蛇足=金龍≠主人公
蛇の絵を描いた話を知っているだろうか。暇を持て余して足をつけたした故事である。
もしお題が龍であったなら問題はなかっただろうに、蛇に拘る余り認められなかった絵の話を。
それ以来、余計なことをするのは蛇足と言われてしまう。これはそんな蛇足に繋がる終わり。
皆川万結はスキップしながら祖母の葉桜哉子の前を進んでいた。
今日は念願のアンドールを買ってもらうことになったのだ。瀬戸海里のようにフラッグウォーズで活躍する自分を頭の中に描く。
デバイスは子供達が持つ携帯電話のようなもので、アンドールはそれに付属するぬいぐるみのようなロボットである。
揺れる桃色のカメラはすでに皆川万結の体の一部のように馴染んでいた。そのレンズが向こう側から歩いてくる少年を映す。
母親と手は繋いでいるものの、父親のような男性には手すら伸ばさないどころが拒絶しているように見える。
鞄についているネームプレートにはHAJIME HIKAWAと書かれていたが、HIKAWAの字はマジックで消されて見えない。
上から塗りつぶすようにYOMIと書かれた跡があるが、尖った物でひっかかれた傷がある。
そんなことに気付かないまま皆川万結は自分と同い年の少年が通り過ぎるのを視界に捉えて、瞬きをした。
しかし写真が空から降ることはなく、少年に確定された百%の未来がないことが証明された。
皆川万結はすぐにすれ違っただけの少年のことなど忘れて祖母を呼ぶ。少年はすれ違ったことすら知らない。
誰かと繋がる世界で、繋がらない可能性はありふれたように転がっている。だから繋がることは貴重なのだろう。
皆川万結が選んだのは金色の東洋龍。蛇のような体に小さな足をつけたしたような姿だ。
さっそく操作しやすいようにプログラム調整するために、瀬戸海里に頼んでメンテナンス機械の前に連れて行ってもらう。
椅子の形した機械の台の上にUSBケーブル。その端子をアンドールの口内にある接続口に繋げて早速調整しようとした。
しかし画面がブラックアウトし操作不能になる。皆川万結は故障かなと首を傾げたが、瀬戸海里はこの現象に覚えがあった。
始まりはここだった。メンテナンス機械での不調、ケーブルに繋がれたアンドール、そしてインストールされるアニマルデータ。
金色の東洋龍は静かに、自分の意思で、動き出す。そして声を出す、あり得ないはずの言語機能。
<ここは、どこ?世界は終わったはずじゃ、なかったのか?>
しかし目の前で動き出したアンドールは今までのアニマルデータと違い、名前を名乗る前にそう言った。
不完全でも完全なデータでもない反応。流暢な話し方は完全なアニマルデータのようだが、雰囲気が違う。
皆川万結はそんな瀬戸海里の心情に気付かないまま、動き出したアンドールに無邪気なまま話しかける。
「あなたのおなまえは?万結は、皆川万結」
<俺は……狭間進歩、だったと思う……>
アニマルデータ達の特徴は名前がカタカナで表記しやすい名前だ。苗字など名乗ったことがない。
しかし皆川万結のアンドールは確かに日本名、漢字で表現できる苗字もついた名前を告げた。
どこか自信のない様子で金龍は周囲を見回す。まるで自分が知っている物を探すように。
皆川万結は狭間進歩と名乗ったアンドールを腕に抱えて、アユムと呼んだ。そして尋ねる。
「どうしたの?なにをさがしてるの?」
<俺はデータで、消去されたはず……魂のないデータだから、消去はゼロコンマで終わったはずなのに……>
「魂のないデータ?君はアニマルデータじゃないの?」
<違う。俺は……>
そして語られる世界は既に終わった、意味を為さない蛇足の話。
幸せに満ちた一週間の、終末にしか向かわない、逆転しない、主人公のいない、それだけの単純な物語。




