機械人形と旅立ちの朝
「よいしょ……っと」
僕は手頃な瓦礫を地面に突きたてて、小さく息をした。
「次は名前、と」
既に小石は手にしてある。
膝を折り曲げて地面に座り、鼻歌まじりにガリガリと瓦礫を削っていると、横から小さな鳴き声が聞こえた。キャメラントだ。暇そうに長い鼻をぷらぷらとさせている。
「ちょっと待って。すぐに終わるから」
ガリガリ、ガリガリ。
何度も何度も瓦礫に傷をつけて、ようやく完成する。
隣にある墓石を横目に見やって比べてみた。
うん、僕の方が字は上手いな。
「約束、ちゃんと果たしたかんな」
僕の正面の瓦礫には、丁寧な文字で『ゲンジロウ』と刻まれている。
コバタの畑を見守るように並べられた、二つの小さな墓。
僕は疲れたという風に首に手を当てて、キャメラントを見やった。
コバタ畑の草が、そよ風に撫でられた。波のように草々はざわめいていく。
僕は彼が眠る墓に優しく語りかける。
「酒さ、今度作りに来るから」
僕はまた、旅に出ることを決意していた。
今度は死ぬ為の旅じゃない。
横に置いていた信号棒を振って、キャメラントを近づけさせる。
垂れた鼻が足元まで伸びてきたので、左足をそっと上に乗せる。鼻は軽々と僕を持ち上げて、視線は上へ上へと上昇していく。
充分に達したところで、僕はキャメラントの首へ飛び乗った。
肌触りの悪い感覚と座り心地はもう慣れた。少し冷えた大きな首筋を指でなぞって、僕は信号棒を振るう。
キャメラントはゆったりと踵を返して、墓へ背を向けて歩き出した。
行先はまだ決めていない。
「どこ行こうか、キャメラント」
僕は語りかけるけれど、キャメラントは何も返事せぬまま愚直に歩いていく。
「そうだ。お前も名前決めようか」
腕を組んで、短く唸った。
「ジローってどう?」
機器生物は小さく鳴いた。
「お? 気に入った?」
太い首をくすぐってやる。
キャメラント――ジローは優しく鼻を持ち上げて、僕の手に触れた。
「まぁ、もう少し生きてみようか。ジロー」
僕とジローは歩いていく。
行先はどこかわからないし、誰とも会わないかもしれないけれど。
まぁ、それが人間らしいってことかもしれないし。
いつかは、死ぬんだからもう少しだけ生きてみようか。人間らしさという言葉は、その時まで保留にしておいてみてもいいかな、なんて。そう思えた。




