底辺YouTuberの日常と逆転へのスタート
「本日はここ、旧猫鳴きトンネルへやってきました。ここは皆さん知っての通りの曰く付きトンネルで、“トンネル内で猫の鳴き声が聞こえる” “車で通ると赤い肉球がつく” “近くの電話ボックスに猫団子が出る”などが発生すると言われいて、その他にも都市伝説で、“トンネルを抜けると日本国憲法が通用しない猫集会がある” “入ると両手がモフモフになって携帯電話に出れなくなるなる”といった不気味な噂が広まりました」
テレビリポーターのように夜の猫鳴きトンネルをライブ配信しながら実況する。
「今日はこの不気味な噂の検証をするため、トンネルの中で一晩過ごしてみたいと思います」
旧トンネルまでの入口は堅く閉ざされていたが、何とか侵入。(良い子は真似しちゃだめだよ?)トンネルの中心につくと、早速画面にノイズが入り、不穏な気配が流れた。すると同接数が少し増える。
(よし、このまま増え続けろ!もっと霊障っぽいことおきろ)
数字が増えたことの嬉しさを隠しつつ、テントと椅子を用意して泊まる準備をする。
しばらくすると、由来通りの猫が周りに集まり始める。一匹も鳴かずに遠巻きにコチラをみている感じは確かに不気味だったが、椅子に座りカメラに向かって何気ないことをしゃべっていると、突然猫たちが一斉にトンネルの外に向かって走り出した。
(なんだ?映像か音声で判るものでなきゃ、数字が増えんのに、不気味な動きはやめてくれ)
猫の不自然な動きに凍り付いていると、遠くでサイレンのような音が鳴っている気がした。誰もいないトンネルに雨音がトンネル内に響いてきた。
「天気予報は晴れだったんですけどね。なんか雨が降ってる音が聞こえます。これも祟りなんでしょうか?」
「ん?コメント欄が騒がしいですね。コメントありがとうございます。なになに?サイレン聞こえませんでしたか?―はい。サイレンっぽいのが遠くに聞こえた気がします。早く逃げろ?またまたぁ~、そうやって脅そうとして~」
やり取りをしていると、足元に水が溜まり始める。
「足元水浸しになりそうです。そんなに雨が降っているんですかね?」
気が付くとかかとまで水が上がってきた。
――ヴィィィィン――ヴィィィィン――
着信だ。(ライブ中に電話してくんなよ。誰だよ。)
画面には神堂の文字。この、YouTubeチャンネルの裏方である。ライブ中はモデレーターをしているのに電話してくるって事は緊急事態か?
「―え?トンネルから出ろ?5分もしないで水没する?」
その言葉通り、すでに足首まで水が。貴重品だけもって急いでトンネルを脱出する。外に出ると、辺りは水浸しで、降りてきた山道だけが無事な状態でとにかく上に逃げた。
そんな事があっても一切ちっともバズらない、底辺YouTuberの忌部は相棒の神堂と共に曰く付きの場所や廃墟などで肝試しや探索を動画で投稿してきた。毎回、霊障の類は発生しないが、軽い不幸が訪れる。廃墟の人影を追いかけたらヤンキーのたまり場で角材振り回されて追いかけ回されたり、界隈で有名な崖で飛び降りそうな人が見えて急いで止めたら空撮を邪魔して関係者に怒られたり。
ある時、数少ないリスナーの一人からDMが届いた。自称イベントプロデューサーの彼は、世界有数の大富豪たちだけが観戦出来るサバイバルゲームが今度、日本で行われるという。シークレットイベントなので、参加者も限られた人数で、この情報を入手できるほどの人脈、情報収集能力、サバイバルで残れるほどのバイタリティーや、途中で諦めない切実な理由をもった人を募集しているという。毎度赤字をたたき出してもあきらめずにライブ配信を繰り返し、何が起きようと最後までカメラを止めないガッツがあればいけるのでは?と話を持ちかけたという。
話を持ちかけた本人もシークレットイベントなので詳しくは知らないらしく、応募して当選した人のみ当日にルール説明がある。ちなみに、わかっているのは、東京ドーム1000個分の大きな敷地で行われるゲームで、1チーム3人までで、参加者は全員タグつきブレスレットをする。持ち込み資材は自由だが、自身の体で持って行けるものだけ。賞金は一億円。あわよくば優勝して賞金をゲットしつつ、動画を投稿すれば有名にもなれるのではと、応募に踏み切った。
後日、当選連絡と開催日程、集合場所だけが送られてきた。具体的な会場の場所は対策される可能性を排除するため、到着するまで秘密だった。借金をして当日までにできうる限りのサバイバル道具を買い集めた。物が多すぎて相棒である神堂には呆れられた。
当日。薄曇りの中、集合場所には人がいなかった。
「おい、誰もいないぞ。まさかのデマだったら笑えねぇぞ。今回のために借金で買ったバックパック、電車でどれだけジロジロみられたか。」
集合場所で話をしていると、いつの間にか品のいい上等なスーツをきた細目の男が隣にいた。
「忌部様、神堂様ですね。コチラにお越しください。」
連れて行かれた先には窓をスモークされたバスがあった。
「シークレットイベント中は外部との接触を禁止とさせていただきます。通信機器の類は預からせていただきます。お帰りの際にお返しいたします。」
(スマホが手元にないと落ち着かんな。強制デジタルデトックスだな)
バスに乗ると、中は静まり返り他の参加者がわからないようにカーテンで仕切られていた。
「こちらをつけてください」
アイマスクとヘッドフォンを渡され、まるでテレビのドッキリ番組のようだった。
何時間立っただろう、バスが停止した感覚があったが到着のアナウンスはなく、さらに時間は過ぎた。もう、真っ暗な景色と曲がれる音楽に飽きた頃、再びバスが動き出す。さらに時間は過ぎ、トイレにいきたくなってきた頃にバスは停止し、到着のアナウンスが流れる。
アイマスクとヘッドフォンの状態で連れていかれる。足元がわからずビクビクしながら進むと、椅子に座らされアイマスクとヘッドフォンを外し待つように言われる。
アイマスクを外し、目が慣れてくると個室にいるのがわかる。4畳半くらいで机と椅子、モニターがあり、持ってきた荷物も部屋に置いてあった。ドアノブを回すと外側から鍵がかけられて出られないようになっていた。仕方なく椅子に座ると、天井の隅に監視カメラがあるのをみつけた。ほかに何かないかと部屋を確認していると、モニターが点灯した。
『皆様、長旅お疲れさまでした。』
音声が流れるが、画面に人物は映っておらず、地図が映し出されていた。どうやらゲームのフィールドマップのようだ。
『これから皆さまにはサバイバルゲームに参加していただきます。フィールドは円形で直径は約8キロ、中心に塔が立っており、最上階にチェックポイントがあります。チェックを受けたら折り返して外壁の扉から出た時点でゴール、生還となります。』
アナウンスに従いモニターマップに矢印が現れ動き始める。丸い外壁から中心の塔に向かい矢印が向かい、中心から外に向かう。しかし、矢印がはじかれる。
『但し、一つの扉からは出入りは各一回です。また、一人しか通過できないので、ご注意ください。』
(1チーム3人まで参加可能とか書いてあったのに、スタートは一人ということか。)
『また、中心までには様々な障害物や建物などがありますが、敷地内の建物は全て出入り自由でございます。極端なお話をさせていただけば、窓を壊して侵入していただいても構いません。』
(なんだか物騒な話だな。だが、わざわざ入るところを探さなくても、手っ取り早く見えた窓から入れるは助かるな。)
『予めお伝えしたとおり、賞金は一億円⋯ですが、山分けではございません!中央の塔、最上階にてチェックを受けると、その場で賞金をお渡しします。これを持ち帰って下さい。持ち帰った分が、今回の報酬となりますが、1位の人と最下位の人が同じ賞金だと不公平感が出てしまうので、参加人数はお伝えしませんが、中間の順位の方は賞金獲得率を100%とし、最下位の方は獲得率50%。減った賞金を上位の人がもらうこととします。1位は最下位の没収分、2位の人はブービーの没収分。これは他の順位も同様とします。また、タイムボーナスも設定させていただきます。今回は48時間以内にチェックポイントを通過し、賞金を持って帰ってくるのがルールですが、最高で24時間以内にゴールすればプラス50%とし、例え最下位でも24時間以内にゴールすれば100%賞金を得ることができます。これは短縮した時間分のボーナスとします。』
(これは、酷いルールだな。一見、救済措置付きの賞金倍アップチャンスに見えるが、実状は参加者同士の蹴落とし合いが発生し、蹴落としてもタイムボーナスがあることにより、罪悪感が少なくなる。これをわかってる参加者はどれくらいいるのだろうか?しかも、賞金の持ち帰り中に奪われる可能性もある。賞金を持ち帰った金額が今回の報酬だからだ。奪い合い禁止されない以上、どこかで発生するのは確実だ。)
『さて、ルールの説明は終了いたしました。あとは、各自の判断で行動してください。これから、皆様にはGPSとバイタルチェックのできる防水、耐衝撃スマートウォッチを装着していただきます。机の引き出しをお開け下さい。』
机を見ると分厚い天板だと思っていた部分が引き出せた。中には金属製のブレスレットに時間が表示されているスマートウォッチが出できた。
『自動調整機能があるので軽く締めていただければ結構です。また、一度締めると、専用の工具がなければ外すことができません。ゴールした段階で回収させていただきます。皆様の場所はGPSとカメラで追わせていただきますが、何があっても48時間以内は救出に向かいません。お気をつけください。』
(参加するときの宣誓書にも書いてあったな。何があっても主催側は感知しないと。サインした以上、確実に48時間は見捨てられる。暴走した参加者がいたり、現場の状況が悪くて事故に合う可能性もあるから細心の注意を払わなければ。安易に協力体制も危険だろうな。)
『それでは、これからフィールドの入口を決める抽選を行います。スマートウォッチにルーレットが表示されますので、任意のタイミングでタッチをしていたたくと、扉が決定します。』
(チームで参加オッケーとか言いながら、中で合流するのを邪魔する気か?神堂と入口が真逆になったら目も当てられん。この後、話す時間はあるのだろうか?)
無慈悲にもスマートウォッチの画面が切り替わる。数字が回転を始めると最大数が99まであるのがわかる。
(参加人数を知らせないためのダミーだろうな)
場所の抽選に良いも悪いもわからないので、なんとなく神や仏に祈りながらストップを押す。すると、42と表示されたところで停止した。
(42って。神も仏もありゃしないな。)
『場所確定しましたので、順番に案内致します。ゲームを始める準備をしてお待ちください』
扉がノックされる。
「忌部様、お迎えにあがりました。」
カチャと扉が開くと黒いスーツをきたグラサン男が入ってきた。
「忌部様、準備はよろしいでしょうか?」
「ちょっとトイレに寄ることはできますか?ずっと我慢していたので。」
「構いませんよ。この部屋へは戻ってきませんので、荷物は持ってついてきて下さい。」
廊下に出ると学校を改装したのか、どこか懐かしいネットに入った石鹸がある洗い場があった。階段の脇にトイレがあり、中で用を足すと少しでも情報が欲しくて窓をみたが、偏光フィルムが貼ってあり、鉄壁の防御だった。
「すいません。お待たせしました」
黒服は何事もなかったかのように案内を続け車に乗るように促す。
(車もスモーク張ってあるのかよ。すげー徹底ぶりだな)
何も舗装されていない小路を10分ほどいくと車は停止し、降りるように言われる。
高さ4、5メートルくらいの壁が森を引き裂くようにカーブしながら永遠と続いている。42と書かれたプレートが扉の上にあり、扉に赤いLEDが点灯した電子ロックの読み取り装置がついている。
「正午丁度にロックの読み取りができるようになるので、それがスタートの合図になります。スマートウォッチをかざしてロックを開錠して入って下さい。また、ゴールするときは、扉の内側に電子錠がついているので、同じくスマートウォッチをかざして開錠してください。私からは以上ですが、なにか質問があれば答えられる範囲で回答させていただきます。」
スマートウォッチの時計を見るとあと10分ほどで正午になる。
「チームメンバーがどこから入るかはきけますか?」
「忌部様のチームメンバー神堂様は偶然ですが、41番なので右隣の扉ですね」
ダメ元で聞いたので答えたことに内心びっくりして頭が真っ白になり、それ以上の質問をするのを忘れてしまった。
アナウンス:皆様、スタート1分前です。扉の前に移動してください。
通信機器がないので神堂に連絡が取れないのがもどかしい。俺が神堂の左隣だと気づいているのだろうか?とにかく合流できるように、右側に寄りながら移動を開始しよう。
気合は入れたが、ゲームが始まる前に体力を使うのは嫌なので、重い荷物を下ろしショルダーバッグから飲み物を出す。一口、口に含むと少し熱の籠もった身体に冷たさがしみ渡る。
アナウンス:10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、スタートです。
扉の錠前についていたLEDが赤から緑に変わる。




