第35話 第三階層への挑戦、Aランク探索者も驚く剣技
大型ロックリザードとの戦闘を終えた俺たちは、第二階層にある安全な休憩場所で身体を休めていた。
岩壁に囲まれた小さな広場には、探索者協会が設置した休憩用のベンチがある。俺は水筒の水を飲みながら、先ほどの戦闘を振り返っていた。
斬鉄剣で硬い鱗を斬ることはできたものの、予想以上に抵抗が強かった。刀身に損傷は見られなかったが、同じような相手と何度も戦えば負担が蓄積するだろう。
隣に座っていたレイナさんが、興味深そうに話しかけてきた。
「シンタさん、さっきの斬鉄剣なんですけど、どうしてあんな硬い鱗を斬れるんですか?」
俺は少し考えてから答えた。
「刃筋と身体の使い方ですね。もちろん、魔力による身体強化も使っていますけど、力任せに振っているわけじゃありません」
レイナさんは真剣な表情で頷いた。
「なるほど……。やっぱり脱力が大切なんですね」
「はい。最初から力んでいると、動きが硬くなりますから」
レイナさんは自分の右手を見つめ、軽く握ったり開いたりしていた。
「私も、もう少し力の抜き方を研究してみます!」
俺は笑みを浮かべた。
「レイナさんの双剣術なら、きっと応用できると思いますよ」
その言葉に、レイナさんは嬉しそうに笑った。
休憩を終えた俺たちは装備を確認し、第三階層へ向かうことにした。
◇ ◇ ◇
第三階層へ続く階段を下りると、周囲の景色が大きく変わった。
第二階層までの岩場とは異なり、そこには広い渓谷が広がっていた。左右には切り立った岩壁がそびえ、中央には浅い川が流れている。ところどころに巨大な岩が転がっており、足場は決してよいとは言えない。
レイナさんは周囲を見回しながら説明してくれた。
「第三階層はロックリザードの生息域です。大型個体も確認されていますから、慎重に進みましょう」
俺は頷いた。
「そうですね。特に川沿いは足を取られそうです」
俺たちは配信用ドローンの位置を調整しながら、渓谷の奥へ進んだ。
配信画面には、第三階層の景色に驚くコメントが流れている。
『景色すごいな!』
『これがB級ダンジョンの第三階層か』
『さっきの斬鉄剣、まだ興奮してる』
『次は参式が見たい!』
最後のコメントを見たレイナさんが、楽しそうに笑った。
「シンタさん、皆さん参式を期待してますね!」
俺は苦笑した。
「必要な場面があれば使いますけど、無理に披露する技ではないですからね」
「ふふっ、分かってます。でも私もちょっと見てみたいです!」
「レイナさんまで……」
思わずそう呟くと、コメント欄が笑いで埋まった。
◇ ◇ ◇
第三階層を進み始めて二十分ほど経った頃、俺は前方の岩陰に気配を感じた。
「レイナさん、前方に二体います」
レイナさんもすぐに足を止めた。
「ロックリザードですね。どうします?」
岩陰から姿を現したのは、全長二メートルほどのロックリザード二体だった。先ほどの大型個体ほどではないが、硬い鱗と鋭い爪を備えている。
俺は周囲の地形を確認した。
「一体ずつ担当しましょう。ただ、川に近づきすぎないように」
レイナさんは双剣を抜いて頷いた。
「了解です!」
二体のロックリザードが低い唸り声を上げ、こちらへ向かってきた。
俺は刀を抜き、右側の一体へ踏み込んだ。
ロックリザードが鋭い爪を振り下ろす。
俺は半身になって攻撃をかわし、そのまま前脚の関節へ刀を突き出した。
「右片手平突き・壱式」
鋭い突きが鱗の隙間を捉え、ロックリザードが体勢を崩した。
しかし、相手はすぐに尾を振り回してきた。
俺は後方へ跳ぶのではなく、相手の身体に沿って横へ移動した。
尾の攻撃範囲から外れたところで、刀を振り下ろす。
「斬鉄剣」
正確に刃筋を合わせた一撃が、ロックリザードの首元を斬り裂いた。
巨体が地面へ倒れ、動かなくなる。
一方、レイナさんも見事な動きで戦っていた。
左手の剣で爪を受け流し、右手の剣で関節を斬りつける。相手が体勢を崩したところへ、双剣による連続攻撃を加えていた。
「これで終わりです!」
最後の一撃が急所を捉え、二体目のロックリザードも倒れた。
レイナさんは双剣を下ろし、俺へ笑顔を向けた。
「シンタさん、やっぱり斬鉄剣はすごいですね!」
俺は刀を確認しながら答えた。
「ありがとうございます。でも、レイナさんの攻撃も無駄がなくて綺麗でしたよ」
レイナさんは少し照れたように笑った。
「そう言ってもらえると嬉しいです!」
◇ ◇ ◇
素材を回収した俺たちは、さらに渓谷の奥へ進んだ。
しばらくすると、川幅が広くなり、周囲の岩壁も高くなってきた。
俺は足元の石を確認しながら歩いていたが、突然、前方から大きな水音が響いた。
レイナさんも足を止めた。
「……今の音、何でしょう?」
俺は前方へ視線を向けた。
川の向こう側にある大きな岩の陰から、巨大な影が動いた。
姿を現したのは、先ほど戦った個体よりもさらに大きなロックリザードだった。
全長は五メートル近くあるだろうか。
背中の鱗は黒みを帯び、頭部には岩のような突起が生えている。
レイナさんは表情を引き締めた。
「……大型個体ですね。それも、かなり成長しています」
俺は静かに頷いた。
「正面から戦うのは危険そうですね」
巨大なロックリザードは俺たちを見つけると、低い咆哮を上げた。
そして、太い尾を振り回しながら川へ踏み込んできた。
水しぶきが上がり、周囲の岩が震える。
俺は刀を構え、相手の動きを観察した。
巨体の割に動きは速い。さらに、川の中では足場が悪く、こちらの機動力が制限される。
無理に近づくべきではないだろう。
「レイナさん、まずは岸まで誘導しましょう。川の中では戦いにくいです」
レイナさんは頷いた。
「了解です! 私が注意を引きつけます!」
しかし、レイナさんが動き出すより早く、ロックリザードが巨大な尾を振り上げた。
その狙いは、俺たちの立っている岩場だった。
「レイナさん、下がって!」
俺の声と同時に、巨大な尾が岩場へ叩きつけられた。
轟音とともに岩が砕け、大小の破片が飛び散る。
俺たちは左右へ跳んで回避したが、その直後、ロックリザードが大きく口を開いた。
鋭い牙が並ぶ口から、低い咆哮が響く。
そして、巨体が一気にこちらへ突進してきた。
俺は地面を蹴り、相手の側面へ回り込もうとした。
しかし、その瞬間、ロックリザードが予想外の動きを見せた。
巨大な前脚を岩に掛け、身体を持ち上げたのだ。
そのまま上半身を大きく振り上げ、こちらへ覆いかぶさるように迫ってくる。
俺は相手の動きを見極めながら、静かに息を吐いた。
「……なるほど。そう来るか」
頭上から迫る巨大な顎。
通常の回避では、背後の岩壁に追い込まれる可能性がある。
ならば、上へ抜けるしかない。
俺は刀を水平に構え、両脚へ魔力を集中させた。
右片手平突き・参式。
これまで配信では一度も披露していない、対空迎撃を想定した突き技。
俺は地面を強く蹴り、迫り来る巨獣へ向かって跳躍した。
その瞬間、配信画面のコメント欄が一気に加速した。
『えっ!?』
『シンタさん、跳んだ!?』
『まさか……!』
『参式くるううう!?』
レイナさんも驚いたように目を見開いた。
「シンタさん、それって……!」
俺は空中で身体の軸を整え、刀の切っ先をロックリザードの喉元へ向けた。
「右片手平突き――」
巨獣の咆哮が渓谷に響く。
そして、俺は全身の力を刀へ伝えた。
「――参式!」
鋭い突きが、空中で一直線に放たれた。
これまで視聴者の前では一度も見せていなかった技が、ついに披露されたのだった。




