ばかりついている。
この男を選んだのは間違いだったかもしれない……。
数百年ぶりに恋をした。
きっと、そんな気分がしていただけ。
小さな胸騒ぎでしかないものを、むりやり恋愛だと思い込もうとした。
それだけのことだったのだろう。
しかし、女は後悔はしていなかった。
今、こうしていられるのだから。
財宝の墓場で、死を待つだけの暮らしであっても。
そう、ここは墓場。
人類の歴史が終わろうとしている今、金銀財宝のベッドで眠れるのだから、それはそれで幸せと言ってもいいのではないか。
ピラミッドの諸王よりはるかに豪華な寝台で死んでいけるのだから。