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第二次サイバー世界大戦  作者: 柏倉


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第13章 それぞれの結末(1)

 走る門倉。許された速度で。

 壊す真田。世界を護るために。

 見据える児玉。己が出番を渇望し。

 喋る星野。他人事のように。

 怒る野本。説明を求めて。

 食べる香奈。美味しそうに。

 食べる綾。申し訳なさそうに。

 笑う三枚堂。実に愉快そうに。

 苦悩する佐瀬。今後の対応に。


「どうだ?」

 真田の問いに、ディスプレイを引きずり出した痕を丹念に調べていた児玉が答える。

「ディスプレイの裏っ側、何もないじゃん」

「ケーブルはあるぜ」

「画面出力用のケーブルがあってもダメじゃん。入力したいんだよ」

「ディスプレイとディスプレイの間にあったレーザーデバイスっていうヤツのケーブルはどうなんだ」

 引き出したディスプレイの下にあるレーザーデバイスを、体全体を使って引き出してから真田が質問した。

「それだって出力デバイスじゃん」

 第二統合情報処理研究所の監査ルームは中々に酷い有様になっていた。門倉が用意したダイプロを防御でなく攻撃に転用したからだ。

 真田はダイプロ・アームを拳に巻き付けディスプレイを殴り、インナー・ダイプロを無理やり脚に付け壁を蹴ったのだ。

「ダメか・・・。他のディスプレイも割ってみるか? それとも踊ってみるか?」

「電源スイッチの入るポーズがあるとでも?」

「ないだろうなぁー。もう一度最初っから考えようぜ」

 そもそも真っ平なテーブル上に、端末装置の起動スイッチはない。テーブルの下は、ただの空間になっていて、あるのは空気だけ。

 テーブルの下の突き当りの壁は、真田の所為でボコボコになっていた。

 二人してテーブルの上に腰掛けながらディスプレイを睨み、端末の使用方法を検討している。

 その時、突然ディスプレイが何の前触れもなく目映い光を放った。

「ぐあっ・・・なんでだ。ポーズか?」

「目がぁ・・・」

『お待たせしたね、真田君、児玉君。とりあえず破壊活動はストップしてくれ。闇落ちAIはネットワークから切り離したから、もう大丈夫さ』

 走り終わった門倉が通信を開始したのだ。

「どういうことだ門倉さん?」

 剣呑な声色で問いかけた真田だが、目を瞑っていて、ディスプレイに無駄に大きく映っている門倉とはまるで違う方向に顔を向けている。

「アクセス出来ないじゃん。僕を騙したん―――」

『違う。これは闇落ちしたAIを無力化する作戦だったんだよね。君たちの役目は囮役。いうなれば共同作業ってところさ』

「そんなん納得いく訳ないじゃん!!! とにかく端末装置を使わせろ。僕が闇落ちAIの量子コンピューターをシャットダウンしてみせる」

『せっかくネットワークから切り離して無力化したのに、ネットワークに再接続するわけないよね。そんなリスクを負う必要はないし、意味もない。いいかい、ハンドルネーム”バンドルワン”の児玉孝一君。これ以上の破壊活動は容認できない。岡山土産を買って帰ってくるんだ。食事はホテルのルームサービスにするからデザート5人分、日持ちするお土産も必要だよ。これはキミ達のセンスが試されているのさ』

「バンドルワンって、なんだ?」

 孝一の表情が引き攣った。

「・・・ノーコメント」

『いま監査室預かりになってるからさ、ハッキングセンスを発揮するんじゃなく、大人しくお土産のセンスを発揮するんだね』

「バンドルワンって?」

「真田さん以上にセンスはある」

『そうか。真田君にアドバイスしよう。お土産は新岡様駅構内より、途中下車した方がいい』

「それよりバンド―――」

「帰ったら今回の作戦と経緯を、すべて説明してください! 絶対ですからね! 説明なしじゃ納得できない」

「バンド―――」

『できる限りだね。端末はもう電源入れても良いよ。それじゃ』

 真田の疑問は2人に最後まで無視された。


 所長室に星野と野本2人だけが残った。

 小林は門倉から預かった証拠保全用のメディアを持って、総務部の機密品管理金庫に向かった。

「・・・ということで、カドくんと第二次サイバー世界大戦を未然に防いだんだー。流石オレ。流石カドくん」

 今日の出来事のダイジェスト版を星野は野本に話し終えた。

「三枚堂さんと一般人を巻き込んでか?」

「まあまあ、三枚堂さんはノリノリみたいだし、児玉君はバンドルワンだし。いいんじゃないか」

 星野が喋る。他人事のように。

「いい訳あるか!」

「いやいや、仕方ないなー。児玉君は第二次サイバー世界大戦の兆候を掴んだとか言って、伝手を使い監査室を巻き込んだ。有森は闇落ちAIを使い児玉君たちを亡き者にしようとした。それなら三枚堂さんの出番じゃないか」

「そんな訳あるか! ちゃんと理由を説明しろ」

 怒る野本。説明を求めて。

 仕方なく、星野はもう少し詳しく話すことにする。ただ、あまり話し過ぎると、今後も巻き込まざるを得ない。

 今回の件で有森一派は処分できる。その他は?

 この件に、もう関わっているのはいないか?

 うんうん。よし、巻き込もう。

 味方は多い方が良いしな。

 とりあえず、ざっくり話そう。

「うーーーん。オレたちは慎重に事を運んでたんだけどな。バンドルワンが不用意にハッキングセンターで第二次サイバー世界大戦とか、いくつかのダークネットワークが量子計算情報処理省AIの支配下にあるとか言ったから、闇落ちAIに発見されてな。有森が闇落ちAIに児玉君の排除を命令したらしいな。そこで予定変更。巧遅を捨て拙速を尊んだ。この機に乗じて闇落ちAIを確保し、有森一派を捕らえようとしたんだなー。ただ闇落ちAIを見つけるには囮役が必要で。囮の安全を確保するのに三枚堂さんが必要だったと」

「三枚堂さんがいると囮が安全になるって理屈が分からん」

「三枚堂さんは陸上自衛隊サイバー作戦隊を率いてるからなー」

「はっ? 陸自?」

「そうそう」

「おまえ、陸自まで巻き込んだんか?」

「いやいや。オレじゃなく、カドくんがな」

 野本は天を仰ぎ、聞くんじゃなかったと・・・。

「三枚堂さんは実弾演習だって喜んでたらしい」

「実弾? 聞きたくない!」

「そうそう。佐瀬からは、200人以上のソルジャーが参加してるってメールが来てたなー。対ドローン兵器が活躍―――」

「待て。施設課の課長としては破壊された監査ルームの修繕費用の相談が―――」

「監査ルームの管理元はカドくんの監査室だから、ウチには関係ないな。それでな、レーザー兵器の威力が―――」

「待っっったーーー。カドくんが切断した量子コンピューターのケーブルを新しくする費用が―――」

「所長直轄の予備費から払おうかなー。それでな、ソルジャーは後ろに倒れない。前に倒れたと言って―――」

「もういい。もういいから」

「うんうん。説明しよう。三枚堂さん率いるサイバー作戦隊とは―――」

 星野と野本の押し問答がしばらく続いた。

 しかし星野はすべてを野本に説明した。

 門倉が所長室に戻った時、星野は満足気な表情を浮べており、野本は悄然と肩を落としていた。


 食べる香奈。美味しそうに。

「美味しいね~」

 ホテルのリビング。

 テーブルの上に複数のケーキが並んでいて、香奈の前には既に空になった皿が3枚置いてあった。

「こんなに食べても良いのですか?」

 食べる綾。申し訳なさそうに。

「問題ありません! なんせ経費だからね~」

「でも、経費の使い過ぎとか? 公務員倫理とか? ホントーに大丈夫ですか?」

「ホントーに大丈夫だよ~。だって、私たちは第二次サイバー世界大戦を止めるため、ここで作業してるんだよ。もし山咲が経費で落とせないって言ったら、監査室室長に直談判しに行くからねっ! まあ、第二次サイバー世界大戦を止めた成果も渡さないためにも、監査室室長に直談判しに行くけどね~。ほら食べて食べて、ねっ。それと、孝ちゃんとの惚気話を聞くよ~。い~~~っぱい聞くからね~」

「あの、その・・・お手柔らかに」

「え~。どう、しよっかな~・・・うん?」

「どうしたんですか?」

「門倉さんからメールがきてるね。ちょっと待って」

 コネクト経由でウェアラブルPCに届いたメールを香奈は確認した。

 中央統合情報処理研究所内から、基本的に外部と通信できないのだが、所長室など幾つかの場所に量子計算情報処理省のサーバーと繋がっている端末がある。門倉はそこからメール用サーバーに接続し香奈にメールしたのだ。

 香奈は人差し指を顎につけ、あざとく悩んでいる。

「う~ん・・・」

 不安そうな表情を浮かべ、綾は恐る恐る香奈に尋ねる。

「孝一に何かあったんですか? もしかしてケガとか・・・」

「重大な決断をしないとね~」

「真田さんには悪いですけど、孝一の身の安全を優先してください。香奈さんの従弟でもあるし、仕事でもないのに第二次サイバー世界大戦を防ごうとしたんです」

 泣きそうな顔でお願いする綾。

 ドローンや1輪EVに襲撃された記憶が残っているからか、綾は悲観的に考えていた。いくら真田が護衛役として帯同しても、AIからは逃れられないのではないか?

「孝一を助けてください。香奈さん」

「食後のデザート・・・どれにしようか~」

「どういうことです?」

「これから帰るから、岡山土産何を頼もうかな~って。ほら、昼に調べたら色々美味しそうなのあったでしょ。食後のデザートは3つにまで絞れたけど・・・悩むよね~」

「孝一は無事なんですよね?」

「監査ルームは無事じゃないらしいけど」

「孝一は?」

「2人は大丈夫らしいよ」

「全部で!」

 先に無事を知らせてほしかったとか、無事でよかったとか、色々な感情とかを吹っ切らせるよう思いっきり主張した。

「んっ?」

「全部で!」

「そんなに食べられないよね?」

「食べ切れなかったら明日の朝に回せばいいじゃん!」

 香奈に対する綾の口調が、ぞんざいな感じになっていた。相手は大人だから、孝一の従弟だからと、一々気を遣うのが馬鹿らしくなったのだ。

「・・・ん~。そうだね~。デザートもお土産も全部買ってきてもらおうか。2人にメールしとくね~」


 市ヶ谷のCICでは、壁面ディスプレイに本日の実弾演習の映像ダイジェストを流していた。

「はははははーーーー。愉快愉快」

 笑う三枚堂。実に愉快そうに。

「わいは、一体どんだけあちこちと調整せねばならんのか・・・調整・・・調整? 違うか・・・お願いと脅しと泣き落としと・・・」

 苦悩する佐瀬。今後の対応に。

「佐瀬よ」

「はぁーーー。まだあんのかー。・・・なんでしょう?」

 事後処理量の多さに辟易し、嫌々ながら質問した。

「中央統合情報処理研究所で今日の成果を共有するぞ。所員を集めよ」

「はっ?」

「もみ消すのを協力してやろうと言っておるのだ」

「いや、どうして所員への成果発表がもみ消しの手伝いになると?」

「察しが悪い!」

「成果の共有がどうして協力になると?」

「陸上自衛隊のサイバー作戦隊まで動員して闇落ちAIを止めた。その事実を共有すれば、所員全員が味方になる。所員には量子計算情報処理省の上層部に伝手のある連中がいるだろ? そいつらが説得に一役買ってくれる」

「うーん・・・」

 協力にはなるかも知れないが、成果物は防衛省の機密。しかもトップシークレットになるはずで、それを量子計算情報処理省に提供しても良いのか?

 提供してくれるゆうんなら構わんが・・・。

「西川! いつ完成する?」

 悩んでいる佐瀬を放っておき、三枚堂は近くに控えていた西川に問うた。

「1週間ほど頂ければ提供しても良い映像の精査は完了できます」

「編集も含めると?」

「解説音声とBGMは必要でしょうか?」

「当然だな。効果音と視覚効果も忘れるな!」

「了解しました。合計2週間で完成させます」

「んんんん?・・・なあ、西川。必要か?」

 佐瀬は声を潜め、いつの間にか隣にきていた西川に訊いたが、答えたのは三枚堂だった。

「必要だ。説得力が違う。何よりソルジャーの活躍をカッコよく魅せねばならん!」

 絶対に最後が理由だろ!

 心の中でツッコミを入れた佐瀬は、忠告などは無駄だと、色々諦めた。

「タイトルは良い感じのを今日中に指示するが、サブタイトルは決まっている」

「何でしょうか?」

「ソルジャーは後ろに倒れない。前に倒れた、だ」

「確かにあの名言はサブタイトルに相応しいです。了解しました」

「うむ。という訳で佐瀬。中央統合情報処理研究所の2週間後に所員を集めよ。説明開始は1000(ひとまるまるまる)。説明時間は1時間。質疑応答1時間の予定2時間の枠を用意しておけ」

 黙って成り行きを聞いていた大野陸将補が口を挟んできた。

「三枚堂閣下。陸上自衛隊のサイバー作戦隊の業務内容は機密。その実弾演習の内容はトップシークレットです。機密情報開示の調整が必要となります。それも省庁間での」

「それも必要だな。機密情報開示の調整も頼んだ。良いか、2週間後までにだぞ!」

 防衛省内でも機密情報開示の調整が必要なのに、別の省への機密情報開示・・・。

 今日何度目かの絶望の表情を浮かべながら、自分の隣に西川に視線を移す。

 西川なりにフォローをしようと、佐瀬に耳打ちできる距離に来ていたのだが・・・。

「ガンバれ」

 西川は、中身のない応援の言葉しか声をかけられなかった。


 真田と孝一が第二統合情報処理研究所のダミー会社の事務所に戻ると、2人はコネクトなどの電子機器の電源を入れる。

 真田はタクシーを手配し、これで帰りは迷子にならないと安堵したが、問題はそこじゃない。とりあえず品川に帰るのが優先なので、帰りの電車の時刻を確認していると香奈ちゃんからメールが届いた。

 どんな情報が記載されているかドキドキしながらメールを開く。

 驚いたことに、そこには欲しいお土産の一覧が記載されていたのだ。

 そして最後の一文でガッカリが増した。

 ”門倉さんが今回の件を夜に説明してくれるから、今日の夕飯もホテルのルームサービスを頼んで良いって! しかも明日の朝食も!! やったね!!!”

 労いの言葉もない文面を見て、真田は露骨にガッカリした表情を浮かべ、メールを児玉君に転送し見るように促した。

「タクシーを呼んだ。さっさと帰ろうぜ」

「お土産は?」

 何処で買うのか、という意図の質問だろうが、オレの回答はシンプルだ。

「買わない」

「真田さん、そんなんじゃモテない。お土産ぐらい買っていけばイイじゃん」

「余計なお世話だぜ。それに時間が勿体ない」

「一覧があるんだから、そんなに時間もかかんないじゃん。自分は買ってくよ。自分だけお土産買っていって、真田さんが買っていかないと、香奈ネーからの真田さんの評価はダダ下がりになんじゃん。イイの?」

「別に香奈ちゃんからの評価は気にならないな」

 ホントは少し気になる。しかし孝一君に見透かされるのは気に食わない。だから否定した。

「香奈ネーからの評価が下がるということは、周囲の女性からの評価も下がるじゃん。女性の情報網は怖いんだよ。お土産ぐらいで周囲の女性からの評価を下げるのは馬鹿馬鹿しいじゃん」

「・・・そうだな。新岡山の駅構内で買っていくか」

「それじゃ、荷物持ちは半々、会計は割勘で!」

「ああ、ホント香奈ちゃんとお前は従姉弟同士だよな。すっげー腑に落ちたぜ」

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