オムマ入学試験 第五話
夜はまだ始まったばかりだった。湿った土の匂いと、焼いた肉の匂いが混ざり合っている。辺りはかなり暗いが、焚き火だけが目立ち、周囲をぼんやり照らしていた。その光もすぐに闇に溶けていく。
「んー、うまい。これ、めっちゃいいな」
オットーが言う。
二人は黙々と噛み続ける。
「へへ、料理は得意なんだよ」
ダイケが軽く笑って返した。
だが、空気はどこかぎこちない。以前のような自然なやり取りではなかった。
しばらくして、オットーは横になって眠る。ダイケは見張りに残った。
(理想は明日中に水晶玉を三つ。けど、相当きついな。明日で決められなかったら、次の日は疲労でさらに不利になる……最適な動きを考えないと)
ダイケは思考を巡らせる。
(森の地形は基本的に平坦。でも場所によっては茂みが濃いし、高低差も少しある。最初は75組……もう何組かは突破してるはずだし、脱落も出てる)
ダイケの額に汗が滲む。
(少なくとも10組は消えてると考えるべきか。通過した連中もいるなら、奪える水晶玉は減ってる。時間が経てば、さらに減る)
次第に、落ち着きがなくなっていく。
(それだけじゃない……クソ、なんで忘れてた。30分以内に誰も奪えなければ、ランダムで一組脱落するルール。昼は気にしなくてよかったが……夜は間が空く可能性が高い。俺たちが選ばれる確率も、低くない)
ダイケは唇を噛む。
(時計もない……どうする。勝てるのか?どうすればこの状況を有利にできる……)
約4時間が過ぎた。日付はとうに変わり、夜はさらに深くなっている。
ダイケは考え続けたが、勝ち筋は一つも浮かばなかった。
そのとき、オットーが目を覚ました。
「……おい、交代だろ。休めよ」
まだ眠そうな声だった。
「いや、今は無理だ。休めない」
ダイケの顔は硬い。何か重大なことが起きたかのようだった。
「は?何言ってんだよ」
オットーは体を起こす。
ダイケは正面に立った。
「オットー、今すぐ動く。水晶玉を奪いに行くぞ。もう休んでる余裕はない。俺を信じろ。狙うのは弱い奴、油断してる奴だ。今すぐやる。お前のプライドとか関係ない。やらなきゃ終わりだ」
「は!?どうしたんだよお前!なんでそんなにキレてんだよ!仲間だろ俺たち!」
「仲間だ。でも、従わなきゃ何も得られない。分かれよ」
オットーは立ち上がる。声も強くなる。
「なんでお前が正しい前提なんだよ!俺より上だって言いたいのか!?」
ダイケは一瞬、黙った。
「……さっきは悪かった。でも事実だ。この試験で一番正しい判断をしてきたのは俺だ。俺がいなきゃ、もう落ちてた。お前のやり方も試した。でもダメだった。今度は俺に従え」
少し落ち着いた声だった。
「……わ、分かったよ。好きにしろ」
オットーは不安げに答える。
「じゃあついてこい。タルモはできるだけ隠せ。俺はまだ完璧じゃない。見つかる可能性はある」
「……ああ」
「慎重にな」
ダイケは歩き出す。
「どこ行くんだよ」
「スタート地点の近く。地形を読んでない奴がいるはずだ」
小声で答えた。
二人は静かに進む。タルモを抑え、言葉はない。張り詰めた空気だけが続く。
「……いる」
ダイケが小さく言う。
「で?どうすんだよ」
オットーは少し皮肉っぽく返した。
ダイケは無視する。
「今の状態で、どっちが速いと思う?」
「……俺だろ。もうだいぶ回復してる」
ダイケはそのまま近づく。
姿が見える距離に来たとき、囁いた。
「水晶玉があるか確認しろ。タルモを使え。できるだけ速く」
(寝てる二人を狙うとか……ダサすぎだろ)
オットーは内心で思うが、動き出す。
緊張で体がこわばる。
一人目を確認――何もない。
そのとき、相手が少し動いた。
息が止まる。
だが、ただ寝返りを打っただけだった。
オットーはすぐにもう一人へ。
――あった。
水晶玉を持っている。
やり方には納得していない。それでも、ほんの一瞬、安堵した。
ダイケの元へ戻る。
ダイケはわずかに満足げだった。
「よし、離れるぞ。気づかれる前に」
誰も何も言わない。視線すら交わさない。
残りは、あと二つ。
再び探索する。
今度は完全に眠っている二人を見つけた。
同じ手を使う。
だが、何も持っていなかった。
そのまま二人は動き続ける。大きなトラブルはない。
少し離れた場所――テントの中。
一人の男が砂時計をひっくり返した。
「30分経過。もう一組、排除しろ」
部下に命じる。
「ボス、すでに10組が他の組にやられて、8組が30分ルールで脱落しています。まだ4時間しか経っていません。このままだと、今年の合格者はかなり少なくなります」
部下が言う。
「そうだな。だが、それはお前の関知することじゃない。黙って仕事をしろ」
「……はい」
ダイケとオットー。
すでに脱落していてもおかしくなかった。
ただ運だけで生き残っている。
――その運は、最後まで持つのか。




