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第一部『エピローグ』

 シールを生き返らせるという旅が終わって、そろそろ半年が過ぎようとしていた。二年半前――ではなく、三年前の別れと出会いから始まった『茨道』は、振り返ればいつも近くに誰かがいた。

 ニオがいて、アリスがいて、サーラルもいた。そのニオがいなくなってしまったからか、シールが子供たちの魂を連れていったからか、もう血を操ることなんてできない。普通の人間に戻っていた。


「ほら、手を動かす!」

「はいはい」


 旅が終わっても帰る場所なんてなかったので、アリスが治めることになったバニスで雑用の日々を送っていた。

 もちろん、アリスとは結ばれた。あれだけやって喧嘩別れしましたでは、シールにもニオにも合わせる顔がない。


 ということで、エルフと人間の共存の象徴――なんて言ったら仰々しいが、とにかく、カイムとアリスの関係は公になっている。


 と、バニスをロスタインが正式に街として領地とするまでの作業道具を運んでいたら、曲がり角で誰かとぶつかってしまった。可愛らしい声で倒れた主は、すぐに立ち上がって手を差し伸べてきた。


「すいません、まだ頭がポォッーとしていて……」

「気にすんなよ、サーラル」

「なんでしょう、やはりあなたから名前を呼ばれると、胸がチクリと痛むのは……」

「記憶喪失なんだろ? 俺のそっくりさんを知ってるとかだろ」


 サーラルはすべてが終わったあの場で目を覚ますと、記憶をほとんど失っていた。体に染みついた魔術も少しずつ思い出して使える程度だ。

 都合よく記憶をなくしてくれたのは、シールの思いやりではないかと思うことがある。背中や手首に会った傷もすっかり治っており、その顔に分厚い雲が掛ることはもうない。


 サーラルも、突き詰めてしまえば愛してほしかっただけ。スティーリアから虐待を受け、愛人との子供だと蔑まれてきたが故の歪んだ感情がなくなったサーラルを、カイムもアリスも受け入れた。


 とはいえ、普通の人間に戻ってしまったことで、今までの不死身とも呼べる体とのギャップに戸惑うこともある。今や、心臓を貫かれなくても簡単に死ぬのだから。黒い血を操る能力もなくなり、時折、ニオのことを思い返す。

 救い、力を与え、知恵を貸し、共に歩んでくれた相棒のこと。決して忘れてはならないと心に誓っているが、やはり会えないというのは寂しい。



「アンタに手紙来てるわよ」


 そんな日々のある日、ハイランドからクラッドの手紙が届いた。あの後、傷を治してからハイランドへ戻ったクラッドは、スティーリアによって侵略された国の再興に力を尽くし、一度離婚するはずだったサスーリカと関係を切らずにいた。


 独立を貫いてきたハイランドをロスタインの従属国にするのにあたり、帝王の座を駆け上がっているサスーリカという存在は大きいのだろう。

 手紙の内容は、そういったカイムには送られてきても困る政治のことばかり。あれだけ恨んでいた相手からこんな手紙を貰うだなんて信じられないが、殴り合った瞬間のことを思い出すと、悪い気はしなかった。


「しっかし、退屈だ」


 バニスを完成させるのに、別にカイムの力は必要ではない。ただの人間であるカイムに、エルフのような器用さも魔術が使えるということもなく、正直旅の日々が懐かしい。


「旅には出れるんだが、やっぱりなんの力もなしじゃな」


 我流剣術はあるが、今までと違い、折れたらもう一本作れるわけではない。

 それが出来たら、バニスの完成を見届けてから旅に出てもいいかと思っている。

 だからふと、手首に意識を集中させてみたら――


「あ?」


 黒くはないが、赤い血が出てきた。前のように操れて、同時に『あの感覚』が蘇る。


「まさか……いや、まさかな」


 バニスから見て血の祭壇のある方を見やる。まさか、ニオが生きているなんて、流石にあり得ないだろうが……この力は、リャナンシーと契約しなければ使えないものだ。


「――生きてるんなら、いつか会えるか」


 死んでいたら、子供たちとシールの待つ天の国で会えばいいだけ。そう割り切って、雑用に戻った。

 ここまで読んでくださりありがとうございました。シールを生き返らせるための旅が終わった――という意味で、一つの区切りとさせていただぎす。

 二章、三章の構想もできていますので、長く付き合っていただけると幸いです。

 ですが感想とレビューはとにかく募集してます!

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