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第21話:覗きは目を抉る

 フィーネはユニコーンや他の生き物が入れず、なおかつ外部から内部が見えないように魔力の障壁を設ける。光の壁は湖の岸と水面のごく一部を周囲から隔絶した。


 用意が済み、淡い金色の光の壁に遮断された湖の畔で二人は特に躊躇わず服を脱ぐ。


「最後にフィーと一緒にお風呂入ったの、いつだっけ」


「舟が完成するちょっと前かな。ほら、あの火山のそばの温泉」


「ああ、思い出した……あの辺り、徹夜続きで記憶がぼんやりしているのよね……」


 少女が野外で一糸纏わぬと表現するとやや倒錯的な行いに思えるが、旅をしている間、必ずしも一日の間に人里に辿り着けるとは限らない。


 そういった時に魔法を用いるか現地の水場を利用するかはともかく、沐浴を行うのは旅人としては自然な行いであり、清潔さを保つためにアニエスがそれを欠かした事は無い。


 今回のように、やや過剰にすら思える程度に衝立を用意したがる傾向はあったが。


「……あの駄馬共、まだいる。障壁を越えようとして来る前に目を抉り出してやろうかしら」


「そんなことばっかり言ってるからアニエスは魔女って呼ばれちゃうんだよ」


「別にどうでもいい。それにどうせ群衆は印象で物事を決めつけるんだから、日頃の行いなんて大して関係無いでしょ」


「その印象を決めるのは日頃の行いだと思うけど」


「じゃあフィーが御子(みこ)様とか崇められていたのは?」


「あれは呼ぶ側の都合でしょ? アニエスがボクと初めて会った時と同じだよ」


「…………あっそう。私をあの連中と一緒にするんだ」


「またすぐそうやって拗ねるー」


「拗ねてない」


「ごめんってば~」


「……ふん」


 軽い調子の謝罪をしながら、さっさと裸になったフィーネがアニエスの腕に組みつく。


 下着を外す途中だったアニエスは邪魔された格好になるが、まんざらでもなさそうだった。


「あれ?」


 不意に。フィーネは肘の辺りの感触が気になり、組んだ腕を離して視線を下に切る。


 具体的には、アニエスの胸元に。


 フィーネに少し遅れて衣服を全て脱いだアニエスは、ばつが悪そうにする。


「なによ」

「別にー」

「言って」

「怒らない?」

「内容次第」

「前よりお胸が大きくなったな~って思っただけ」

「怒るわよ」

「だから言わなかったのにー」

「言わないでも目線でわかってたわよっ!」


 アニエスの身体的特徴を端的に述べるならば、少女と成人女性の中間だ。


 フィーネが気にした程度に胸が大きいが、全体として非常に整っており瑞々しい。


 体つきが綺麗なのは彼女が生まれつき容姿に恵まれていた事が理由の大部分だが、自身の体調を整える魔法を使用している副作用でもある。


 なお、胸の膨らみは天然の成長だった。


「アニエスも見た目は大人の女性って感じになってきたよね」


「馬鹿にしてるの?」


「綺麗になったねって褒めてるつもりなんだけどなー」


 フィーネは嘘をつかない。よってこの言葉は彼女の本音だが、どうにも軽い。


 自分の裸体を雑に品評されたアニエスは、友人に対して相応の仕返しをする。


「……私よりフィーの方がよっぽど綺麗でしょ。それこそ、胸とかどうでもよくなるくらい」


「んー?」


 一方。フィーネの身体的特徴を端的に述べるならば、彼女の体は整い過ぎていた。


 胸の大きさこそアニエスに分があるが、造形としての美しさでは整った容貌を持っている自覚のある彼女も自分ではまるで及ばないと感じるほどに。


「そこは好み次第じゃないかな。まあ、どうでもいいんだけど」


 言葉通り、フィーネは自分の容姿が他人にどう見えるかを気にしていない。


 アニエスの胸が大きくなっただの綺麗になっただのという言葉も、ただ思った事を口にしただけだ。


 フィーネにとって姿形の美醜に価値は無い。


 自分が美しい容姿をしている認識はあるが、執着を抱いていない。朝目が覚めて突然顔が爛れていたとしても、気に留めないだろう。


 そんな精神性だからなのか。彼女の体を仮に彫像として再現しようとした場合、造り物の方が見劣りしかねない。


 フィーネの体は人型の生命におけるこの年齢の女性として、一つの完成系のように感じられる何かを有していた。


 それを今まで誰よりも意識してきたアニエスは、こう思う。



(…………それなら、私はフィーの方が好き)



 無論、その想いは口に出さず、内に秘めたまま。

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