エレクトリカルヒートアップ
神様がいるってんなら、今すぐ目の前に神々しく仰々しく現れてくれよ。
そして土下座してくれよ。アンタが寄越した試練で俺の人生は火傷だらけで炭になっちまったからよ。
皮肉なことに俺を助けてくれたのは頭のいかれた魔法使いさ。それすらも試練ってか?
ならアンタが世界中に振り撒いている幸せを俺達弟子にも与えてくれたら良かったじゃないか。
結局神様なんていないんだろう?だから俺達は今日も最高に不幸なまま明日を迎えるんだろう。
ああそれでも今日のこの出来事だけは感謝してやってもいいぜ。最高に熱くしてくれる兵器を俺に与えてくれたんだからな。
体半分以上の火傷、その上には年齢には似合わないほどの刺青が精緻に彫られている。
手の平だけが火傷しないままコンクリートを溶かして、少年は散歩するように歩いていた。
溶けたコンクリートは液体となって流れて他のコンクリートを溶かし、鉄柱すらも折っていく。
物陰からそれを眺めていた求道哲也は最悪だと思った。なにせライオンの前に最高級の肉を渡した気分なのだから。
いや、正確に言えば最凶兵器の目の前に立ちはだかる最低な悪役を立たせた気分だった。
求道哲也は両手の皺を合わせて合掌しつつ同情する。氷川露木に最大の憐れみをかける。
なにせ豊穣雷冠がコンクリートを溶かして歩いて来た敵に対して目を輝かせ、大量の砂鉄の山を背に仁王立ちしているのだ。
満面の笑みで嬉しそうに豊穣雷冠は倒すべき相手に対し、歓喜した声を上げる。
「お前が弟子だろ?弟子だよな?弟子でいいんだろう?」
「俺の邪魔をしたい奴か?火傷しない内に帰った方が良いぜ」
「あはははははははははははは!そっちこそ、殺される前に魔法使いの下に帰った方がいいんじゃないか?」
笑顔で行われる物騒なやり取り。お互いに目を細めているが、伝わってくる殺気は一般人を硬直させるには十分だ。
アントニオ・セレナは予想通りの凶悪な姿した氷川露木に喜び、凜道都子は言葉のデットボールに顔を青くする。
仁寅律音と求道哲也は冷静なまま事の成り行きを見守る。あの二人の間に入れる豪胆な人物はここにいない。
もしいたとしても、その豪胆はすぐに熱と雷による人智を超えた戦いに吹き飛ばされて役立たずになるのは目に見えていた。
「あははははははは」
「ふっ、くく、ははははは」
「あははははははは、はっ!!」
笑い声を交わしていた矢先、豊穣雷冠は背後にある砂鉄の山を電気で作り上げた磁力で動かし始める。
一つの意思を持った水のような動きで、川のように空中を流れ出し、津波のように氷川露木に襲い掛かる。
手の平では受けきれない質量と判断し、跳躍して避けた直後に着地した地面を熱で溶かしていく。
蛇の動きで追いかける砂鉄の塊は溶けた地面の熱で真っ赤になる。人間が触れたら痛みを凌駕した熱さを感じさせる凶器へと変貌する。
氷川露木は俊敏な動きで砂鉄を避けていきながら、次々に地面を溶かしては砂鉄の熱を上げていく。
砂鉄は地面の熱で次第に形を崩して本当に液体のように一体化し始め、そして空中の気温に触れて冷えていく。
異変を感じ取った豊穣雷冠は一度砂鉄を動かすのを止める。砂だったはずの鉄は、いつの間にか歪な一本の鉄塊へと変貌している。
熱されて溶けた矢先に外気温で冷やされたせいで固まってしまったのだ。これでは自在に動かすのは難しくなる。
その隙に氷川露木は豊穣雷冠に素早く近づき、熱を操る手の平で体に触れようとする。
人体が発火するほどの熱でも、人体が凍りつくほどの冷気でも、氷川露木は熱に関することなら自在に操れる。
ただし手の平限定ではある。だが触れてしまえばそこで終わりだ。例え相手が人間兵器だとしても。
危機的な状況の中で豊穣雷冠は八重歯を見せて笑う。過去の世界で自分と渡り合えるほどの人間が目の前にいることが嬉しくてたまらない表情だ。
一本の鉄塊になったからと言って、脅威なのは変わらない。むしろ重量のある質量の個体は人間など軽く押し潰す。
雷の力で磁力を発生させ、鉄の塊をボールとして投げるように動かす。あと少しで触れる距離だったが、氷川露木は迅速な判断で離れる。
一瞬前までいた場所にコンクリートに突き刺さった鉄塊が地響きを起こす。誰かが地震かと思って外を見れば、想像を絶する光景に言葉を失くす。
そんな状況で豊穣雷冠は笑っている。氷川露木も絶命の危機だったにも関わらず笑っている。
「はは、はははははははははは!!ははははははは!!!」
「あははははははははは!!」
狂ったように笑いだす二人は命のやり取りに背筋を震わせて、心臓の奥底から零れ出る恐怖に喜んだ。
高鳴る鼓動も、日常では得られない満足感も、普段は制御している能力も、こいつ相手なら存分に体感できる。
人間兵器、火鼠小僧、お互いの肩書はもうどうでも良かった。ただ強ければいい。
ただ殺したい、それに尽きた二人は笑いながら猛攻を再開する。呆ける観衆も気にせず、思う存分に暴れ出す。
世紀の化け物対決、そんな名前がついてもおかしくない戦いは時間が増すごとに被害を大きくしていった。
夕闇が忍び寄り、溶けたコンクリートも熱されては冷えての繰り返しで鉄屑になった物質も散乱した東エリアの道路。
戦いの時間が延びるほど少しずつ距離を開けていた仁寅律音達は呆れたように呟く。
「で、あれいつ終わるのかな……停電の時間まであと少しだけど、終わるの?」
「終わった途端にどっちが死にそうな勢いで……私はある意味終わって欲しくない、です」
「お互いに見境なくなってやがるな。近隣住民の自主避難とか始まってるしな。世紀末か」
「オー、まさに強敵と書いて友と読むジャパニーズ漢ルビによるお前はもう死んでいるのセレモニーですし?」
アントニオ・セレナの言葉に対して的確にツッコミをいれる者はこの場に存在せず、ただ凜道都子だけが苦笑いしている。
仁寅律音は既に冷めた目で闘いの行く末を飽きたように眺めており、求道哲也などは哲学の本を読み始めている。
このチーム分け失敗だったのではないかと凜道都子は思いつつも言葉にせず、手に汗握りながら戦いの激化を見守る。
アントニオ・セレナにおいては少しでも変化があったら飛び出して求婚しそうな勢いなので、気が抜けない状態である。
高笑いと破壊音、粉砕されていく道路や鉄柱、悲鳴も上げずに黙々と避難して行く住人。
息を荒げた豊穣雷冠は笑顔のまま深呼吸して、避雷針のように右手の人差指を空へと向ける。
「お前と戦うのは楽しいけどさ、そろそろ限界だから、死んでくれよ?な?」
「そうだな、俺も限界だから、お前が死ね」
目的を見失った豊穣雷冠と当初の目標を頭の中から追い出した氷川露木。
お互いに笑顔のまま次の一撃で決めるため、真剣な目を敵に向ける。
嫌な予感に身を震わせた仁寅律音は躊躇なく二人に背を向けて避難を始める。
求道哲也もその判断に同意して立ち上がって距離を取る。凜道都子は戸惑ったが、アントニオ・セレナに手をひかれて連れていかれる。
太鼓が轟くような不気味な音が鳴り始める。仁寅律音は最初からもう少し離れていればよかったと後悔する。
あの馬鹿は自分達がいるのを忘れたな、と豊穣雷冠に対して舌打ちする求道哲也。
百%の未来写真、停電した街と溶けたコンクリート、その総仕上げとなる瞬間。
大地を揺らす衝撃と音、目の前が真っ白になるほどの閃光、誰もが呆気に取られるほどの落雷。
避難していた老婆は神鳴りだと恐れて、避難所である学校の体育館で空に対して念仏を唱えていた。
その体育館や学校、街中の電気類が圧倒的な電気量に対してショートし、安全装置が働いて電源を切る。
発電所も例外なく動きを止めてしまう。すぐには復旧できないほどの突然の大きな雷が市街地に落ちたのだ。
避雷針が役割を果たさなかったのかと誰かが呟いたが、そうではない。豊穣雷冠が自分の真上に落ちてくるように操った電気である。
豊穣雷冠を中心に地面の上を電気が流れた。普通の人間なら死んでしまうほどの威力。
大量の電気で埃が舞い煙が立ち込める道路の上で豊穣雷冠は勝ち誇っていた。いくら熱を操るからといって、氷川露木がこの惨状の中で生きているはずがない。
そう思っていた矢先、冷気を肌に感じると同時に悪寒が体中を走る。本能的な反射神経でその場から跳躍する。
煙の向こう側から無傷の姿で動く氷川露木が煙を凍らせながら突進してきたのだ。さすがにこれは豊穣雷冠も驚くしかなかった。
今の一撃で脳が痛み始めた豊穣雷冠。それは能力の限界を体が警告しているという合図だ。つまりは今の落雷が本当に最後の一撃だった。
しかし氷川露木はまだ最後の一撃を放っていない。今がチャンスと言わんばかりに豊穣雷冠に追い迫る。
氷には限界温度がある。しかし炎にはない。ならば全力で仕留めるにはプラスの熱と氷川露木は決める。
手の平を伸ばして跳躍から着地した豊穣雷冠に触れる手前、その手が手刀で払われる。
豊穣雷冠はまだ笑っている。ワクワクとドキドキで弾けるような笑顔を氷川露木に向ける。
人間兵器として、能力だけでなく対人戦も学んできた。光速移動に耐えるための体を作ってきた。
それを存分に奮える、しかも命がけの人助けという建前付き。止める邪魔者はどこにもいない。いるとしたら目の前で同じく笑っている氷川露木だけだ。
手を払った直後にすぐ逆立ちして伸ばしてきた腕を両足に挟み込んで捩じり飛ばす。氷川露木は抵抗しないまま飛ばされて、コンクリートの上を転がる。
もし抵抗していたら腕は折れていただろうが、氷川露木も能力だけで生きていたわけではない。
望んでいたわけではないが裏社会で活躍するために研究者達に死にたくなるほどの戦闘技術を仕込まれた。
だからこそ火鼠小僧としての伝説を造り上げ、裏社会という厳しい世界に存在を刻みこめた。
痛む腕を一瞥もせずに改めて豊穣雷冠を逃がさないため、最後の一撃に取っといた能力でコンクリートを溶かす。
円状に広げて相撲の土俵に似た線引きを作り上げ、自分の身も焼きかねない場に嬉々として乗り込む。
吹き出す汗を拭いもせずに豊穣雷冠は飛び込んできた氷川露木の右ストレートを左手で受け止めて、カウンターの右アッパーを顎に食らわせる。
脳を揺らされた氷川露木だが意識を失うことなく、アッパーした右手を左手で掴み、豊穣雷冠の両腕を塞いだ状態で膝蹴りをお返しと言わんばかりに鳩尾に叩き込む。
息を詰まらせたがすぐに呼吸を整えて豊穣雷冠は頭突きを氷川露木の胸に打ち込む。自分自身は脳を犠牲にしつつも、氷川露木の肺にダメージは与えた。
「くっ、はっ、ははは、はははははは!!!」
「あ、は、はははは!!!」
肉弾戦を始めた二人は先程と何も変わらないまま笑いながら相手を潰しに向かう。
逃げることや避けることは二の次にし、ただひたすら相手に打撃を与えて昏倒を狙う突撃一点の戦法。
事件を起こすこと、事件を止めること、それら全て忘れて二人は楽しげに戦い合う。
握り拳の骨が突き出る手の甲は血に塗れ、唇を歯で噛みきって血を流しつつも意識を保ち、軋む体を無理やりに動かしていく。
溶けていたコンクリートが冷えて黒くなり、固まった後も二人は気にせずに線引きした場内で戦う。
周りすら見えないまま、夕焼けも隠れて夜空が輝き始めて、しかし街灯が点かない薄暗い市街地の道路の上で、ただ敵だけを見据えていた。
そして氷川露木は生まれて初めて神に感謝した。最高に殺したい相手に出会わせてくれたことに。
仁寅律音達が戻ってきた時には勝負はついていた。さっきまでの笑い声や衝撃音が嘘なほど静かな終り。
豊穣雷管は仰向けに、氷川露木はうつ伏せに、お互いに頬を赤く腫らした状態で倒れていた。
「伝説的燃え尽き症候群真っ白になったぜクロスカウンター同時KOがあったようですし」
「……ま、終わって良かったということで。これ以上は二人共暴れられないでしょう」
「り、律音くん冷静だね……」
「脳筋馬鹿が二人だな。おい、起きろ雷冠」
求道哲也は豊穣雷冠に近づいて体を揺らすが反応は返って来ない。しかしかすかに寝息が聞こえる。
代わりに氷川露木が顔だけ動かして起きる。ハイテンションで騒ぎまくった五分前の自分を思い出すような顔だ。
唇は切れて酷い有様で、鼻血は当然どころが体中痣や小さな傷だらけ、常時走る痛みで動けそうにない。
顔も腫れ上がっており、元の人相も怪しいほどである。仁寅律音が見下すように眺める。
「君、実は馬鹿でしょ?熱血しちゃう馬鹿でしょ」
「戦わねぇ奴の言葉は屁みたいなもんだぜ、えーと、女子」
仁寅律音の額に青筋が浮かび、氷川露木の全身状態を改めて確認した後に、うつ伏せのまま動けない背中を足で踏みつぶす。
詰まった悲鳴を上げつつ動けないことに舌打ちし、踏みつけてきた仁寅律音を殺す勢いの目で睨む。
しかし仁寅律音の視線がそれ以上に殺気立っており、絶対零度よりも下の温度があるかもしれないと感じさせるほどの視線に思わず肩を震わせる。
凜道都子はいきなりの暴挙に出た仁寅律音を見て慌てているが、対処がわからず右往左往するだけである。
「僕は男なんだけど、何か文句ある?あったら潰す」
「うお……まじかよ」
思わず真顔になる氷川露木は仁寅律音の顔をじっくりと眺める。
しかしどう見ても美少女顔なので、これは詐欺だろうと心の中だけで呟く。
声に出したら本当に、どことは言わないが、潰されそうと脳の中では警告アラームが鳴り続けている。
なにより全ての力を出し切った後で、目の前にいるおどおどした少女にも勝てないだろうと確信していた。
指一本も動けない状態で倒れたままでいた時、左手が誰かに持ち上げられ薬指に何かが通されたのを感じ取る。
見れば仕立ての良い白スーツの美少年が氷川露木の左手の薬指に銀の指輪を着けていた。
さすがにこれは見過ごせず、鳥肌を立てながら声をかける。
「なにしてんだよ……」
「なにって契約という形で先行予約の証となる婚約指輪貫通式という儀式で」
「じゃなくって!!なんで男のお前が男の俺に指輪つけるんだよ!?しかも意味深な部位に!!」
「あ、僕はアントニオ・セレナと言いますし。とある事情からベルサイユにて輝く薔薇のごとく育てられた感じの立派な大和撫子ガールでありんす」
言葉の大半に埋められた意味不明な部分は聞き流し、ガールという部分で氷川露木は言葉を失くす。
そして仁寅律音を眺め、もう一度アントニオ・セレナを眺め、再確認と言わんばかりに仁寅律音を見る。
顔を上げる気力もなくして左手を掴み上げられたまま、頭を地面に叩きつけるように落とす。
求道哲也は横で耳だけ傾きながら、イタリア育ちが大和撫子なのは哲学的にもあり得ないだろうと冷静にツッコミをしていた。
「……と、とりあえずこれで一件落着……って、セレナちゃん何してるの?」
オチをつけようとした凜道都子だが、アントニオ・セレナがスーツケースから次々と道具を出しているのに気付き、声をかける。
そこには手錠を始めとした足枷に親指だけを縛るマニアックなものまで、さらにはベルトや赤縄に子供達はまだ知らなくてもいい道具が並べられていく。
凜道都子がこれはなんの道具だろうと手に取ったものを、仁寅律音はいつもと違う慌てた動きで奪い取って遠くに投げる。
そして顔を真っ赤にして怒鳴る。いつも淡々としている仁寅律音にしては珍しいので、凜道都子は目を丸くする。
「お、女の子が持っちゃいけないものだから、あれ!!というかなに持ってきてんのイタリア人!?」
「なにって、こちとら一族郎党だけでなくマフィアという組織全体に関わる問題ですし、逃がす訳にはいかないというビッグ任務が」
「わ、これボタン押したら変な動きを……」
「う、わぁああああああああああああ!!そ、それも女の子が持っちゃいけない道具ぅううう!というか男が持ってても嫌な物ぉおおお!!」
耳だけでなく白い首筋まで真っ赤にして仁寅律音は大声を出して、怪しい道具の一部を遠くに投げていく。
さすがにその声で目を覚ました豊穣雷冠は何事かと目を向けようとしたが、求道哲也の両手で顔を固定されて動かせなくなる。
麻呂眉を器用に動かして厳しい顔つきで求道哲也は見てはいけないと首を横に振る。
氷川露木は聞こえてくる道具が置かれる音や仁寅律音の叫び声に、なんとかこの場から逃げれないだろうかと必死になり始める。
しかし思考は動いても体は一切動かせず、ただひたすら横たわるしかなかった。
「俺をどうする気だよ、えーと、セレナ?」
「結婚から始まるめくるめくラブロマンスアリのハードボイルドアクションマフィア活劇、そして子作り的なアレですしおすし」
「…………………………………………は?」
「えーと、話せば長いんだけど彼女はね」
仁寅律音は気を落ち着かせるようにアントニオ・セレナの事情を説明していく。
聞いていく内にどんどん氷川露木の危機感は高まり、最後の火鼠小僧と結婚してマフィアのボスにすると言う段階では無理にでも体を動かそうとした。
しかし疲労した体、拘束具を持っているアントニオ・セレナ、なにより背中を踏みつけたままの仁寅律音のせいで不可能な状態だ。
アントニオ・セレナは向日葵が似合うような華やかな笑顔で、両手には縄を持ちながら告げる。
「絶対逃がしませんしのヤンデレですし」
「ヤンデレってそういう意味じゃないと思う」
「少しは真面目に喋ったらどうだ?日本語ペラペラだろう、イタリア人」
求道哲也が目を合わせないまま厳しい声音で告げる。
一瞬底冷えするような目をしたアントニオ・セレナは、その目のまま笑顔で話し始める。
「まさか今さら表に戻れるとか思ってないですよね?火鼠小僧」
「……」
「表が貴方を許しても、裏は貴方を逃がさない。それならイタリア有数の組織であるマフィアの力を後ろ盾にした方がいいと思いますし、ね?」
「……まじペラペラじゃねぇか」
「貴方を婿に迎えるため、頑張りましたですしおすし★」
アントニオ・セレナの豹変ぶりに全員が言葉を失くす。
自分以上の演技を目の当たりにして仁寅律音は敵にしたくないと心の底から恐れた。
氷川露木は深いため息をついて、声だけで降参を伝えた。一歩も動けないのは明白で、拘束具の用意もあっては逃げられない。
能力も底をつき、回復したとしてもすぐ傍にいる豊穣雷冠も同じように回復しているため、また消耗戦になるだけだ。
なにより大暴れして楽しんだせいで心残りがなにもなかった。このまま死んでもいいほどの清々しさだった。
しかし死ぬのは横で笑顔のまま眺めているアントニオ・セレナが許しそうにないと感じ取っていた。
「参った。お前達の勝ちだ」
こうして二つ目の合戦は多大な被害と疲労を残して終了を告げた。
ここもまた写真通りの光景が実現してしまい、何一つ変えることはできなかった。
だがおそらく一番好戦的な能力者である氷川露木の無力化に成功したのは大きかった。
「そういえば俺の雷どうやって避けたんだ?」
「近くにあった車の中に逃げ込んだ。ドアは溶かした」
「ああ、そうか。車には雷逃がす仕組みが組み込まれていたんだった……今度は車も壊すほどの雷出してやるぅ~」
「出すな、馬鹿」
豊穣雷冠と氷川露木の戦いのおさらいを聞いていた求道哲也は、物騒な言葉に短く制止をかける。
ただでさえ人間離れした力を持つ豊穣雷冠がこれ以上酷いことになったら、どうしようもなくなるからだ。
肉弾戦、能力戦、あらゆる戦いにおいて頼りになる人材ではあるが、やはり馬鹿な面が心配だと肩を落とすのだった。




