ヤンデレ魔女VS薄氷を渡る者
決闘当日。サーラルがこのまま旅についてくるかどうかが決まる広場に、ハーフエルフたちは詰めかけていた。
ここには話に聞くだけの闘技場なんてものはない。そもそも造り途中、発展途中であり、尚且つエルフのために用意されているような街なので、木製の建物ばかりだ。
「ダメね。ここで火炎魔術は使わせてあげられない」
「そう、ですか」
余計な物を取っ払った広場で、サーラルとサスーリカを交えて最後の調整が行われている。アリスはエルフ代表として、ニオも精霊としての意見を求められて参列している。遠巻きから見ているだけのカイムは、「ぬぅ……」と唸るばかりだ。
「おい、なんとか火炎魔術使えるように出来ねぇのか」
「無理を仰らないでください。この街にはレンガ造りの建物はなく、風が吹き抜ける構造をしています。ちょっとしたことで炎は広がり、収拾がつかなくなります」
「お前たちエルフは魔術が得意なんだろ? 水で消すなり風で遮るなり、やり方はねぇのかよ」
「この街へ迫る嫌な感覚の調査と見張りに人員を割いていますから。本当なら、総出で警備にあたりたいところを無理しているのです。いくらハイエルフ様のお仲間といえ、これ以上の譲歩は不可能です」
カイムへ付いているハーフエルフは、この事態そのものを迷惑に感じている。アリスの前ならともかく、カイム一人に対していちいち気を使うこともないのか、「面倒です」と今にも言いだしそうだ。ニオとの契約者であることも知られていないため、「このガサツな人間はなんなのか」。そういった見方をされている。
そのカイムへ向けて、アリスが来るように呼んだ。カイム自身も自分になにができるのかわかっていないので、周りのハ―フエルフと同じように頭へクエスチョンマークを浮かべて行けば、「妥協案」と、アリスが言う。
「どうやっても火炎魔術は使えないの。でも、サスーリカ王女は『薄氷を渡る者』の異名を持つほどに氷魔術に精通してる。ハッキリ言って、火炎魔術抜きだとフェアじゃない。ってことで、物は相談なんだけど……」
チラッと目を向けたアリスへ、サーラルは困惑しながら、サスーリカはやれやれといった具合に腕を組んでいる。
「決闘の間、好きなタイミングで『五分間』だけ、アンタとサーラルが交代できる。もしもサーラルがそれを決定する前にやられたら、アンタには五分間延長戦をしてもらう。代わってからそのまま倒しちゃってもいいし、アンタが負けてもサーラルの負けにはならない。どうかしら」
「どうって、そりゃお前、構わねぇが……めっちゃ見られてるぞ」
王族相手に、あの浮浪者まがいが代わってどうなるというのか。ひそひそと話す声も聞こえる。
「別に隠すことでもないでしょ? それにアンタなら、万が一の場合の心配をしなくて済むしね」
「じゃな。クラッドから聞いた話じゃと、なんでもぬし、心臓を貫いても死なぬそうじゃしのう。下手な『加減』をせんで済む」
あからさまに強調した言葉に、サーラルはなにも言い返せない。それだけサスーリカは強いのだろう。しかし、カイムへは思うところがあったようだ。
「私、迷惑かけてばかりで……昨日の朝も、私……」
おかしくなっていたことを悔いている。あのまま元のサーラルへ戻らなかったらどうしようかと危惧していたが――杞憂だったようだ。
これで、本当に申し訳ない気持ちを伝えられる。
「気にすんなよ。今は目の前の問題だけ考えてろ」
「カイム様……」
「様はいらねぇ――様呼びも、今回までだろうがな」
とりあえず、決まった。箒を持ったサーラルと丸腰のサスーリカは広場の両端へ距離を取ってから、万が一の場合、すぐ回復魔術が施せるようにハーフエルフたちも配置につくと、アリスが声を張り上げた。
「エルフを代表して、ここに正式な決闘の開始を宣言します!」
言うが否や、サーラルは箒に乗って空へと登った。容赦のない落雷をサスーリカへ叩きつけたが、
「少しは成長したようじゃな」
破裂音にも似た落雷は、一瞬でサスーリカを囲うように創られた氷によって防がれた。
「まだ……!」
飛び回り、風の魔術で強風を起こして竜巻とする。しかし、サスーリカは繭のように氷で身を囲うと、風が過ぎ去るまで一歩も動かなかった。
「ほれほれ、そんなに遠くからでは魔術も威力が減るじゃろう。近づいたらどうじゃ?」
「そんな誘いには乗りません!」
未だ空にいるサーラルは、次いで氷塊の混じった水を滝の如く降り注ぐ。「わっちに氷で挑むのかや」。余裕顔のサスーリカは、氷はそのままに、水は自らを囲う氷へと変化させる。
そこで、ようやくサーラルが急降下していった。
「氷じゃ勝てません! ですが、氷ならあなたは決して避けない! そこが隙です!」
「む……? ほう、この水は――考えたの」
身を囲んでいた氷へサーラルの水が降りかかると、水滴一粒まで地面へ枝を伸ばすように伸びていき、サスーリカの動きを封じた。
「あなたに勝つには、あなたの余裕があるうちです! 私の攻撃に対し、避けるまでもないと動かない今こそ、私に勝機が来る!」
真っ直ぐ落ちていったサーラルは、身動きの取れないサスーリカへ落雷と共に突っ込んでいく。あのまま動くことのできないサスーリカへ落雷を浴びせて、近距離で魔術を使えば――
なんて希望は、あっけなく打ち砕かれた。
「ほれ」
氷がサスーリカの手元で銀色の剣の形になると、一振りで囲んでいる氷を含めて斬り砕き、落ちてくるサーラルを剣の腹で叩きつけた。
「ッ!」
ギリギリで風の魔術により剣を押し返そうとしたサーラルだが、サスーリカが両手で握ると、抵抗する風ごと吹っ飛ばした。
サーラルは地面に打ち付けられ、何回転もしながら広場の端を超え、家屋へ激突した。
「ま、だ……」
吐血した血を拭い、サーラルは崩れ始めた木の中から箒で飛び立つ。だが、よろよろのサーラルは、サスーリカの元へたどり着くことも叶わず、箒のコントロールもできなくなり、落ちた。
「おぬしの負けじゃよ、サーラル。わかっておったろう? わっちには勝てないと」
地に付したサーラルへ歩み寄るサスーリカだが、「まだ……!」と立ち上がろうとする。
「カイム様との、旅――守ってくれる人との、優しい世界……嫌だ。私は……また、スティーリア兄様の好きなようには――!」
「サーラルよ、その件なんじゃが……」
「うるさいです! ロスタインの未来ばかり見て、血の繋がる私を見捨てたあなたの言葉など、カイム様に比べたら……」
抵抗しようとするサーラルヘ、アリスが「そこまでよ」と声を上げる。
「全身傷だらけじゃない。下手したら骨折してるかもしれないわね。とっととあの馬鹿に変わってもらいなさい」
「ですが、これ以上迷惑を……」
「馬鹿だからどうせ忘れてるわよ。そうよね、カイム」
端からニオを連れて、カイムは頭を掻きながら「馬鹿馬鹿うるせぇよ」と、サーラルに寄り添った。
「こういうやり方じゃねぇと恩の一つも返せねぇからな。あとは任せろ」
「カイム、様……」
「ハーフエルフども、サーラルは頼んだ。俺はこの王女様と戦ってやる」
「戦ってやる、とな。いやはや、よほどの自信じゃな」
「今のあんた程じゃねぇがな」




