↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
仮の婚約者のはずですが、侯爵令息様の溺愛が本気すぎます! ~両片思いから始まる甘すぎる婚約生活~  作者: ルミ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
1/35

憧れの人と、午後のお茶会

「アマリリス嬢。私と婚約していただけませんか」

「…………え?」


目の前の男性が何をおっしゃったのか、すぐには理解できなかった。


三年間、ずっと想い続けてきた人。憧れて、遠くからお姿を見つめるだけで幸せだった人。


そんなルシアン様が、今、私に婚約を申し込んでいる。


まさか、こんな日が来るなんて。夢にも思わなかった。


けれど、このときの私はまだ知らなかったのだ。


婚約者というお役目が、あんなにも大変なものだなんて――。


◇ ◇ ◇


数日前。


「ねえ、リリス」

「はい、エレオノーラ様」

「今日はあなたとわたくし、二人だけのお茶会なのよ?そんなに他人行儀にしなくてもいいのに」


目の前で、エレオノーラ様が小さく頬を膨らませた。


エレオノーラ様は、この国の王女殿下であり、私がお仕えする大切な方だ。


私が十五歳で王女付き侍女になってから、三年。エレオノーラ様はいつも私を気にかけてくださり、こうして時折、お茶にも誘ってくださる。


けれど、いくら親しくしていただいているとはいえ、王女殿下と同じテーブルでお茶をいただくなど、恐れ多いことなのだ。


「こうしてご一緒させていただくだけでも、身に余る光栄でございます。どうかご容赦ください」

「あら、あなたって本当にそういうところが堅いわよね」


エレオノーラ様は呆れたようにため息をついたあと、楽しそうに微笑まれた。


そんな穏やかな時間を過ごしていた、そのときだった。


「エレオノーラ!」


不意に男性の声が響いた。


「あら、お兄様!」


振り返ると、そこにはこの国の王太子、アレクシス殿下がいらっしゃった。


そして、その隣には――。


……ルシアン様!


思わず胸が跳ねる。


淡い灰金色の髪に、灰緑色の瞳。すらりとした長身に、整ったお顔立ち。


王太子殿下の側近として活躍される、侯爵家のご嫡男。


ルシアン様は、私が三年間ずっと想い続けているお方だ。


……って、今はそれどころではないわ!


私は慌てて椅子から立ち上がり、深く頭を下げた。


「やあ、エレオノーラ。お茶の時間だったのかい?」

「ええ。今日はリリスと二人で楽しんでいたところですの」


エレオノーラ様が答えると、アレクシス殿下は私に視線を向けられた。


「アマリリス、エレオノーラが許しているんだから、そんなに畏まらなくていいよ」

「ですが、そういうわけには……」

「相変わらず真面目だね。なあ、ルシアン?」

「殿下。アマリリス嬢を困らせないでください」


落ち着いた、よく通る声。


……ルシアン様が、私を気遣ってくださった!


「別に困らせたつもりはないんだけどな」


アレクシス殿下は肩をすくめられた。


「お兄様、ルシアン。せっかくですもの。お二人もお茶はいかが?」

「そうだね。いただこうかな」

「私はまだ仕事が――」

「ルシアン!」


アレクシス殿下が、なぜか楽しそうにルシアン様を呼び止めた。


ルシアン様は小さく息をつくと、こちらへ向き直られる。


「アマリリス嬢。私もご一緒してよろしいでしょうか」

「……はい!」


思わず声が弾んでしまった。


だって、まさかルシアン様と同じテーブルでお茶をいただけるなんて!


「ありがとうございます」


そうおっしゃったルシアン様の表情が、ほんの少しだけ柔らかくなった気がした。


……気のせい、かしら。


ふと見ると、アレクシス殿下がなぜか楽しそうに微笑んでいらっしゃった。


一体、どうされたのだろう?


私は気を取り直し、お二人のために新しいカップを用意した。


ルシアン様の前に紅茶をお出しすると、指先が少しだけ震えてしまう。


どうしましょう。いつもどおりにしなくちゃ。


「ありがとうございます、アマリリス嬢」

「い、いえ!」


……声が裏返ってしまった。


恥ずかしい。


そっと顔を上げると、ルシアン様が優しく微笑んでいらっしゃる。そのお顔を見ただけで、胸がいっぱいになってしまった。


「ところで、アマリリス。今日のエレオノーラの予定は?」


アレクシス殿下がティーカップを手にしたまま、私に尋ねられた。


「本日は特に外出の予定もなく、午後も宮殿でお過ごしになる予定でございます」

「そうか。ありがとう」


殿下は安心したように微笑まれた。


「お兄様は、毎日お忙しそうですわね」


エレオノーラ様が心配そうにお声をかける。


「そうだね。最近は少し、面倒なことが増えていてね」

「……王政に反対する者たちのことですか?」

「エレオノーラ」


アレクシス殿下の声が、ほんの少し低くなった。


「それは僕の仕事だよ」


けれど、すぐにいつもの穏やかな笑顔に戻られる。


「お兄様は、わたくしを甘やかしすぎですわ」

「大切な妹だからね」

「わたくしだって、何かお力になりたいのに……」

「その気持ちだけで十分だよ」


エレオノーラ様は少し不満そうに唇を尖らせた。そのご様子に、私は思わず微笑んでしまう。


アレクシス殿下は、エレオノーラ様を本当に大切にしていらっしゃる。


「さて、そろそろ戻らないとね」


アレクシス殿下がティーカップを置き、席を立たれた。


「アマリリス、美味しいお茶をありがとう」

「恐れ入ります」

「それから、エレオノーラのことを頼んだよ」

「はい。お任せください、アレクシス王太子殿下」


そう答えると、殿下は満足そうに頷かれた。


「それじゃあ、ルシアン。行こうか」

「……はい、殿下」


ルシアン様も静かに席を立たれる。


そのとき、ふと私と目が合った。


「アマリリス嬢。美味しいお茶をありがとうございました」

「い、いえ!お口に合いましたなら何よりでございます」

「ええ。とても美味しかったです」


そう言って、ルシアン様は小さく微笑まれた。


……ああ、もう。


その笑顔は、反則です。


思わず頬が熱くなり、私は慌てて視線を伏せた。


「それじゃあ、またね」


アレクシス殿下は笑顔で手を振られ、エレオノーラ様も微笑みながら手を振り返された。


私は深く頭を下げ、お二人をお見送りする。


扉が閉まる音がして、ようやく顔を上げた。


……はぁ。


まさか、ルシアン様とご一緒にお茶をいただけるなんて。今日は、なんて素敵な日なのかしら。


「ふふっ。リリス、ずいぶん嬉しそうね?」

「……えっ?」


突然のお言葉に、私は慌ててエレオノーラ様へ顔を向けた。


「ルシアンとお茶ができて、そんなに嬉しかった?」

「ひ、姫様っ!」

「まあ、顔が真っ赤よ?」


エレオノーラ様は楽しそうに微笑まれる。


「そ、それは……ルシアン様はとても立派な方ですし、お仕事も素晴らしくて……」

「ええ、そうね。お顔も素晴らしいものね?」

「はい!それはもう、とても……あっ!」


しまった。思わず本音が出てしまった。


エレオノーラ様は口元に手を当て、くすくすと笑っていらっしゃる。


「ふふっ。リリスったら、本当に可愛いわ」

「もう……エレオノーラ様!」

「ごめんなさい。でも、あなたがあんまり嬉しそうだから」


そうおっしゃると、エレオノーラ様は優しく微笑まれた。


「ねえ、リリス。いつか、その気持ちを伝えてみたら?」

「……とんでもございません!」


私は慌てて首を振った。


「ルシアン様は侯爵家のご嫡男でいらっしゃいます。それに、王太子殿下の側近としてご活躍されているお方です。私などが想いをお伝えするなんて……」

「あなたも伯爵家の令嬢でしょう?」

「それは、そうですが……」


たとえ同じ貴族であっても、ルシアン様は私には遠いお方だ。


それに、女性が苦手だという噂もある。私の気持ちをお伝えして、困らせるようなことだけはしたくない。


「私は、こうして時折お姿を拝見できるだけで十分幸せなのです」


そう言って微笑むと、エレオノーラ様はなぜか少し困ったようなお顔をされた。


「……本当に、もう」

「姫様?」

「いいえ、何でもないわ」


そして、何かを思いついたように、いたずらっぽく微笑まれる。


「でも、またルシアンをお茶に誘ってもいいわよね?」

「……っ! エレオノーラ様!」


私の抗議など、どこ吹く風。


エレオノーラ様の楽しそうな笑い声が、お茶室に響いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。