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RE.Ver【悪役転生 レイズの過去を知り、未来を変える】  作者: くりょ


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1話 NEW Start LIFE!



 彼は、またコントローラーを握っていた。


 いったい何周目になるのか、もう覚えていない。

 数を数えることすら、とうの昔にやめてしまった。


 それでも今日も、習慣のように――いや、執念のようにゲームを始める。


 画面に映るのは、見慣れたタイトルロゴとスタート画面。

 選ぶのは決まって「CONTINUE」ではなく、「NEW GAME」だった。


 そして始まるチュートリアル。


 攻撃ボタンの説明。

 移動操作。

 スキル発動。


 そんなものは、もう何度も何度も見てきた。

 とっくに覚えきっている。


 彼の目的は、そこではない。


 チュートリアルの終盤に必ず現れる、小太りの中年男――レイズ。


 ゲーム内主人公カイルが最初に倒す、いわば噛ませ犬。

 物語に大きく関わることもなく、序盤で姿を消すだけの敵キャラ。


 だが、おかしいのはキャラクター紹介だった。


 名前:レイズ

 属性:氷、そして……死属性。


 “死属性”。


 それはこのゲームの中で、最も無価値とされる烙印だ。

 誰もが「使い道のない属性」と呼び、略して“無属性”と笑う。


 役立つ場面など一切ない。

 だからこそ、公式の説明文にもあえてこう記されているのだ。


 ――死属性。


 彼は、コントローラーを握る手に自然と力を込めた。


 無駄と切り捨てられた男、レイズ。

 だが、周回を繰り返すうちに、彼の中には確信めいた思いが芽生えていた。


 ――この男には、何かがある。


 そして今日もまた、ゲームが始まる。


 そして――俺は知っている。


 “死属性”が、どれだけ頭のおかしい性能を秘めているのかを。


 氷属性だけでも十分に希少だ。

 だが、死属性――そう表記されたその力は、比べ物にならない。


 なにせ、その真価が明かされるのはゲーム終盤。

 もしこの事実が、もっと早い段階で理解されていたなら――

 歴史は何重にも塗り替えられていたはずなのだ。


 にもかかわらず、その死属性は「無駄」と切り捨てられ、

 チュートリアルの小太りの男――レイズに与えられていた。


 ……笑えるだろう。


 誰も気に留めない雑魚敵に、世界を変える鍵が隠されているなんて。


 だから俺は繰り返す。

 何度も、何度でも――チュートリアルから。


 しかし、おかしい。


 死属性の扱い方が分からないのは仕方ないとしても、レイズは氷属性の片鱗すら見せない。


 ただ小太りの体を揺らしながら、鈍い動きで剣を振り回すだけ。

 その攻撃は遅く、隙だらけで、ゲームを始めたばかりのプレイヤーにすら簡単に見切られる。


 そして、あっけなく倒される。


 まるで、

 「俺はチュートリアルの雑魚敵です」

 とでも言いたげに。


 ――氷属性? 死属性?


 そんなもの、影すら見えない。


 だが俺は知っている。

 この男が本当は、ゲームの歴史すら覆しかねない性能を秘めていることを。


 ならば、なぜ。


 なぜレイズは、何もせず、何も見せず、ただ斬り捨てられるだけの存在として固定されているのか。


 そこに、答えがある。


 俺はそう信じている。


 そうして、何度も何度も繰り返しているうちに――

 俺は、この男の表情に妙な違和感を覚えるようになった。


 なんとなくだが。

 死ぬことを望んでいるように見えるのだ。


 斬り伏せられる瞬間、ほっとしたように笑っている気さえする。


 もちろん、ただのグラフィックの表現ミスかもしれない。

 古いゲームだ。

 ドットやポリゴンの崩れなど珍しくもない。


 ……だが、それだけでは説明できない何かがある。


 だから俺は、レイズの言葉に耳を澄まし、少しずつ台詞を整理するようになった。


 ――「ただではやられない」

 ――「昔だったら、おまえみたいなの簡単に倒せるぞ」


 違和感だ。

 どう考えても、チュートリアルの雑魚キャラが口にする台詞じゃない。


 “昔だったら”?

 “簡単に倒せる”?


 まるで、かつては属性を使いこなせていたかのような言い草だ。


 ……どういう意味だ。


 気になる。

 気になりすぎる。


 やがて俺は、ゲームそのものよりも、このキャラ――レイズの存在に囚われていった。


 夜、ベッドに潜り込んで目を閉じても、あの小太りの男の顔が気味が悪いほど鮮明に浮かぶ。

 夢にまで出てくるほどに。


 そうして俺は、レイズを倒してはやり直し、また倒してはやり直した。

 気がつけば、それが当たり前になっていた。


 無限に繰り返すチュートリアル。

 無限に繰り返す、敗北するレイズ。

 そして俺だけが、その違和感に囚われ続けていた。


 いつのまにか、まぶたが重くなっていく。

 コントローラーを握ったまま、俺は眠りに落ちていた。


 ――そして、目を覚ましたとき。


 俺の視界には、見慣れた天井も机もなく、

 モニターに映るはずの画面さえ存在しなかった。


 そこにあったのは――

 “いつもと違う景色”。


 緑の草原。

 冷たい風。

 どこかで響く鳥の声。


 だが、それはテレビ越しの映像ではない。

 肌を刺す空気の冷たさも、風の匂いも、まるで現実そのものだった。


 俺は立ち尽くしていた。


 夢なのか、現実なのか。


 ただ一つ、はっきりしていることがある。


 ――ここは、俺のいた世界ではない。


 そう確信した瞬間、背筋に冷たいものが走った。


 あたりを見回すと、石畳の道の向こうに立派な屋敷がそびえている。

 重厚な門構え。

 その前を行き交うのは、黒と白の衣装に身を包んだメイドたち。


 どう見ても、現代日本ではありえない光景だった。


 俺は無意識に、自分の手を見下ろす。


 「……は?」


 そこにあったのは、見慣れない太い指だった。


 俺の手は本来、細くすらりとしていたはずだ。

 いや、正直に言えば、不健康なくらい細かっただけだが……それでも、こんな丸みを帯びた手ではなかった。


 だが――これは違う。


 指が。


 めちゃくちゃ太い。


 「う、うそだろ……?」


 慌てて腹に手を当てる。


 ……分厚い。


 頬を撫でる。


 ……丸い。


 嫌な汗が、じわりと額を伝った。


 これは――まさか。


 「太ったキャラに……転生したのか?」


 言葉にした瞬間、現実味が一気に増した。


 「デブキャラ転生!? なんでだよ!」


 思わず叫びそうになるのを堪え、俺は周囲を見回す。


 「鏡は? 鏡はどこだ……!」


 一刻も早く、自分の姿を確認したい。


 だが、屋敷の前を行き交うメイドたちは、俺の存在に気づいていながら、露骨に目を逸らしていた。


 まるで“触れてはいけないもの”を見るかのように、そっと距離を取って通り過ぎていく。


 ――なんだよ。


 俺、そんなにひどいのか……?


 胸の奥がざわつく。

 鏡を探す足取りが、急に重くなった。


 見るのが怖い。


 だが、恐怖よりも勝ったのは好奇心だった。


 震える足を一歩踏み出した――その瞬間。


 「……っ! お、重てぇぇぇ……!」


 全身に鉛でも巻きつけられたような感覚。

 足を動かすだけで、筋肉が悲鳴を上げる。


 腕を持ち上げようとしても、鈍い抵抗が返ってくる。


 これが――この肉体なのか。


 「最悪だ……なんで、こんな……」


 息が荒くなる。

 はぁ、はぁ、と情けない呼吸音が響いた。


 それに、ここはどこなんだよ。


 汗を滴らせながら辺りを見回すが、使用人たちは俺と視線を合わせようとしない。

 顔を伏せ、避けるようにすれ違っていく。


 「な、なんなんだよ……!」


 そのときだった。


 ひそひそ、と小さな声が耳に届く。


 使用人たちが、何かを囁き合っている。


 俺のことを――話している。


 恥ずかしくもあり。

 悲しくもあり。

 なによりも……あまりにも未知だった。


少し歩いただけで、全身から汗が噴き出していた。


 荒い息を整えながら、ようやく屋敷の中へと辿り着く。


 重厚な扉をくぐった先、静まり返った廊下の片隅に――それはあった。


 立てかけられた、一枚の鏡。


 「……やっと、確認できる……」


 恐怖と期待が胸の中でせめぎ合う。


 俺は、ゆっくりと鏡の前に立った。


 そして、おそるおそる顔を映す。


 ――え?


 思わず声が漏れた。


 「まじで……誰これ……?」


 そこに映っていたのは、年の頃で十一、いや十四ほどだろうか。


 金色の髪は陽光を受けてきらめき、瞳は深い海のように青い。

 肌は透き通るように白く、傷ひとつない。


 整った鼻梁。形の良い唇。


 ここまでなら、誰もが羨む「美少年」と呼んで差し支えない。


 ……だが。


 そのすべてを台無しにする、圧倒的な肉の存在。


 頬は丸く埋もれ、顎と首の境目は曖昧になり、

 腹は鏡の手前へと誇らしげに突き出ている。


 その存在感は、もはや凶器レベルだった。


 「…………っ」


 言葉を失う。


 羨望を集めるはずの容姿と、

 本能的に距離を置かれる体型。


 あまりにも不釣り合いなそのギャップに、

 胸の奥を殴られたような衝撃を受けた。


 そのときだった。


 「あの……レイズ様……?」


 背後から、おそるおそる声がかかる。


 ――は?


 思わず振り返る。


 そこに立っていたのは、見覚えのないメイドのひとり。

 怯えたように俺を見つめ、確かにそう呼んだ。


 レイズ。


 「レイズ……????」


 心臓が跳ね上がる。


 慌ててもう一度、鏡を覗き込む。


 ――これが、レイズ?


 金髪碧眼の美少年顔。


 その下にぶら下がる、とんでもない肉の塊。


 まさか、このアンバランスな存在が……?


 「……その、レイズ様。大丈夫ですか?」


 メイドが震える声で問いかける。


 俺は――


 「大丈夫なわけ、ないだろぉぉぉ!!」


 屋敷の廊下に、情けない叫びが響き渡った。


 メイドは目をまんまるにして飛び上がり、


 「ご、ごめんなさい! ごめんなさい!」


 と必死に頭を下げる。


 「いや、そういうことじゃない! 責めてるわけじゃないんだ!」


 慌てて両手を振る。


 そして、自分の腹を両手でぽよんぽよんと揺らした。


 「見ろよこれ! どう見ても“大丈夫”じゃねえだろ、この体!」


 ……廊下に微妙な沈黙が落ちる。


 メイドは困惑したまま、俺の腹と顔を交互に見比べていた。


 ははは……。


 最悪だ。


 よりによって、なんで俺なんだよ。


 腹の肉をぷにぷにと揺らしながら、

 メイドの視線など気にも留めず――


 俺は、静かに絶望へと沈んでいった。


「その……レイズ様。私は変わらず素敵だと思いますよ?」


 メイドはそう言った。


 無理している様子はない。だが、俺にはそれがどうしてもお世辞にしか聞こえなかった。


 「んなわけあるか! どう見てもデブだろ! こんなんじゃ……お外に出られるわけねえよ!」


 俺は腹をぽよんぽよんと揺らしながら叫ぶ。


 メイドは慌てて手を振るが、どう見ても困惑している。


 そんな情けないやり取りをしていると――


 「……あの、レイズ様? 少し……変わられました?」


 メイドが首をかしげた。


 その瞬間、背中に冷たい汗が伝う。


 しまった。


 俺はすっかりパニックになっていた。


 頭では「俺」として叫んでいたが、ここでは――


 ――俺は、“レイズ”なんだ。


 鏡に映るデブの美少年。

 メイドが呼ぶ名前。


 すべてが、その現実を突きつける。


 「……えっ? あ、ああ……」


 俺は慌てて咳払いをした。


 「いや、その……ちょっと疲れてただけだ。うん、それだけ」


 苦し紛れの言い訳に、メイドは目を瞬かせる。


 怪しんでいるようでもあり、信じているようでもあり……その曖昧な反応に、逆に心臓が跳ねた。


 「そ、そうですか……よかった。てっきり、本当に別人のようで……」


 メイドは胸に手を当てて安堵の息を漏らした。


 ……危ねぇ。


 思わず素の自分で叫んじまったが、なんとか誤魔化せたらしい。


 ――そうだ。


 俺はいま、“レイズ”なんだ。


 この肉だらけの体も、醜い腹も、全部まとめて……俺は、レイズ。


 (……いや、納得できるかぁぁぁ!!)


 心の中で叫んでも、現実は変わらない。


 鏡に映るのは、どう見ても金髪碧眼の「太った少年レイズ」だった。



メイドの少女はぺこりと頭を下げた。


 「レイズ様、食事の用意ができました」


 「そ、そうか……」


 俺は慌てて取り繕いながら返す。


 「それで君……いや、えっと、今日の食事はどんなメニューなんだ?」


 少女は一瞬、不思議そうに俺を見てから、淡々と答えた。


 「はい。今日は豚の丸焼きを一頭と、レイズ様の大好きなカウイのジュースをご用意しております」


 「……豚の……丸焼き?」


 「ええ。それと……レイズ様。いつもは私のことを“リアナ”とお呼びくださるのですが……」


 彼女はわずかに俯き、寂しそうに唇を噛んだ。


 あ、やべ……名前、すっかり忘れてた。


 「そ、そうだ! リアナ、リアナ! ……って、豚の丸焼き一頭!? そんなもん食えるか!!」


 思わず素で叫んでしまった。


 「む、無理無理無理無理! 腹が破裂するわ! 何考えてんだ!」


 俺の狼狽をよそに、鏡の中のレイズは――静かに笑っているように見えた。


 まるでこう告げているかのように。


 ――食っていたさ、いつも通りにな。


 「……マジかよ……」


 頭を抱える。


 俺はようやく理解した。


 つまり、この肉体の“前の持ち主”は――本当に豚の丸焼きを日常的に平らげていたのだ。


 「その、リアナ……俺は豚の丸焼きじゃなくて、野菜とか、そういう……なんていうんだ? ヘルシーなのがいいんだけど……」


 俺の言葉に、リアナは顔を真っ青にした。


 「な、なにをおっしゃるのですか!? レイズ様!! いつもなら“なんで二頭じゃないんだ!!”と仰るのに……!」


 「殺す気かァァァ!!」


 思わず廊下に響き渡る。


 「そ、そんな……では作り直しますか……?」


 リアナは恐る恐る尋ねてきた。


 「いや、それは悪いから……とりあえず案内してくれよ」


 そうしてリアナに導かれて食堂へ。


 そこに鎮座していたのは――本当に、豚の丸焼き一頭。


 香ばしい匂いが漂い、黄金色に焼き上がった皮がパリパリと音を立てる。


 だが、見ただけで俺の胃は拒否反応を示していた。


 (……うえぇ、腹いっぱいになりそうだ……これ全部一人で? 嘘だろ……?)


 椅子に座り、目の前の料理を前にため息をつく。


 食事の席だというのに、ほかに誰もいない。


 広すぎる食堂の中央で、丸焼きと俺とリアナ。異様すぎる光景だ。


 「……とりあえず、一口だけ……」


 恐る恐るナイフを入れ、肉を切り取って口に運んだ。


 ――!!


 「……な、なんだこれ……めちゃくちゃ、うまい……!」


 気づけば二口目。三口目。


 そして――あっという間に、ぺろりと平らげていた。


 しかも、まだ余裕がある。


 腹はいっぱいのはずなのに、体が勝手に「もっと食える」と訴えてくる。


 「……まじかよ、この体……」


 ぽかんとしている俺の横で、リアナはほっとしたように微笑んだ。


 「よかった……。やはりいつもながらお見事ですね、レイズ様!」


 「……あ、ああ……」


 褒められても素直に喜べるわけがない。


 「……その、リアナ。次からは……肉はこれの半分以下にして、サラダも用意してくれ」


 「えっ!? そ、そんな! レイズ様!! それではレイズ様が餓死してしまいます!」


 「アホか! 死なんわ!」


 俺のツッコミが、広い食堂に響き渡った。


 その言葉に、リアナは本気で驚いた顔をした。


 ……いや、だからなんでそんなに驚くんだよ。


 何もおかしいこと言ってないだろ……?


リアナが、おずおずと伺うように口を開いた。


 「それで……次は、どうなさいますか……?」


 俺は一拍置き、胸の内で軽く息を整えてから言った。


 「もちろん――ダイエットする。この体じゃ重たすぎて、かなわん」


 「っ!?!?」


 リアナは目を見開き、そのまま崩れ落ちそうにふらついた。


 「そ、そそそそそんな……レイズ様のお口から、“ダイエット”なんて……!」


 今にも泡を吹きそうな勢いだ。


 「いや、大袈裟すぎんだろ。見ろよ、この体を!」


 俺は自分の腹を両手でつまみ、わざとぽよんぽよんと揺らしてみせた。柔らかい脂肪が波打つ感触が、妙にリアルで情けない。


 「……ですが、レイズ様は素敵ですよ」


 「バカにしてる?」


 「そ、そそそんな! 許してください!!」


 リアナは恐怖に涙を滲ませ、ひたすら首を横に振る。


 「だから大袈裟だって! とにかくダイエットだ。体を動かせる場所に連れてってくれ!」


 「は、はいっ!」


 そうしてリアナに導かれ、俺は訓練所へと足を踏み入れた。


 そこは石造りの広い空間だった。壁にはずらりと武器が並ぶ。剣、槍、斧――金属の冷たい光が、どれもやけに眩しく見えた。


 「おぉ……これだよ、これ。ファンタジーを感じるね!」


 胸が高鳴る。だが同時に、入り口に立っただけで汗が滲んでいた。俺の身体は、思った以上に重い。


 それでも俺は片っ端から武器を手に取った。


 「軽すぎる……これじゃダメだ」


 「これも……うーん、しっくりこない」


 夢中で武器を漁る俺を、リアナは少し距離を取って見守っていた。


 やがて彼女は一礼し、控えめに言う。


 「その……レイズ様。私は一度お屋敷に戻ります。また参りますので……どうか、お気に召すものをお探しください」


 「おぉ、わかった。適当にやってるから、リアナはどっかで休んでていいぞ」


 その瞬間、リアナの表情が止まった。


 「っ……! そ、そんな“休め”なんて……初めて言われました……」


 目を潤ませ、信じられないものを見るような顔。


 「それでは……どうか、くれぐれも無茶はなさらぬように……」


 そう言い残し、リアナは足早に去っていった。


 「いやいや……大袈裟すぎるんだよ……ほんとに」


 呟きながらも、俺はまた武器に手を伸ばした。


 この肉体は重く、鈍い。けれど――不思議と今は、楽しくて仕方がなかった。


 場面は屋敷へと切り替わる。


 石畳の廊下に、慌ただしい足音が響いた。


 「と、とうしゅさまっ! レイズ様が――!」


 駆け込んできたリアナは息を切らし、声を張り上げた。


 重厚な扉の向こうから返るのは、この屋敷の主――ヴィル。


 「……何事ですか?」


 低く落ち着いた声が廊下に響く。


 リアナは涙目のまま、声を裏返らせた。


 「れ、れ、れれいず様が――ダ、ダイエットを……!」


 「――なに!?」


 ヴィルの瞳が鋭く光り、その場の空気が一変した。


 「詳しく話しなさい。リアナ」


 リアナは訓練所での出来事を語り始めた。


 豚の丸焼きを一頭しか食べず、野菜を求めたこと。

 「休め」と労われたこと。

 そして武器を漁りながら楽しそうに笑っていたこと。


 「……そんな馬鹿な」


 ヴィルは低く呟く。


 まるで世界の理が崩れたかのように。


 一方その頃、訓練所。


 俺は武器を振り回しながら思考を巡らせていた。


 (てか……レイズって、カイルに殺されるキャラだったよな……?)


 ゲームではチュートリアルの悪役として登場し、主人公に倒される存在。


 だがそれは、今のレイズから数十年も先の話だ。


 (……もしかしたら、こいつは死なないで済むかもしれないな)


 背筋がぞくりとする。


 (それにしても……この頃のレイズって何者なんだよ?)


 リアナに「レイズ様」と呼ばれ、恐れられ、敬われている。


 そして思い出す。


 アルバード・レイズ。


 アルバードという家名。


 俺はまた武器を手に取り、振り回した。


 「はは……楽しくなってきた!」


 ゲームでは語られない、レイズという人物の過去。


 プレイヤーとして、これ以上に興味深いものはない。


 「ハハハハハ!! やばいな!! めっちゃ楽しそうだ!!」


 そして数分後。


 「はぁ、はぁ、はぁ……」


 息が上がる。


 「にしても……この身体、重すぎるぅぅ……!」


 情けない雄叫びが、石壁に虚しく反響した。




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